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西田宗千佳のトレンドノート:2つで十分…じゃない!増え続ける「スマホのカメラセンサー」事情

西田宗千佳

2018/05/31(最終更新日:2018/05/31)


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 スマートフォンに搭載されるカメラの数は増え続けている。今年のハイエンドスマホは2つもしくは3つのカメラを搭載するようになっている。だが、その使い方はメーカーによってまちまちであり、撮影可能な写真も異なる。

「スマホに搭載されるカメラ」という観点から、今年のスマホの状況を分析してみよう。

今年のスマホは感度が一眼レフに並んだ

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「HUAWEI P20 Pro HW-01K」

 今年のスマホの中で、「カメラ」という意味で圧倒的な注目を集めているのは、ファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」だろう。日本向けにはNTTドコモが独占的に扱い、「HW-01K」として販売する。

 この製品、海外ではすでに販売済みなのだが、カメラに関する評判がきわめて高い。メインのカメラとして、「3つのカメラ」を搭載していることだ。2015年以降ファーウェイは2つのカメラを搭載しており、片方を明度情報用のモノクロ、片方を色情報を得るカラーのセンサー……という組み合わせだった。それが今年は、望遠・標準の2つのカラーセンサーとモノクロセンサーを併用するという「3センサー」体制になった。

 特に画質に大きく寄与しているのは、標準撮影用のセンサーが、一般的にスマホに使われる3分の1インチ(約0.33インチ)よりも大きな1.7分の1インチ(約0.58インチ)に大きくなっていることだ。これは、一般的なコンパクトデジカメに使われる2.3分の1インチ(約4.3インチ)よりも大きい。大きいセンサーを使っているとそれだけ光を多く集められるため、明暗・色ともに忠実な再現が可能になる。

 一方で、望遠用とモノクロ用には4.5分の1インチ(約0.22インチ)と小さいセンサーを使っている。これらはそこまで巨大なセンサーである必要がないからだ。

 結果的に、P20 ProはISO感度が「102400」という、とんでもない値になった。ISO感度は暗さに対する強さを示すものだが、一般的な一眼レフデジカメを超える。スマホではもちろんトップだ。闇夜でほとんど明かりがないようなシーンであっても撮影できる。

「暗いところに強いカメラ」としてファーウェイと真っ向勝負をすることになったのがソニーだ。NTTドコモから夏以降に発売される「Xperia XZ2 Premium」は、静止画でのISO感度が51200、動画でのISO感度が12800となっている。

 P20 Proに比べ低いように思えるが、注目は「動画」だ。P20 Proは静止画でのISO感度は高いものの、動画はそこまで高くない。Xperia XZ2 Premiumは動画ではスマホとしては最高のISO感度を誇り、「暗いところでも自然な動画が撮影できる」ことをウリとしている。

スマホの画像は「ソフト」から生まれる

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「Xperia XZ2 Premium」

 高感度をウリにするP20 ProとXperia XZ2 Premiumだが、センサーの数は異なる。P20 Proは3つのセンサーを使っているが、Xperia XZ2 Premiumは「2つ」だ。

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 ソニーはこれまで、カメラに使うセンサーの数を、かたくなに「1つ」としてきたが、今回初めて「2つ」にした。ソニーも、色情報向けのカラーと明度情報のモノクロ、という2つのカメラの組み合わせである。

 2つのカメラを使うスマホは多いが、多くの場合、「広角」と「望遠」という使い分けだ。iPhoneはその代表格であり、サムスンの「Galaxy S9+」も、広角と望遠の2つのカメラの組み合わせである。

 実は、P20 Pro・Xperia XZ2 Proのような「カラー+モノクロ」の組み合わせによるスマートフォンと、iPhoneに代表される「広角+望遠」の組み合わせによるスマートフォンでは、カメラに対する考え方がかなり異なる。

「広角+望遠」という使い分けの場合には、写真を撮影する場合、センサーは「距離」や「ズームの設定」で切り替わる。2つのセンサーの映像は内部で合成して使われる場合もあるが、そういう使い方は例外的で、「ひとつのセンサーから得た映像を処理してカメラの映像にする」のが基本である。

 それに対して「カラー+モノクロ」の場合には、そもそも2つ以上のセンサーから得た映像をソフトウエア的に処理しないと、1枚の映像にならない。映像を撮影する際に、複数の性質の違うセンサーの映像を合成することが前提となったカメラなのだ。しかもP20 Proの場合、望遠のためのセンサーもあるので、その画像も「合成」して作られている。

 そもそも、スマホとデジタルカメラの違いは、「大規模なソフトウエア処理を行うことを前提に開発ができるか」という点にある。スマホには巨大なレンズを搭載できない代わりに、ソフトウエアを処理する余力があるからこそ、小さいレンズとセンサーでもきれいな写真が撮影できるのだ。「広角+望遠」のスマホでも合成処理は行われており、「カラー+モノクロ」のスマホのほうがソフト処理の比率が高い……と思えばいい。

 合成し、ソフト処理で映像を作るというと、どことなく不安を覚える人もいそうだが、そもそもスマホの写真はセンサーとともに「ソフトが命」だったのだ。iPhoneのカメラの画質が良い、といわれるのも、センサーの性能以上に、アップルが行うソフトウエア処理に依る部分が大きい。スマホのカメラが増えていくのは、「ソフトで処理をするカメラ」であるスマホの特質を表したもの、といえるのだ。

スマホのセンサーはまだまだ増える?

 このことは、スマホメーカー以上に、スマホのカメラに向けてセンサーを開発している企業の側が強く意識している。スマホ向けセンサーのトップメーカーであるソニーで、R&Dプラットフォーム担当執行副社長だった鈴木智行氏は、2016年、「将来の見通しとして、スマートフォンには5つ以上のカメラセンサーモジュールが搭載されることになるだろう」と予想を語った。

 その内訳は「メインカメラとして2つないしは3つ、インカメラに顔認識システム用も含めて2つ」という想定だった。この読みはズバリあたり、2018年のスマホには表と裏で4つから5つのセンサーが搭載されるようになっている。2年という時間は、センサーやスマホの企画開発が始まり、実際に市場に出るまでの時間に近い。要はあの発言は、「予測」でありつつも、近未来を見据えて進む開発の様子をそのまま語ったものだったのだ。

 昔のスマホは、携帯電話に色々なデバイスを寄せ集めたような作りだった。しかし今は、「スマホの特性」を意識した上で、その特性を最大限に活用できるよう、センサーやソフトウエアの開発が行われる時代。これからも、画質向上やユーザーインターフェース向上を目的に、スマホにはさまざまなセンサーが搭載されるはずだ。なぜなら「カメラ」としてでなく、顔の認識や立体認識など、映像を作るためのものでないものも増えていきそうだからだ。

 スマホのカメラは2つ・3つが基本になっていくかもしれないが、スマホにはさらに「見えないカメラセンサー」が増えると考えられているのである。


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