自分が経験したことのない職業に対して、云々言うのはあまりよろしくないと思うのだけど、店員さんの動向が気になる。
美容師さんの「今日はお休みですか?」トークが苦手説は、すでに世の中に出尽くしているし、洋服屋で同じ服を3秒見つめた瞬間の「ご試着もできますので気軽にお声掛けください」は、試着できない服屋の方がイレギュラーなんだから「今日は試着室が何者かに破壊されててご試着ができないんです」みたいな場合のみ声かけてくれと思うし、キャバクラ嬢への「彼氏いるの?」は、職業上「いない」と答えるのが鉄則であるが「気づいたら1年半いません」「先々月別れたばっかりで」「彼氏はいないけど好きかもしれない人はいます」みたいな“恋愛には興味あるけど今は相手が不足している”のをいかに伝えるか大喜利みたいだ。ってなんの話だ。
私たちは日常的に世間話をする。いわば人類みな、世間話のプロである。なので、形式ばった適当な会話はつい気になってしまい、ちょっと悲しいな、ちょっと面倒だな、みたいな気持ちになってしまう。
すみません、最初から突拍子のない話をしてしまいましたが、ここでは高円寺の好きな場所を紹介させていただいています。世の中にはさまざまな理由で生まれてしまった、悲しきふれあいがあることをおさらいしたうえで、今回のお店をご紹介させてください。
高円寺の「出陣」にやってきました。
炭火 焼きとん 焼鳥 「出陣 」
「出陣」と書かれた赤提灯が目印。 高円寺駅北口のあづま通り商店街を歩いて5分。
高円寺に数ある商店街のなかで、比較的、人通りが穏やかなあづま通りであるが、ここ「出陣」はいつも常連客で賑わっている。
オープンしたのはつい一年半ほど前、昭和カラーが色濃いあづま通りのなかでは希な存在だった(最近は新しいお店も増えた)。にもかかわらず、高円寺の空気にすっと馴染み、住民たちに愛される理由は、「出陣」のパワフルな接客にある。
店員のおじさんが、兎にも角にも元気だ。
最初の乾杯をするときは店全体を巻き込んで、大きな声で「カンパーイ!」と腹式呼吸全開で叫び、ハイボールを注文すると、めっちゃ歌う。
飲み始めで、まだこちらのテンションが追いつかないときは若干戸惑うが、おじさんに元気を吸い取られるうちに、自然とこちらも楽しくなってくるから不思議だ。
席についたら、爆弾レモンサワーとレバテキを決まって注文する。
爆弾レモンサワー、490えん。氷の代わりに凍らせたレモンがどさっと入っている。普通のシンプルなレモンサワーもメニューにあるけれど、やっぱりこのグラスいっぱいに詰まった元気なビタミンカラーには敵わない。
レモンが凍っているうちに「ナカ(酎ハイ)」を注文して、同じグラスで2、3杯は楽しめる。
とろっと柔らかいレバーに、ねぎと、塩と、ごま油がちろりとかかって。
以前、やきとん野方屋の「ちょいレバ焼き」がメニューから消えてしまった……という話を書いたことがありますが、当時、落胆していた私を救ってくれたのが、この「出陣」のレバテキです。
たまたまふらっと入った「出陣」でレバテキを食べたときは、本当にうれしかった。焼き加減、塩加減が限りなく近い。私は「ちょいレバ焼き」に思いを馳せながら、ふた皿は必ず食べてしまう。
鶏は火を通すとパサっとして淡白なのに、たたきで食べるとしっとりやわらかい。味も磯の香りを排除した甘エビのよう。
ここではにんにく醤油をつけて食べます。ちなみに「大山」は「おおやま」ではなく「だいせん」。
レバテキ、鶏たたきのほかに、串のむねわさびも火の通し方が絶妙。生肉好きはこの三つを外さずに頼めば、きっと「出陣」を好きになってくれるだろうと思う。
この日の煮込み串は「タンスジ」と「トロテッポウ」。
ふわふわになるまで煮込んだモツはたれがよく絡む。見た目はぼてっとしているけど、余分な脂が抜けて、味はあっさり。日によって煮込み串の種類は違うようなので、店員さんに聞くとよいです。元気に教えてくださいます。
この頃になると、何度か他のお客さんの乾杯に参加していたり、店員のおじさんのハイボールの歌のリズムを覚えてしまっていたり、なんか面白いこと言ったろか! みたいな気持ちになっていたりする。BGMとして入ってくる店員さんたちの掛け合いがそうさせるらしい。
いろいろ難しいこともあるけれど、やっぱり働く人はみんな楽しんでいてほしい。そしたらこっちも勝手に元気になるもの。
「あぁ、今日も(元気を)吸い取られてる~」と思いながら爆弾レモンサワーを飲めば、楽しい高円寺の夜が始まる。魂レベルで話そう。
炭火 焼きとん 焼鳥 『 出陣 』
電話:03-3337-3366
住所:東京都中野区大和町1-66-6
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