会社を退職したときにもらえる退職金。「退職金制度」は、退職後の生活を支える資金源としての役割を担っています。
近年では退職金制度を採用する企業が減少傾向にあるため、転職をする場合には退職金についての考慮することも必要です。
本記事では、退職金制度の種類や内容、転職する前に知っておきたい退職金事情についてご紹介します。
- そもそも、退職金制度とは?
- 退職金制度の種類
- 退職したらいくらもらえるの?退職金の相場・平均額
そもそも、退職金制度とは?
「退職したらお金がもらえる」のように退職金制度に対して漠然とした知識を持っている人も多いのではないでしょうか。
まずは、退職金制度とは何かについて詳しくご紹介します。
「退職金」とは、退職した労働者が企業から受け取る給与のことです。
毎月支払われる通常の給与とは性質が異なっており、退職金は、「資産」としての役割りが強くなっています。
例えば、定年退職の場合は老後の生活資金、転職を考えているのなら準備資金といった使い方をします。
退職金制度は法律上「義務」ではない
退職金は必ずもらえると思っている人もいるかもしれませんが、実は、民間企業において、退職金を支払うことは法律で決められていません。
そのため、退職金制度を採用するか否かは企業の判断に委ねられており、退職者に必ずしも退職金を支払う必要はないのです。
企業によって採用している退職金制度は異なるため、勤務先や希望の転職先が採用している制度をしっかりを把握しておく必要があります。
- 退職金:退職した労働者が企業から受け取る給与
- 退職金制度は法律上の義務ではない
退職金制度の種類
退職金制度があるかないか、またどのような種類の退職金があるのかは、会社によって違います。
以下では、退職金の種類について解説します。自分の会社がどのような制度なのか確認してみてください。
退職金制度の種類1.「退職一時金制度」と「企業年金制度」
退職金制度は大きく2種類に分けられます。
まず、もっとも代表的な制度のひとつが「退職一時金制度」です。もう1つの代表的な制度が「企業年金制度」です。
まずは、「退職一時金制度」についてご紹介します。
退職一時金制度は、退職者に対し退職時に一括払いで支払われるのが特徴です。優遇措置が働き、ほとんど税金がとられないというメリットがあります。
一方、企業年金制度は、社員に対し企業が「年金」という形で支払う制度です。
退職一時金との大きな違いは、長期的に継続して退職者に退職金が支払われることです。
【退職金制度の意味】退職一時金制度と企業年金制度
- 退職一時金制度:退職者に対し退職時に一括払いで支払われる
- 企業年金制度:社員に対し、企業が「年金」という形で支払う
退職金制度の種類2.「確定給付企業年金」
企業年金制度はさらに細かく分けられます。「確定給付企業年金」と以下に紹介する「確定拠出年金」の2種類です。
「確定給付企業年金」の特徴は、各企業が独自に設定する企業年金であり、退職者が退職時に受け取る給付額を設定できるという点です。
設定した給付額を得るために、企業が資金を運用するといった形態を取っています。
企業が資金の運営をするため、掛け金は会社の経費となり、資金運用による税金も取られません。
また、仮に勤め先が倒産したとしても、確定給付企業年金として積み立てた資金は影響を受けません。
しっかりと資金が守られ、退職者に支払われる仕組みとなっています。
退職金制度の種類3.「確定拠出年金」
退職金制度の3つ目の種類は、確定拠出年金です。
「確定拠出年金」は、アメリカの制度を参考にして2001年から始まった比較的新しい制度です。
特徴は給付額を設定せず、掛け金を先に設定できる点です。
確定給付企業年金のように、会社が責任を持って社員に退職金を支払うことは保証されておらず、自分で運用する必要があります。
運用の仕方次第では退職金を増やすことも可能であるため、資金の運用方法が重要です。
【退職金制度の意味】確定給付企業年金と確定拠出年金
- 確定給付企業年金:各企業が独自に設定する企業年金であり、退職者が退職時に受け取る給付額を設定できる
- 確定拠出年金:給付額を設定せず、掛け金を先に設定できる
退職金制度の種類4.前払い退職金制度
退職金制度の4つ目の種類は、前払い退職金制度です。
前払い退職金制度は、毎月の給与やボーナスに上乗せして支払われる退職金です。
毎月の給与を貰うたびに退職金が支払われることになるため、従来の退職金制度が持つ「長期雇用の促進」という目的からは離れてしまいます。
このことから、前払い退職金制度は「老後の蓄え」としてではなく、スキルアップや新しい経験を促す意味合いが強い特徴があります。
【退職金制度の意味】前払い退職金制度
- 毎月の給与やボーナスに上乗せして支払われる退職金
退職金制度の種類5.中小企業退職金共済
退職金制度の5つ目の種類は、中小企業退職金共済です。
中小企業退職金共済は中退共(独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)が運営している制度です。
「国が掛け金の一部を助成してくれる」「掛け金が非課税」「退職者の口座に直接退職金が振り込まれる」といったメリットがあります。
【退職金制度の意味】中小企業退職金共済
- 中退共(独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部)が運営している制度
企業によってどの退職金制度を使用しているかは異なるので、退職することになったのなら、詳しく調べてみましょう。
退職金を受け取るために必要な勤続年数
退職金は会社を入ってすぐに辞めた場合は、貰えることはほぼありません。
退職金の支払い条件は企業に委ねられているが、「東京都産業労働局」の調査によると、多くの企業は以下のような回答になりました。
上記の調査から、退職金を受け取るためには3年以上の勤務が必要とされる企業が多いことがわかります。
退職して転職活動をする場合、転職期間中の生活費など多少の費用が必要となるでしょう。
転職を考えている場合は「退職金が支払われる条件やタイミング」などを考慮してください。
退職金制度が適応される勤続年数とは
- 多くの企業が3年の勤務を基準としている
退職したらいくらもらえるの?退職金の相場・平均額
退職金がいくらもらえるかに関心を寄せている人も多いのではないでしょうか。
以下では、退職金の相場・平均金額を定年退職の場合や自己都合での退職の場合などそれぞれのパターンに分けてご紹介します。
学歴・退職理由によって退職金の額は異なる
東京都産業労働局が発表している「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」による、学歴別の退職金支払い額をご紹介します。
このモデルケースは高校・大学を卒業後すぐに勤務した場合の退職金としています。
勤続年数10年、かつ自己都合の場合は高卒で91万円、大卒で114万円とあまり大きな差はありません。
ただ15年、20年となるとその差は顕著に表れはじめます。とくに、20年時には高卒298万円、大卒380万円と約100万円もの差が出てしまうところがポイントです。
会社都合の際は勤続年数10年、高卒122万円、大卒152万円とすでに約30万円の差が開きはじめ、30年時には高卒704万円、大卒856万円、と約150万円の差が出ます。
以上のことから、退職金を考慮した転職を行う場合、自身がどの条件にあてはまるのかを確認する必要があるといえます。
【例】退職理由と退職金制度のモデル適用額
- 勤続年数10年かつ自己都合の場合:高卒91万円・大卒で114万円
- 勤続年数20年かつ自己都合の場合:高卒298万円・大卒380万円
- 勤続年数10年かつ会社都合の場合:高卒122万円・大卒152万円
- 勤続年数20年かつ会社都合の場合:高卒704万円・大卒856万円
定年退職の場合
定年まで働き続けた場合の退職金の平均金額をご紹介します。
厚労省によって発表された「就労条件総合調査結果の概要(平成30年)」によると、定年退職の場合も学歴によって退職金に大きく差が出ています。
勤続20年以上かつ45歳以上の退職で、定年退職の場合は、高卒の場合1159万、大卒の場合だと、1618万円です。
また、大卒でも、管理職や技術職の場合の退職金の平均金額は、1985万円です。
自己都合での退職の場合
最後に自己都合での退職の場合の退職金の平均金額をご紹介します。
勤務歴3年の場合、大卒では約23万、高卒では約18万が平均的な退職金の金額です。
勤務歴が5年になると、大卒では約44万、高卒では約35万と2年の差で2倍もの退職金をもらえます。
勤務歴が20年になると、大卒では約122万、高卒では約90万となります。
会社に入社する理由は、スキルアップなのか、定年まで働くのかなどを考えて、退職金のことを調べてみてはいかがでしょうか。
退職金に税金はかかるが「退職所得控除」を受けられる
退職金にも所得税がかかりますが、「退職所得控除(たいしょくしょとくこうじょ)」という制度を受けることで、かかる税金を少なくできます。
「退職所得控除」とは、勤務年数によって収める税金を少なくする制度です。
退職所得控除を受けるためには、「退職所得受給に関する報告書」というものを会社に提出する必要があります。
退職所得控除は、勤務年数が二十年以下の場合は、40万円×勤続年数で計算できます。勤務年数が二十年を超えると、800万円+70万円×(勤続年数-20年)で退職所得控除が計算できます。
「源泉徴収前の収入金額」から「退職所得控除額」を引いたものを半分に割ったものが、課税対象となります。退職所得控除を受けるとかなりの額が非課税対象になります。
退職金には税金がかかるけれど、退職所得控除をされてある程度税金控除されることを覚えておくといいでしょう。
退職金制度の変遷と現状
退職金制度は昔と今では変化しています。
以下では、退職金制度の変遷と現状について詳しくご紹介します。
退職金制度のある企業は約75%!4人に1人は退職金を受け取れていない
現在、退職金制度を採用する会社が減少傾向にあります。その背景として考えられるのが「雇用形態の変化」と「成果主義」の採用です。
成果主義はその名の通り仕事の功績や貢献度をより重視し、何か結果を残す度に社員を評価する考え方です。
例えば、先述の「前払い退職金制度」は成果主義を反映した給与の支払い方です。
給与やボーナスを支払う際に社員の功績を評価し、通常支払われる基本給に評価分の金額が退職前払金として上乗せされます。
また、厚生労働省の平成27年就労条件総合調査結果の概況によると
上記のように「退職金給付制度がある企業」は75.5%となり、約4人に1人は退職金を受け取れていないことが読み取れます。
評価制度の変遷により、退職金が持つ役割りそのものが変わりつつあるのです。
退職金制度がないとどうなる?
公益財団法人生命保険センターが平成28年に発表した「生命保障に関する調査」によると「老後の最低日常生活費」は毎月22万円という算出になっています。
仮に65歳で定年退職し85歳までの人生設計をした場合、1年で264万円、85歳までの20年間で5,280万円という金額が必要になります。
年金のように多少の資金源は確保できますが、上記はあくまで「日常生活」に必要な金額です。
退職金の有無は将来設計を考える上で大事な要素になるため、転職を考える際は考慮する必要があるといえるでしょう。
退職金制度は成果主義の採用により減少しています。
転職活動の際は、給与、自分の能力が活かせるか、会社の雰囲は合うかなどに目が行きがちですが、「退職金制度の有無」も重要な判断要素となります。
本記事で紹介したように、退職金制度は今後も時流に合わせて変化してくことが予想されます。
キャリアプランにそった転職を成功させるためにも、退職金制度についての理解を深めた上で転職に挑戦していきましょう。
自社の退職金制度について確認しておこう
- 退職金とは、退職した労働者が企業から受け取る給与
- 退職金を受け取るためには最低3年以上の勤務を必要とする会社が多い
- 学歴・退職理由によって退職金の額は異なる
本記事では、退職金について詳しくご紹介しました。
退職金制度が思ったよりたくさんあって驚いた人も多いのではないでしょうか。
自分の会社の退職金制度を調べて、将来のために備えてみてはいかがでしょうか。
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