ホットショット(精鋭部隊)とは“消防界のネイビーシールズ”。山火事が発生するや否や、即行で現場に急行し、鍛え上げられた肉体と消火技術を駆使し、延焼を食い止める選りすぐられた森林消防隊のことだ。
「オンリー・ザ・ブレイブ」は、アメリカのアリゾナ州、プレスコット市に実在する20人のホットショットの、文字通り命がけの消火活動を事実に基づき映画化したデザスタームービーであり、同時にヒューマンドラマでもある。
燃える木々を鉈で伐採する消火隊
まずは、デザスター(大惨事)な理由。消防隊に山火事発生の一報が入る。即座にチームリーダーが火災現場近辺の天候を確認し、火災がどの方向へ燃え広がるのかを予測。
その報告に従い、消防員たちはチェーンソーや鉈を手に持ち、すでに燃えている木々を伐採し延焼を食い止める。時には、まだ燃えてない木にあえて火を放ち、空間を作ることでやはり延焼を防ごうとする。
しかし、一旦発生した山火事は風向きの変化によって方向を変え、時には線ではなく円を描いて燃え広がっていく。そうなると、消防隊員たちはいつしか火の海(森なのに海のようだ)に投げ出され、孤立し、あらゆる手段を尽くしても逃げ切れなくなる。
火災は縦より横に燃え広がるのが怖い
まさにデザスター。かつて、高層ビル火災を描いたこのジャンルの金字塔「タワーリング・インフェルノ」(1974年)では、地上138階建てのビルが“火の塔”と化し、逃げ遅れた人々の断末魔を描いて映画ファンの度肝を抜いた。
しかし、「オンリー・ザ・ブレイブ」は違う。広大なアメリカの大地が一気に焼土と化す中、逃げ切れそうで逃げ切れない恐怖とジレンマを、消防隊員の目線で描いている分より説得力がある。横に広がる火災ほど、エンドレスで怖いものはないのだ。
これを観た後は、近年頻発するアメリカ西海岸の森林火災ニュースを見る目が変わるはずだ。消化剤や水をピンポイントでまき散らす空からの消火活動が場合によってはいかに役立たずで、大地で鉈を振り下ろす彼らファイアーマンたちの消火活動が、いかに山火事では有効かを知ってしまった後では。
消防隊員たちには愛する家族がいる
当然、消防隊員たちには愛する家族がいる。彼らは出動命令が下る度に、最愛の夫や恋人と再会できないかも知れない覚悟を以て、現場へと送り出している。
この物語が事実をベースにしているだけに、よく用いられる“命がけ”というキーワードが胸に深く刺さる。故に、ヒューマンドラマなのだ。
ホットショットの指揮官、マーシュにはハリウッド切っての無頼派、ジョシュ・ブローリン、新米消防士、マクドナウには「セッション」(2014年)の青年ドラマー、マイルズ・テラー、マーシュの妻、アマンダにはオスカー女優のジェニファー・コネリー。
その他、劇中にはマッチョなファイアーマンたちが上半身裸で戯れるシーンも用意されている。そう、これはあの9.11以降、大惨事の救世主として崇められ、その鍛え抜かれたホディが並んだカレンダーが世界各地でベストセールスを記録する、消防士ブームにも少し乗っかった感がなくもない1作。デザスターでヒューマンでマッチョと3拍子揃った今夏の話題作である。
【作品情報】
「オンリー・ザ・ブレイブ」
6月22日(金)TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
配給:ギャガ
公式ホームページ:https://gaga.ne.jp/otb/
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