日本が舞台のストップモーションアニメ「犬ヶ島」。「鬼ヶ島」ではなく。このどこかニセモノ臭いタイトルの映画の舞台は、近未来のメガ崎市。川崎市ではなく。
監督はラコステ、フィラ、ヴィトン好き
とまあ、エセ日本要素を挙げればきりがないのだが、監督のウェス・アンダーソンはハリウッドでも希有な美意識の持ち主。
かつて、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001年)ではフィラやラコステなどのスポーツブランドをリアルクローズに用い、スポーツウェアのタウン化に拍車をかけ、「ダージリン急行」(2007年)ではオリジナルの旅行ケースをわざわざルイ・ヴィトンに特注し、前作「グランド・ブタペスト・ホテル」(2014年)では世界的パティシェリー、MENDL'Sのお菓子ケースを物語の道具に使うなど、いつも作品の中におしゃれなキーアイテムを仕込むことで知られている。
そして、実は日本好きな監督
そのロジックで行くと、「犬ヶ島」は“監督流の日本”ということになる。「黒澤明や宮崎駿など、日本の巨匠たちから強いインスピレーションを受けて作った」と本人がコメントしているように、描かれるのは天才のセンスを媒介にして作り出されるユニークなジャパンカルチャーの数々だ。
さて、物語は。今から20年後のメガ崎市では犬のインフルエンザ、ドッグ病が蔓延し、パンデミックを恐れた小林市長はすべての犬を犬ヶ島に隔離してしまう。そこで、市長の養子で孤児の少年、アタリが愛犬で親友のスポッツを見つけ出すため、飛行機で犬ヶ島に乗り込み、島で出会った個性的な5匹の犬たちと協力し、愛犬探索に着手する。
メガ崎市の舞台では、黒澤映画(「乱」?)に登場したような白髪の武将が能を舞い、相撲取りが押し合い、バックには「七人の侍」(これはなんとホンモノ)の音楽が流れる。犬ヶ島はまるで東京湾の埋め立て地みたいだ。寿司屋で振る舞われるにぎりはネタの上にわさびが乗っかっている。
センスがあるから許容できるフェイクジャパン
以上、矢継ぎ早に登場する描写は、あくまで、アンダーソンがイメージする日本である。でも、多くのハリウッド映画が犯しがちな無知による不快な間違いではなく、すべてが高い美意識と技術に裏打ちされているから許せてしまう。
むしろ、日本人の目にはどこかコミカルに映るし、同時に、アタリと隔離された犬たちに強いシンパシーすら感じてしまうのだ。
それは、強引な政策を推し進めようとする権力の暴走と、それに対抗しようとする個人と犬という構図が、巧まずして、現実の日本を連想させるからではないだろうか。
総勢670人のスタッフがパペット作りに参加
ストップモーションアニメの制作はとても手間のかかる作業だ。主役の人形たちを少しずつ動かしながらコマ撮りしなければならないからだ。本作の場合、各々受け持ちが異なる合計670人のスタッフが関わり、制作日数は実に4年にも及んでいる。
結果、完成したのが、鍛え上げられた逆三角形ボディに白いスーツ(ロンドンのサビルロウで修業したテイラーがデザイン)を貼り付け、まるで独裁者のように犬隔離宣言をぶち上げる小林市長や、淋しげな表情で愛犬との再会を目指すアタリ、そして、アタリに恋するメガ崎高校の新聞部部員、トレイシーなど、表情に性格が宿るメインキャラたちだ。
それら、人形=パペットの完成度と、美しい背景と、少しだけスパイシーなテーマと、笑えるフェイクジャパンが1つの作品にぎっしりと詰まった「犬ヶ島」。ウェス・アンダーソン・ファンやストップモーションアニメ好きは勿論、日本を客観視しながら笑い、しんみりしたい人に是非おすすめしたい。
【作品情報】
「犬ヶ島」
5月25日(金) 全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式ホームページ:https://www.foxmovies-jp.com/inugashima/
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