「レジリエンス(resilience)」という言葉を知っているだろうか。
英語で「はね返り」「弾力」などという意味のレジリエンスはポジティブ心理学として、世界中で研究が進んでいる。
今回は、挫折したとき、心がポキっと折れてしまったときにあなたを回復させる「レジリエンス」の意味と鍛え方について解説したい。
「レジリエンス」の意味とは?
レジリエンス=さまざまな環境・状況にも適応して生き延びる力
元来は物理学などで使われる専門用語であった「レジリエンス」。
最近では「さまざまな環境・状況にも適応して生き延びる力」という意味で、心理学や社会システム論、組織論などの分野でも用いられている。
レジリエンスは「鋼の心」ではなく「やわらかくて弾力性のある心」
レジリエンスとは、決して「鋼の心」のことではない。落ち込んだり、挫折したり、心がポキっと折れてしまったりしたとき、また回復する力のことである。
モノに例えるなら、鉄や鋼ではなく、「マシュマロ」や「低反発クッション」のようなものだ。
「レジリエンス」が注目されたきっかけは“東日本大震災”
今から10年以上前から研究されているという「レジリエンス」。
日本で注目されたのは、2011年3月11日に起きた“東日本大震災”がきっかけであった。
津波、原発事故、大規模停電など、地震によってさまざまな被害を受けてもなお、暴動などを起こさずにひたむきに復興するさまは、まさに「強靭なレジリエンスを持つ国」といえるだろう。
テロや震災、戦争後の国の対応を辿っていくと、国家としてレジリエンスを高めることは、国民を守ることに繋がるということがわかる。
ビジネスパーソンに“レジリエンス”が必要な理由
では、ビジネスパーソンはレジリエンスを高める必要はあるのだろうか?
ビジネスパーソンがレジリエンスを高める必要性について考えてみよう。
「レジリエンス」を高める必要がある理由とは?
さまざまな環境・状況に適応して生き延びる能力である「レジリエンス」だが、その能力の中には複合的な要素が含まれている。
レジリエンスを構成する要素は以下の5つだ。
レジリエンスを構成する5つの要素
- 自尊感情
- 自制心、感情のコントロール
- 楽観性
- 人間関係、ポジティブな社会制度
- 自己効力感
これらの要素はいずれも、ビジネスパーソンが健康的に仕事を行うために必要な基礎能力である。
メンタルヘルスの予防やチームマネジメントを成功させるためにも、ビジネスパーソンとしてレジリエンスを高める必要があるのだ。
レジリエンスを高めることで「人間力」を身につける
ビジネスシーンで長きに渡って必要とされ続けている「ロジカルシンキング(論理的思考)」。
売上や利益を生み出す必要がある企業にとってロジカルシンキングは欠かせない能力の一つであるが、知識中心になってしまうと「人間力」が軽視されてしまう。
しかし、ロボットやAIなどがますます進化していく社会において、「人間力」はますます重要になっていく能力だ。
そんな人間力の一つとして考えられているのが、「レジリエンス」である。
これからの社会を生き抜くビジネスパーソンとして、レジリエンスを高めることは大いに意義があるのだ。
レジリエンスを高めるために知っておきたい「5つの要素」
レジリエンスを高める方法を解説する前に、先に紹介したレジリエンスを構成する5つの要素について説明していこう。
レジリエンスを構成する要素①:自尊感情
レジリエンスを構成する要素の1つ目である「自尊感情」。
自尊感情とは、自分には価値があり尊敬されるべき人間であると思える感情のことだ。
自尊感情が高いと、勉強や仕事で困難に出会っても粘り強く努力することができる。また、対人関係においても他人からの賞賛や批判に左右されず、感情が安定しているといわれている。
どんなビジネスパーソンであれ、ストレスを感じるときや挫折することは多少なりともあるだろう。
そんなときに備えてレジリエンスを高めておくと、ストレスを感じても「もうだめだ」「自分には無理なんだ」「できっこない」と放棄しなくなる。
仕事を中途半端に投げ出してしまったり、何度も転職を繰り返してしまったり、という事態を避けることにつながるのだ。
レジリエンスを構成する要素②:自制心、感情のコントロール
レジリエンスを構成する要素の2つ目である「自制心、感情のコントロール」。
自分自身の感情や欲求などをうまく抑えたり、コントロールしたりする気持ちや精神力のことである自制心は、大人として備えておくべき要素だ。
自制心を備えている人は、心と頭の両方を使って冷静に意思決定することができる。
また、機嫌の良し悪しやモチベーションなどをコントロールすることができるため、常に安定した成果を出すこと、人当たりのいいコミュニケーションをとることが可能になる。
レジリエンスを構成する要素③:楽観性
レジリエンスを構成する要素の3つ目である「楽観性」。
ビジネスシーンにおいて「悲観的な視点」と「楽観的な視点」はどちらも必要不可欠である。
悲観的な人物は物事を慎重に進める傾向があるため、あらゆるリスクなどを精査しながら仕事進めることができる。
しかし、あまりに慎重にやりすぎてしまうと、なかなか仕事が進まなくなってしまうものだ。
レジリエンスが高い人がチームにいると、「なんとかなる!」という楽観的な考え方で現状を打破する行動を起こす。
現状を悲観せずに、楽観的に考えて物事に取り組む能力は、プロジェクトを進めるために必要不可欠なものなのだ。
レジリエンスを構成する要素④:人間関係、ポジティブな社会制度
レジリエンスを構成する要素の4つ目である「人間関係、ポジティブな社会制度」。
ここでいうポジティブな社会制度とは「家族」「コミュニティ」「組織」のこと。
逆境に見舞われたとき、家族や友人、仲間、恋人など、支えてくれたり話を聞いてくれたりする人がいることで立ち直ることができる。
つまり、信頼できる人間関係を築くことは、レジリエンスを高める上で非常に重要な意味があるのだ。
レジリエンスを構成する要素⑤:自己効力感
レジリエンスを構成する要素の5つ目である「自己効力感」。
カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」とは、自分が行うことに“効力がある”と信じられる感情のことだ。
「きっとこの目標を達成することができる」など、簡単にいえば「やればできる」とう自信があることをいう。
自己効力感がある人は、うまくいかない場面において「ダメかもしれない」とひるんだり諦めたりせず、継続して行動することができる。
逆境に打ち勝てば、それが新たな行動のモチベーションとなり、継続して意欲的な働きをすることができるようになるのだ。
レジリエンスを鍛える方法
レジリエンスを鍛えるためには、レジリエンスを構成するそれぞれの要素を身に着けていく必要がある。
レジリエンスを構成する「自尊感情」「自制心」「楽観性」「人間関係」「自己効力感」を身につける方法を見ていこう。
レジリエンスを鍛える前に知っておきたい「立ち直るための3ステップ」
レジリエンスを構成する各要素を身につけるためにも、まずは落ち込んでから立ち直るまでの経緯をチェックしておこう。
ポジティブ心理学の第一人者であるイローナ・ボニウェル博士は、レジリエンスによる心の回復には3ステージあると提唱している。
レジリエンスで心を回復させるための「3ステージ」
- 第1ステージ:「底打ち」
- 第2ステージ:「立ち直り」
- 第3ステージ:「教訓化」
ボニウェル博士によると、レジリエンスの力が働くのは「ネガティブな感情の許容範囲を超えたとき」といわれている。
ネガティブな感情や自分の役に立たない思い込みを手放す“防御機能”として、レジリエンスが作動するのだ。
第2ステージ「元の心理状態に戻る段階」では、自己効力感や自尊感情、人間関係などが関係してくる。レジリエンスを構成する3要素を活用し、元の心理状態に戻っていくのだ。
第3ステージ「困難からの回復を教訓とする段階」では、立ち直れたことを周囲に感謝するなど、ポジティブな感情を意識することができるようになる。
心に余裕がある段階であるため、第3ステージでは「底打ち→立ち直り」の体験を教訓として心に刻むことが可能なのだ。
3つのステージを繰り返すことで、精神的回復力、つまりはレジリエンスを高めていくことができる。
レジリエンスの鍛え方①:「自尊感情」「自己効力感」を身につける方法
「自分には価値がある」と思える自尊感情と、「やればできる」と思える自己効力感は、ネガティブな思い込みがあると身につかない。
ネガティブな考え方にはまってしまったときは、以下の7つの思考をしていないかどうかを自問自答してみよう。
ネガティブな思い込み7つ
- 減点思考 「私には向いていない」「ほかの人の方が上手だ」
- べき思考 「それはこうあるべきだ」「それはやるべきことじゃない」
- 悲観思考 「どうせ悪いことが起きる」「簡単にうまくいくわけがない」
- 無力思考 「私では学歴が低すぎる」「規則があるから無理だ」
- 自責思考 「失敗したら自分のせいだ」「失敗したら恥ずかしい」
- 他責思考 「うまくいかないのは他人のせいだ」「私のせいじゃない」
- 無責思考 「私には関係ないことだ」「最初から興味ないし」
ネガティブな思い込みや思考の癖を自覚することが、ポジティブな自尊感情と自己効力感を身につけるための第一歩なのだ。
レジリエンスの鍛え方②:「自制心」を身につける方法
理性的な思考の邪魔をすると考えられがちな「感情」。
しかし、ピーター・サロベイとジョン・D・メイヤーという2人の心理学研究者によると「感情は思考を方向づける役割を果たす」と結論づけている。
感情を使いこなすために必要な感情能力が以下の4つだ。
「自制心」を身につけるための4つの感情能力
-
①感情の識別:人が感じている感情と自分の感情を正確に「識別」「認識」する能力
【訓練方法】「いま、どんな感情ですか」と自問自答する習慣をつけて、感情を瞬時に回答できるくらい平静な状態にする -
②感情の利用:問題解決や課題達成するための行動をとれる感情の状態にする能力
【訓練方法】負担に感じる仕事を任されたら「その仕事で喜ぶ人」を思い浮かべるなど、物事の見方を変える -
③感情の理解:変化や出来事に対して、どのように自分が反応するか「理解」する能力
【訓練方法】好きな人には関わりたくなるが、嫌いな人は遠ざけたくなる。結婚や転職などの大きな転機には喜びと希望、不安がつきまとうもの。など、あらゆる出来事における感情の特性を知る -
④感情の調整・管理:他者の感情にアプローチするために自分の感情を調整したり、コントロールしたりする能力
【訓練方法】“気分”や“モチベーション”には明確な理由がないことを理解し、望ましい結果は何か?どんな行動をとれるか?などを考えた上で意思決定をする
レジリエンスの鍛え方③:「楽観性」を身につける方法
レジリエンスが低い人の傾向として「白黒思考」「破滅思考」などをする人が多い。
これらは、不安な落ち込みにつながる“イラショナルビリーフ”と呼ばれるものである。
現実的で前向きな考え方、逆境を成長の糧とする考え方である“ラショナルビリーフ”に書き換えることが、レジリエンスを鍛えるために必要なのだ。
よくあるイラショナルビリーフ3つ
- 絶対〜なければならない:「絶対に成功しなければならない」などの信念は、「〜であるに越したことはない」「〜もいいが、〜もいい」といった考え方に変える
- 破滅思考:思い通りにいかないときに「もうおしまいだ」と考えてしまうこと。「今は最悪だが、これから先もう少しましなことが起こるだろう」と考える
- 白黒思考:白黒つけたがり、極端な言い回しをしてしまうこと。「絶対に嫌われた」「不可能」「必ず〜〜しなくてはならない」などの白黒つける言い回しに気をつける
上記のような考え方をしていないかを自問自答し、極端な言い回しを避け、個人の幸せにつながるような楽観的なモノの見方をしてみよう。
レジリエンスの鍛え方④:「人間関係」を築く方法
レジリエンスの第2段階において必要な「人間関係」。
ここでいう人間関係とは、意見をはっきり主張しあえて、お互いのキャラクターを理解できているような関係のことである。
はっきりと自分の意見を主張でき、自分のキャラクターを理解してくれている相手からは、的確なアドバイスをもらいやすい。
そういった人間関係を築くためにも「自分の意見をはっきり主張すること」「自分のキャラクターを人に広めること」の2点を意識して、人付き合いしてみよう。
信頼・相談できる「人間関係」を築くためのコツ
- 自分の意見をはっきり主張すること
- 自分のキャラクターを人に広めること
情報やツール、世界情勢など、社会とは変化の激しいものである。
そんな変化の激しい社会の中で、あらゆる環境に適応したり精神的に回復したりするレジリエンスは、多くの人に求められるようになってきている能力だ。
まだまだ社会で戦い続けていく若手ビジネスパーソンは、ぜひ本記事で紹介した方法でレジリエンスを鍛えて、逆境を耐え抜いた経験を教訓にして、一歩ずつ大人の階段を登っていってほしい。
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