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西田宗千佳のトレンドノート:なぜ子供たちは「プログラミング」を学ぶのか

西田宗千佳

2018/03/15(最終更新日:2018/03/15)


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 現在教育の現場では、「プログラミング教育」の導入が進んでいる。プログラミングというと「専門家以外には関係ない」と思う人、「自分が子供の時代になくて良かった」と思う人もいそうだ。

 だが、ぜひその考えを改めていただきたい。

 我々の日常はプログラミングである。そして、プログラミングを学ぶことは生きる上で必要な、当たり前の能力を磨くためにとても有用なものだ。

 今回は「プログラミング教育」がなぜ私たちの生活に役立つかを、ちょっと考えてみたい。

2020年から必修になる「プログラミング教育」

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 プログラミング教育、という言葉をニュースで聞いたことはないだろうか。2020年から導入される新学習指導要領にて、小学校で必修となる新しい要素である。

 プログラミング教育といっても、国語や算数と同じように「プログラミング」という教科ができるわけではない。理科や算数などの授業の中で、論理的な思考を育むための方法として「プログラミング」が使われていく……と理解すればいい。

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 論理的思考と、それに基づく課題解決方法の体得は、教育全体で大きなテーマになっている。そのため、子供向けの習い事としても、「プログラミング」が注目を集めているし、色々な子供向け製品に「プログラミング」要素が増えている。レゴには「マインドストームEV3」という、プログラミングして動かすことができる教育市場向けの製品があり、iPadにも、無料で誰もがダウンロードして使えるプログラミング学習ツール「Swift Playgrounds」というアプリがある。Webで使える無料の教育用プログラミングツール「Scratch」もある。

 プログラムを作る、というと、大人の専門家が行うこと、という印象が強いだろうが、決してそうではない。あまり大きな出費を強いることなく、子供向けのプログラミング学習ツールを揃えることは簡単であり、意外とハードルは低い。

我々の日常は「プログラミング」でできている

 とはいえ、「プログラミングなんて、わざわざ子供の頃から学ぶ必要はないのでは。そちらの専門家になるなら、大学以降でも十分に間に合う」と思う人は多いのではないだろうか。

 その点には筆者も同意する。ただ、「プログラミング教育」と「プログラマーになるための教育」は似て非なるものであることも理解していただきたいと思う。

 すでに述べたように、小学校でプログラミング教育が必修になるのは「論理的な思考を育むため」である。だから、プログラマーが使うような複雑なプログラミングはしないし、使うソフトもまったく同じものではない。ある種の思考方法を身につけるための教育手段としてプログラミングを使う……と考えてもらいたい。

 そこで、実際にどのような教育が行われているのか、ひとつ例を示したい。

 横浜市にある「はまぎん こども宇宙科学館」では、「洋光台サイエンスクラブ」という子供向けの会員サービスの一環として、プログラミング教室を開催している。対象は小学生から中学生。ちょうど、今後導入される「プログラミング教育」の対象年齢であり、狙いも似たようなところがある。この教室では、一人一台iPadを使い、「Swift Playgrounds」を使ってプログラミングを学のだが、教室の最初に、ある「遊び」をやっている。

 それは、「ジェスチャーを命令だけで伝える」というものだ。カードから選んだジェスチャーをするために、どう手足を動かすべきかを、子供1人が「1動作」ずつ伝えていく。例えば「ガッツポーズ」だったら、「両手の拳を握る」→「両手を肩の広さよりちょっと広いくらいに広げる」→「そのまま両手を頭の上まで上げる」というような感じだ。これ、実際に自分でやってみると、けっこう難しいことがわかる。

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「はまぎん こども宇宙科学館」でのプログラミング教室の様子。実際にプログラムする前に「ジェスチャーを命令だけで伝える」ことで、プログラミングの本質を知る。

 実は、この「ジェスチャーを命令だけで伝える」ためのプロセスこそが、プログラミングの本質である。

 プログラムとは、コンピュータが動くための命令の塊だ。コンピュータは命令した通りにしか動かない。だからプログラマーは、自分がコンピュータにさせたいことを要素ごとに分解し、積み重ねていく。いかに正しい順番で、無駄なく、論理的に命令を積み重ねるかが、プログラミングの基本である。

 これは別の言い方をすれば、「論理的に、正しく機械とコミュニケーションする」のがプログラミングである、ということになる。

 この考え方は、なにも「機械相手」に限った話ではない。他人と誤解なくコミュニケーションをするには、「正しい順番で、無駄なく、論理的に言葉を重ねる」ことが必要になる。

 すなわち、プログラミングを覚える、ということは「機械と話す言葉を覚える」ことであり、その基本は「論理的に話すことを覚える」ということでもある。だから、「ジェスチャーを命令だけで伝える」ゲームは、プログラミングがなにかを知るために、とても良い遊びなのである。

 子供たちは「ジェスチャーを命令だけで伝える」ゲームで、人間を正しく動かすのは大変だ、ということを理解する。その後で、実際にプログラミングをやってみると、実はそれがすごく簡単で、「正しく命令すれば機械がその通りに動いてくれる」という快感にあふれたものであることを知る。だから、プログラミング教室に参加した子供たちは、皆ほんとうに楽しそうだった。

 こうした考え方は、日常にも応用できる。服を着たり、アラームを設定するまでの作業を説明したり、自分が仕事でなにをしなければいけないかを整理したりするのは、まさに「正しい順番で、無駄なく、論理的に」行うことだ。だから、意外なほど、我々の日常はプログラミングであふれているのである。

 ただ我々は、それを無意識にやっている。無駄もあるかもしれない。論理的思考=プログラミングを学ぶことで、日常生活にも多くのプラスがある。

 子供たちがプログラミングを学ぶのは、そうした思考を子供時代から身につけるためだ。同様に大人も、日常生活を見直し、「論理的思考」の価値を考え直してみると、色々と気付きがあるのではないだろうか。


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