ロシアが海外で過激な諜報活動を行っていることは、過去の事例から見ても明白だろう。
3月5日には、英国西部ソールズベリーの商業施設で、英国諜報部MI6に協力していた元ロシア人スパイのセルゲイ・スクリパリ氏(66歳)が、神経剤を投与されて重体に陥ったと、英国政府が発表したばかりだ。
また、2010年にはもっと世界を驚かせる事件が発覚した。ロシアの指示によりアメリカで諜報活動を行ったとして拘束された11人の中に含まれていたアンナ・チャップマン容疑者が、“美しすぎる女スパイ”として話題になったのだ。驚くべきは、チャップマン容疑者がアメリカにある不動産会社のCEOという役職を巧みに利用して、多くの要人たちをハニートラップによって操っていたこと。
そもそもハニートラップの意味は?
ハニートラップ。ターゲットを誘惑し、性的関係を利用して機密情報を手に入れるスパイの世界では伝統的な手法である。
そのハニートラップがテーマの犯罪サスペンス映画が「レッド・スパロー」だ。
バレリーナとして輝ける未来がありながら、仲間の裏切りによって夢を絶たれたロシア人女性、ドミニカ・エゴロワ。失意のどん底にいた彼女に手を差し伸べたのは、ロシア情報庁で幹部を務める叔父のワーニャだった。ワーニャによってスパイ養成学校へと送られたドミニカは、そこで標的を誘惑し、心理をコントロールする術を身に付けて行く。
入学当初から、その類い稀な美貌と自らを客観視する才能に秀でていたドミニカは、早速、情報庁の上層部に潜むアメリカとの内通者を特定するため、CIA捜査官のネイト・ナッシュに接触。得意のハニートラップを仕掛けるが、やがて2人の関係は双方の思惑とは異なる複雑なものになって行く。
主演女優ジェニファー・ローレンスの挑戦
この映画のためにコンビを組んだのは、「ハンガー・ゲーム」シリーズ3作(2013年~)でコラボしている監督のフランシス・ローレンスと主演のジェニファー・ローレンス。
監督から「彼女を想定してストーリーを構築した」と告白されたジェニファーは、冒頭のバレエシーンを演じるための肉体改造は勿論、ハニートラップの極意を会得する場面では、キャリア初のフルヌードにも挑戦。
女スパイ=スパローの心得である、1.ターゲットの欲望を見抜け、2.自らのすべてを使いターゲットを堕とせ、3.心を捨て国家のために道具となれ。の3項目を的確に実践していくプロセスは、オスカー女優ジェニファー・ローレンスならではの“押しの強さ”が前面に出て、観客の目を釘付けにする。
国家のための道具だったはずのスパローが、果たして、内通者をどう嗅ぎ分け、祖国ロシアと敵国アメリカの間をどう泳ぎ、ナッシュとの関係をどう解決し、どんな着地点を見出すのか?終始刺激的な展開の後に訪れる、恐らく誰も予測できない衝撃の結末は、スパイ映画としても、女性映画としても秀逸。ハニートラップを主軸にしたストーリー自体が持つ説得力は、特に際立っている。
原作者は元スパイだったジェイソン・マシューズ
それもそのはず。映画のベースになっているベストセラー小説の原作者ジェイソン・マシューズは、33年間に渡りCIAで工作員として活動した元スパイ。現場を知る人物ならではの情報戦争の実態と、今まで描かれなかった裏テクニックが、本作のスリルとリアリティに貢献していることは間違いない。
例えば、このジャンルのパイオニアとも言うべき「007」シリーズとも、以前このコラムでも紹介した同じ女スパイが主人公の「アトミック・ブロンド」(2017年)とも違う、女性の肉体に特化した新スパイ映画。それが「レッド・スパロー」なのだ。
【作品情報】
「レッド・スパロー」
3月30日(金)全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
公式ホームページ:https://www.foxmovies-jp.com/redsparrow/
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう