新しい画像ファイルフォーマット「HEIF」が、今年大きく普及する。いや、実際には、スマホを使っている人の何割かは、すでに使っている。
そして、2018年中には多くの人がもっているデジタル機器のほとんどで利用可能になる。アップルのiOS・GoogleのAndroid・マイクロソフトのWindowsが、揃って対応を完了するからだ。狙いは、普及しきったフォーマットである「JPEG」を置き換えることだ。
今回は改めて、JPEGからHEIFへの移行について説明してみたい。
写真の容量が半分に、iOS11はすでに採用
HEIFは「High Efficiency Image File Format」の略で、日本語訳すれば「高効率イメージフォーマット」である。JEPGよりも圧縮効率が良く、見た目にはまったく違いを感じられないにもかかわらず、ファイルのサイズはおおむね半分から70%程度小さくなる。
冒頭で述べたように、HEIFは「いまから出てくるフォーマット」ではない。すでに日常的に使っているが、そのことにあまり気付いていない人も多いのが実情なのだ。
最初にHEIFを採用したのはアップルである。昨年秋に公開されたiOSの最新バージョン「iOS11」では、カメラが写真を記録するための標準フォーマットとして、これまでのJPEGではなくHIEF(拡張子は.heic)に変わった。このため、iOS11を搭載したiPhoneやiPadでは、従来に比べ、おおむね倍の容量の写真を記録できるようになっている。
だが、そのことに人々はあまり気付いていない。なぜかといえば、現状、HEIFはiOSの中でしか使われていないからだ。画像ファイルの形式が変わると、当然読み込めなくなる。
しかし、それでは不便なので、iOSの側が、PCに接続した時やHEIF非対応のアプリに写真を受け渡す時、自動的に「JPEGに変換する」という処理をしているからである。iOSの「写真」アプリの設定には、「MACまたはPCに転送」という項目があり、ここは標準設定では「自動」になっている。
iOS11の「写真」アプリの設定には、HEIFで保存した写真をどう扱うか、という設定項目がある。通常は「自動」を選んでおこう。自動だと、ファイルは「JPEG形式」に見えて、コピーすればもちろんJPEG形式のファイルとして扱える。
しかし、「元のフォーマットのまま」だと、PCからは「拡張子がHEICのファイル(HEIFフォーマット)」に見える。2018年3月現在、WindowsはHIEFを標準サポートしていないので、ファイルを見るには特別なアプリをインストールする必要がある。
ちなみに、マックはmacOSの最新バージョンである「High Sierra」にて、HIEFに標準対応しており、閲覧が可能だ。
もちろんこれだけで完璧なわけではない。フォトストレージなどのスマホを直接つないで使う周辺機器の場合、iOS11が備えている「JPEGへ自動変換して読み取る」機能がうまく働かない場合もあり、機器側でHIEFへの対応が必要な場合もある。
例えばバッファローの「おもいでばこ」は、iOS11公開後、HIEFファイルの閲覧と蓄積にも対応している。ただ、こうした例はまだ少なく、周辺機器のHEIF対応は遅れ気味である。そこが問題になる場合、iOS11側での撮影時の記録フォーマットをJPEGに設定しておくのが望ましい。
狙いは「容量削減」と「新しい写真の可能性」拡大
HEIFにいち早く対応したiOSは、わざわざ内部でJPEGに変換することで、他機種や周辺機器、過去のOSとの互換性を保っている。HEIFはアップルの独自規格ではなく、国際標準規格である。そのため、主要なOSではほどなくサポートされることになっている。
Androidは、今年後半にも登場予定の次期バージョン「Android P(仮称)」から標準でサポートされ、Windowsは、現在テスト中で、やはり今秋に予定されている無料メジャーアップデート(通称Red Stone 5)にて、標準サポートが行われる。iOSは他社よりもはやくサポートを始めるために、わざわざ互換性を維持する機能を搭載しているわけだ。
ここで疑問がある。
写真や画像のフォーマットとして、JPEGは広く使われている。登場から25年以上が経過した古いフォーマットだが、「JPEGでは困る」と思っている人は意外なほど少ないはずだ。
ファイルのサイズが半分になる=倍の写真を保存できるようになる、と言われれば確かにうれしいが、現状、「すでに半分の容量になっている」ことを意識している人の方が少ないはずで、「面倒をかけてまで、急いでJPEGから移行すべきなのか」という考えも浮かんでくる。
実はHEIFへの移行は、ユーザーへの利便性以上に、メーカー側の事情が大きなものでもある。
理由は2つある。
1つは、「クラウド」との関係だ。アップルは標準のクラウドサービスとして「iCloud」を運営している。アップル製品を使っていれば無料で使える。写真はiCloudに自動的にアップロードされ、安全な保存や他人との共有が行える仕組みになっている。
こうしたクラウドサービスでは「転送データ量」がコストに大きく影響する。利用者が増えれば増えるほど、積極的に使えば使うほど、iCloudとの間のデータ転送量は増える。これを抑えることは、アップルの運営コストに大きな影響がある。写真のファイルサイズ削減は、個人の通信費が削減できるだけでなく、アップルにとっても経費削減になる。
2つ目の理由は、「写真の高度化」に必要だからだ。
今の写真は、意外と制約の多いものである。表現できる色空間や明るさには制限があり、立体として表現することもできない。ピントや明るさ、色合いは「固定された」もので、後から変更できない。我々は「写真とはそういうものだ」と思っている。だが、デジタルデータにおいて、写真にはもっと大きな可能性がある。
HEIFは、性質がJEPGとは異なるフォーマットだ。正確には、「コンテナ」と呼ばれる、データを格納する形式のフォーマットである。その中で、どういう圧縮を使うのか、どういうデータを使うのかによって、本当の性質が変わる。現在のHEIFは、「HEVCという圧縮方式を使った画像ファイルを収納した、拡張子HEICのファイルコンテナ」といった方が正しい。
すなわち最終的には、「複数のデータを活かした立体写真」「輝度や色が既存の写真より豊かな広帯域写真」「連続写真」など、様々な写真形式が、HEIFの中に組み込まれる可能性がある。これから、スマホに搭載されるセンサーは数が増え、機能も多彩になる。そこから撮影できる写真も、いままでより多彩な機能を持つものになるだろう。
だとすると、「単なる静止画」では価値を活かせなくなる。その時を考え、各社はHEIFというフォーマットを作り、OSに搭載しようとしているのである。アップルはOSとハード、クラウドサービスを1社で提供しているがゆえに、他社よりも移行準備を勧めやすい。だからこそ、アップルは他社より先にHIEF採用に動いたのだ。
Googleやマイクロソフトは、同じような発想を持ちつつも、多数のメーカーがパートナーであるため、早急な導入を避け、2018年にOSに組み込む。特にAndroidについては、最新のOSが機器に組み込まれるまでにはかなりのタイムラグがあり、一般的になるのは2019年後半だろう。
とはいえ、現状、HEIFを採用するカメラはスマートフォンが中心だ。一般的なデジカメは、しばらくJPEG(もしくは圧縮しないRAW形式)のまま使われる。人々が写真をやりとりする時に使うのも、JPEGが中心になるはずである。
だとすれば、容量削減を超える特別な機能が搭載されるまで、HEIFは「使われはするが、多くの人があまり意識しないフォーマット」のままであり、主流はJPEGのままと予想される。
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