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- +海鮮居酒屋「三神森」
「肉と魚、どっちが好き?」と聞かれて、「肉は胃がもたれるので魚です」と答えてきた人生だった。
こういうことを言うと、相手が年上の方ならだいたい「まだそんな歳じゃないでしょう」と言う。いえ本当に胃が弱くて、と言うと、「俺(私)なんか最近だよ、もう焼肉行ってもカルビは食べられないよ」そう返ってくる。
肉か魚か問われて、カルビが食べれないまでのくだりを人類は何回繰り返すんだと思いながら「でも魚はいいですよねぇ」と返す。魚はいいです。
島国・日本の食卓の絶対王者でありながら、店で出てくればごちそう感もある。煮るなり焼くなり好きにしろ! という魚さんのスタンスもすてきだ。ありがたいと思って、大事にいただいています。
毎度、偏愛している高円寺の風景をゆるりとお伝えしておりますが、今回ご紹介する「三神森」は、私のような人間にぴったりのお店。
海鮮居酒屋「三神森」
高円寺駅北口のロータリーを抜け、右奥の道を歩いてすぐのところ。
ふんわりと甘い匂いが漂うかわいらしいバームクーヘン屋から、ちょっと目線を左にずらすと、市場の一角をそのまんまくり抜いてもってきたような雰囲気の店がある、それが「三神森」です。
ここで食べる料理は、どれもおもしろい。 田舎の漁師たちが知っていそうな料理を、海鮮に愛情をもった店主が丁寧にこさえてくれる。
何も考えずに入って、今日は何を注文すべきか店の人に聞けば、仕入れやら仕込みやらを見据えて、今このタイミングでおいしいものを教えてくれます。
クエは口に入れてすぐに旨味を感じる魚のひとつらしい。「幻の魚」だと聞くと、余計においしいし、「贅沢だ」と横で言われると、贅沢だなぁと思う。甘みを感じながら、目をつぶって食べてもいい。刺身はできるだけ、心おだやかに食べたい。
刺身をつまんでいる間に揚げてくれる「とんごろいわし揚げ」は、この店の名物だ。
とんごろいわし揚げ、450円。皿に盛られたとんごろいわしを初めて見たとき、ルアーかと思った。「ルアーじゃなくて、釣った魚をお願いします」と言いたくなった。それほどに、一匹一匹の形が整っていて、箸でつまむと、パンと身がつまっている。
ししゃもはお腹の部分がごちそうだけれど、このとんごろいわしは頭もはらわたも骨も尻尾も同じ味がする、不思議な魚。バリバリとまるごと食べれば、ビールの炭酸と最高に合う。
生ビール、400円。このタンブラーで飲むと、余計に冷えて感じて美味しい。 店主は「クエの鱗もあるよ」と言った。「クエは鱗も食べれるよ」。この店のこういうところが楽しい。私は今まで居酒屋さんで「鱗ください」と言ったことがない。「じゃあ鱗をください」と言ったとき、またひとつ大人になったなと思った。
そして、この「鱗揚げ」はものすごくサクサクする。今読んで想像できるサクサクの、その倍はサクサクしている。鱗のその一枚一枚がかりっと揚がっているんだから、それもそう。映画館の隣の席でこれ食べてる人がいたら私はたぶんキレると思います。新鮮な油で作った、綺麗な揚げ衣のような味で、これは魚というよりスナックに近い。
ここ「三神森」、昼間はラーメン屋なんです。
初めてこの店に来たとき、常連さんが「ここのラーメンは二日酔いでも食べたい」と言っていた。居酒屋としてもこちらは満足しているのに、実はラーメン屋だなんて、そんな強いカード持ってたんかい、と思う。
海老だし醤油ラーメン、700円。海老の香りに満ちた一杯。すっきりとした味わいだけれど、味の密度がある。スープの分子ひとつひとつに海老を詰め込んでいるのかもしれない。お腹いっぱいでも〆に食べたい。
父より少し年上くらいの店主は、昼のラーメン屋から、夜の居酒屋まで忙しい。料理を作る店主の横顔を、ビールを飲みながら見ると、いつまでも健康でいてほしいなぁ、とこっそり思う。愛情深い人間の健康寿命はどこまでも延びてほしい。
食べるたびになにか発見があって、魚は本当におもしろいなぁと思います。
「三神森」はそんな海の魅力を教えてくれるお店。
命をいただいた分だけ、活力をつけて、明日もまたがんばらないといけません。魚さんたちへの恩返し。
「三神森」
電話:03-3337-6066
住所:東京都杉並区高円寺北2丁目9-8
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