就労条件などのルールが記載された会社の「就業規則」を確認している人は少ないのではないでしょうか。
特に転職する際には、この就業規則をしっかりと把握しておかないとトラブルを起こしてしまいかねません。
本記事では、転職活動をトラブルなく進めるために知っておきたい、就業規則の内容や注意点について解説します。
- そもそも就業規則とは?
- 就業規則はなぜ必要なのか
- 就業規則に規定すべき内容
そもそも就業規則とは?
「そもそも就業規則ってなに?」と思っている人もいるのではないでしょうか。
以下では、基本的な就業規則の意味や内容をご紹介します。就業規則をよく知らないという人はぜひ参考にしてください。
就業規則の意味と内容
就業規則は、労働者と使用者の間で定めたルールブックのことです。主に基本的な労働条件や、会社の服務規程などが記載されていて、会社と労働者全員の包括契約ともいわれています。
労使間で共通の規範を持つことで、企業のルールを労働者に共有できること。また、労働者が業務に集中し、生産性が向上するというメリットがあります。
「平等な労働条件を保つためのルール」としての役割も果たしているといえます。
就業規則とは
- 労働者と使用者の間で定めたルールブック
- 主に基本的な労働条件や、会社の服務規程などが記載されている
就業規則には「作成と届出」「意見書提出」の義務がある
就業規則は、雇用形態を問わず10人以上の労働者がいる場合は作成し、行政官庁に届け出ることが労働基準法で定められています。
就業規則を作成していないと、「会社のルールが一部にしか共有されていなかった」「知らないうちに、規約違反だと言われてしまった」などといったトラブルが起きる可能性があります。
労働者にとっても企業にとっても、思わぬ不利益が出てしまわないようにするためにも、就業規則は重要です。
就業規則が知らないことで起こるトラブル例
- 退職日を会社側の都合で決められてしまう
- 会社が退職を認めてくれない
- 退職金が支払われなかったり、不当に減額される
また、労働基準法に違反した場合は、会社は30万円以下の罰金が科されます。届け出は所轄の労働基準監督署に行いますが、その際に労働組合による「意見書」を添付しなければなりません。
これらは「労働基準法第90条」で義務付けられており、労働組合がない場合には、労働者の過半数の代表者が意見書を提出する決まりになっています。
就業規則における「作成と届出」と「意見書提出」の義務
- 雇用形態を問わず10人以上の労働者がいる場合
もしも、会社に10人以上の労働者がいるにも関わらず就業規則が作成されていない場合は、労働基準法に違反しているため、速やかに作成する必要があります。
就業規則はなぜ必要なのか
初めて従業規則の存在を知った人や、就業規則をきちんと読んだことがない人もいるのではないでしょうか。
以下では、なぜ就業規則は必要なのかについてご紹介します。就業規則に必要性を感じたことがない人も、自分にとって就業規則が大切なことをわかるのではないでしょうか。
就業規則の意義1.働きやすい環境を整っていると示すため
就業規則の1つ目の意義は、働きやすい環境を整っていると示すためです。
昨今では従業員による労働基準監督署への訴えにより、賃金や労働時間に関する問題が表面化することが多くなりました。
賃金や労働時間の問題は、経営者と従業員の権利関係があいまいであるが故に起きてしまいます。
「ブラック企業」に対する社会の目も厳しくなっているため、労使間の権利関係を明確にすることで、従業員が安心して働ける環境作りが求められるようになりました。
就業規則によって明確なルールを会社全体で共有できることにより、柔軟に新しい価値観に沿っていること、そして従業員にとって働きやすい職場環境を整っていることを示せます。
就業規則の意義2.トラブルを回避するため
就業規則の2つ目の意義は、トラブルを回避するためです。
残業代の未払いや退職にともなう不手際などで、経営者と従業員の間でトラブルが起こることもあるのではないでしょうか。
「言った」「言わない」の水掛け論になってしまうと、トラブルが長引いたり、場合によっては裁判になったりと、お互いに消耗してしまいます。
トラブルをめぐる細かい状況まで想定された就業規則を定めることで、解決のための無駄な時間や労力をなくせます。
また、労働者に不利益な対応が取られたときには、「就業規則に書いてあるから」という理由で経営者側の間違いを訂正できることもあります。
就業規則は、労働者も企業も守ってくれるものなのです。
就業規則の意義3.経営者・労働者の満足度・安心感を上げるため
就業規則の3つ目の意義は、経営者・労働者の満足度・安心感を上げるためです。
就業規則は、会社をよりよいものにするために経営者の考え方を反映させる必要があります。経営者の考え方を設計図として、従業員と共に企業を育てていくのです。
もちろん、考え方を反映させるからといって、経営者の独断で就業規則(ルール)を好き勝手に作っていいというわけではありません。
会社の実態に合わせつつ、従業員が安心でき、働く意欲を上昇させられるような工夫も必要です。最も理想的な就業規則は、明確で先見性があり、かつ経営者も従業員も満足できるようなものでしょう。
就業規則を明確に定めることで、「明確なルールで守られている」と従業員の安心感にも繋がります。
会社をさらに拡大させるためには、その規模を見越した整備の他、法律の改正や新設にも柔軟に対応する必要があるといえるでしょう。
就業規則が必要な理由
- 働きやすい環境を整っていると示すため
- トラブルを回避するため
- 経営者・労働者の満足度・安心感を上げるため
就業規則に規定すべき内容
就業規則には、法律上記載しなければならない事項があり、必ず記載する必要のある絶対的記載事項と、必要に応じて記載しなければばらない相対的記載事項に分かれます。
また、法律で定められた記載事項以外にも、任意記載事項として実際に明確にしなければならない事項は数多くあります。
以下では、就業規則に規定すべき内容についてご紹介します。
就業規則の内容1.絶対的記載事項
就業規則の1つ目の内容は、絶対的記載事項です。
以下の3つの事項が絶対的記載事項です。以下の事項が自分の就業規則にあるのかを確認してみましょう。
①勤務時間と休憩・休日に関すること
始業・終業時刻や休憩の時間・休日・休暇の定めはもちろん、シフト制勤務の場合、それらに関する取り決めを記載します。
②給料の支払いについて
賃金の決定・計算方法とその締め日・支払日・昇給に関する取り決めをここで記載します。ボーナスなどの臨時の賃金はここでは記載しなくても問題ありません。
③退職に関すること
退職時の扱い・解雇をする場合の事由、つまり理由や根拠を定めます。これらを明確に従業員に周知することでトラブルを未然に防がなければなりません。
就業規則の絶対的記載事項
- 1.勤務時間と休憩・休日について
- 2.給料の支払いについて
- 3.退職について
就業規則の内容2.相対的記載事項
就業規則の2つ目の内容は、相対的記載事項です。相対的記載事項は以下の7つです。退職金や安全に関することなど大切なルールがあります。
①退職の手当てに関すること
退職金の計算方法や適用の範囲・支払いの方法や時期に関することをここで定めます。退職の扱いとは違い、絶対に記載しなければならないというわけではありません。
②臨時の賃金・最低賃金に関すること
ボーナスなどの臨時の賃金、最低賃金に関する事項はここで記載されます。
③食費・作業用品の負担に関する事項
労働者の食費や作業用品の負担に関する取り決めを行う場合に定めます。
④安全・衛生に関すること
会社の安全や衛生面に関するルールを規定します。
⑤職業訓練に関すること
新人の研修を中心とした職業訓練の内容やその訓練事項を定めます。
⑥災害補償・業務外の傷病扶助に関すること
労災など、勤務中の災害に対する補償・勤務外の傷病(入院など)に対する補償の内容などを定めます。
⑦表彰・制裁に関すること
表彰の制度がある場合はその種類(長期勤続など)と、減給などの制裁を行う基準をここで定めます。
就業規則の相対的記載事項
- 1.退職の手当てに関すること
- 2.臨時の賃金・最低賃金に関すること
- 3.食費・作業用品の負担に関する事項
- 4.安全・衛生に関すること
- 5.職業訓練に関すること
- 6.災害補償・業務外の傷病扶助に関すること
- 7.表彰・制裁に関すること
- 8.その他、全労働者に適用される事項
就業規則の内容3.おもな任意記載事項
就業規則の3つ目の内容は、おもな任意記載事項です。副業に関することやセクハラに関することが、任意記載事項とされて掲載されるケースが多いもの。
以下では、主な任意記載事項について紹介します。
①服務規程
上記以外に、労働者が遵守すべき職場内でのルールを定めます。
②副業に関すること
一般のサラリーマンの副業は法律では禁じられておらず、会社ごとの裁量に委ねられます。
社員の副業を禁止する場合は、任意記載事項として定めることができます。
③就業規則の制定の趣旨
就業規則の制定の趣旨を会社が独自に定める場合、任意記載事項として記載されます。
④機密漏洩に関する規定
会社の機密事項の取り扱いや、漏洩した場合の措置に関する規定を定めます。
⑤企業の理念など
就業規則の根本精神などを表すために企業理念を記載することがあります。これも任意記載事項のひとつです。
⑥適用に関する規定
就業規則が適用される労働者の範囲を規定することができます。
⑦パワーハラスメントに関する規定
「セクハラ」「パワハラ」といったパワーハラスメントに対してどのような処置をとるかを規定することができます。
とくに近年では、パワーハラスメントにが社会問題化していることから、これらの規定の必要性が高まっています。
就業規則の任意記載事項
- 1.服務規程
- 2.副業に関すること
- 3.就業規則の制定の趣旨
- 4.機密漏洩に関する規定
- 5.企業の理念など
- 6.適用に関する規定
- 7.パワーハラスメントに関する規定
就業規則の例
厚生労働省東京労働局の公式サイトでは、就業規則の作成例が公開されています。
ここで引用されているのはあくまで作成例であるため、各企業によって内容が異なるということに注意してください。以下では、就業規則の例をご紹介します。
就業規則の例1.勤務時間・休憩・休日に関する規定の例
就業規則の1つ目の例は、勤務時間・休憩・休日に関する規定の例です。
就業規則の例2.退職に関する規定の例
就業規則の2つ目の例は、退職に関する規定の例です。
就業規則の例3.解雇の事由に関する規定の例
就業規則の3つ目の例は、解雇の事由に関する規定の例です。
就業規則の例4.退職金の支払いに関する規定例
就業規則の4つ目の例は、退職金の支払いに関する規定例です。
就業規則の変更と意見書
就業規則を変更する際、その作業は5つのステップに分けられます。就業規則を変えたい・会社のルールを変更したいという人は、ぜひ参考にしてください。
就業規則を変更するための5つのステップ
- 1.就業規則に加える変更について、検討・決定する
- 2.代表取締役社長や取締役会など、就業規則の変更の権限を持つ人の決裁を受ける
- 3.決裁を受けた変更内容について労働者の過半数が加入する労働組合に意見を聞く。つまり従業員代表に意見を聞かなければならない。労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する人が意見を聞く
- 4.変更内容についての意見を「意見書」としてまとめてもらう
- 5.意見書、変更後就業規則、就業規則変更届を所轄労働基準監督署長に提出する
ステップ3以降では、従業員から変更に関する意見を聞いた上で、それをまとめた「意見書」の作成義務について定めています。作成時だけではなく、変更をする際にも従業員による意見書が必要です。
意見書を求めるのは、従業員の権利を保護するだけでなく、労使間のトラブルを未然に防ぐ意義があります。
就業規則の周知義務
今まで就業規則を知らなかったけど大切なことはわかったという人もいるのではないでしょうか。
実は、就業規則には周知義務があります。以下では、就業規則の周知義務や就業規則を知らないと起こるトラブルについてご紹介します。
周知を徹底しないと就業規則は効力を発揮しない
労働基準法の第106条には、就業規則は労働者に周知させる義務があるということが定められています。広く知らせるための努力をしなければならないことが労働基準法で決められているということです。
社内の秩序は、それぞれが規則を守り、安心して働ける環境が整うことで作られます。こうした環境を整備するためには、会社側が就業規則の周知を徹底しなければなりません。
周知徹底をした上で社員が規則違反をした場合に、初めて罰則が適用できます。
逆に会社側が周知義務を怠った場合、社員が規則違反をしたとしても罰則の効力が裁判で取り消されてしまう場合もあります。
就業規則の具体的な周知方法も定められている
具体的な周知の方法は、労働基準法施行規則第52条において次の3つのように定められています。
- 1.常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 2.書面を労働者に交付すること
- 3.磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置するこ
これらの具体的な例としては、「入社時に書面で配布したり、掲示板に掲示する・書面をPCでいつでも見られるようにする」といった方法があります。
今まで社内掲示板をよく見ていなかった人や、入社時にもらったものをよく読んでいなかった人はもう一度意識して配布物や掲示物を見てみましょう。
従業員が就業規則を知らないと起こるトラブル
転職をする際にもっとも起こりやすいのが「退職時のトラブル」です。
よくあるトラブルの例は、就業規則を把握しておくことで避けられます。
そのため転職をしたいと思っている人は、現在勤めている会社の就業規則を確認することを強くおすすめします。
就業規則によるトラブル1.退職日を会社側の都合で決められてしまう
就業規則によるありがちな1つ目のトラブルは、退職日を会社側の都合で決められてしまうことです。
自己都合による退職は、「希望する日の1ヵ月前に申し出る」と定める会社が多くあります。
円満退職をするためにも、会社が定めた退職ルールを把握した上で、遵守を心がけるのが望ましいでしょう。
また、有給休暇の日程を確認し、その消化と両立できるようなタイミングで退職日を設定するのも円満退職のマナーです。
会社が定めたルールを把握せずに退職準備を進めてしまうと、後にトラブルを引き起こしてしまうおそれがあるため注意が必要です。
就業規則のルール外でどうしても退職を速やかに行う必要がある場合は、上司に相談するようにしましょう。
就業規則によるトラブル2.会社が退職を認めてくれない
就業規則によるありがちな2つ目のトラブルは、会社が退職を認めてくれないことです。
手順を守って退職手続きを進めていても、会社側から「退職は認めない」と言われ退職が困難になるような状況も想定されます。
こうしたトラブルを解決するには、規則で定められた権利を把握し、主張することが重要です。
万が一そのような状況に陥った場合、行政機関である労働基準監督署に相談をすることで解決に結びつくケースもあるため、自分だけで解決できない場合は行政機関を頼ることをおすすめします。
就業規則によるトラブル3.退職金が支払われなかったり、不当に減額されたりする
就業規則によるありがちな3つ目のトラブルは、退職金が支払われなかったり、不当に減額されたりすることです。
退職をする場合、退職金制度に関する事項もチェックしておかなければいけません。会社の恣意的な判断により不当な処遇を受けてしまうことがあるからです。
退職金は支給が義務付けられていないため、就業規則に退職金の規定があるのかどうかを調べる必要があります。
企業によっては別途「退職金規定」を定めている場合もあるため、確認を怠らないよう心がけてください。
退職金に関する規定がある場合は、自身の退職金を試算した上で人事部の担当者に確認してみましょう。
退職金に関する規定がない場合でも、過去に支給されている慣例があれば、これに基づいて請求することができるケースもあります。この場合、支給されている慣例が確立したものであるかどうかを明らかにしなければならないため、注意が必要です。
就業規則が知らないことで起こるトラブル例
- 1.退職日を会社側の都合で決められてしまう
- 2.会社が退職を認めてくれない
- 3.退職金が支払われなかったり、不当に減額される
同業他社への転職には特に注意!就業規則は転職前に必ず確認する
企業によっては、「退職後の競業避止義務」について規定を定めている場合があります。
同業の会社に転職を希望する際は、あらかじめ上記のような規定がないか、ある場合はどのように規定されているかを確認しましょう。
転職先がライバル会社の際に、情報漏洩で訴えられてしまう可能性があるためです。
上記のようなトラブルによる裁判の判例では、「情報漏洩などのトラブルを避けるためには、会社側が競業行為を制限するための避止義務を、就業規則や誓約書で明確化する必要がある」としています。
この際、会社側は「制限期間」「制限する職業の範囲」「制限に対する代償(制限の代償として退職金の増額を行うなどの措置)」に合理性があるかどうかを検討しなければなりません。
ただし、競業が禁止されていたとしても、日本国憲法の第22条1項で保障されている「職業選択の自由」が優先されるため、退職金の減額といったような不当な措置はできないようになっています。
転職後にトラブルが起きることを避けるためにも、必ず確認しておくようにしましょう。
就業規則の注意点
- 「退職後の競業避止義務」を定める場合がある
就職・転職前には就業規則をよく確認しよう
- 就業規則は労働者と使用者間で定めたルールブックのこと
- 就業規則には周知義務がある
- 就業規則を知らないことでトラブルが起きることもある
就業規則には、あらゆるトラブルを避け、労働者の権利を明確にするためのさまざまな規定が定められています。
転職に限らず、労働者は就業規則について積極的に把握しておきましょう。就業規則を把握することは、一労働者としての権利を主張するのはもちろん、転職者にとって「トラブルのないスムーズな転職活動」を行なうための一助になるはずです。
会社によって就業規則は違うため、同じ分野の会社に転職する際にも就業規則を確認しておきましょう。
本記事を参考に、自分の会社の就業規則を調べてみてはいかがでしょうか。
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