リサ・ボデル氏は、futurethink社のCEOだ。同社は、企業のタスクの「複雑さ」を打破し、「イノベーション」への扉を開き、真に価値があることを実行することを説く、イノベーション・サポート企業。
イノベーションのプロとも言える、ボデル氏は、TEDで「イノベーションや変化の余地をつくる、3つの方法」を解説した。
この動画で彼女が勧めるのは「キラークエスチョンの取得」、「不必要なルールの廃止」、「簡略化の習慣化」である。
「変化」の阻害要因
ボデル氏:私の目的は、非常にシンプルなものです。それはあなたたちが、日々を過ごす組織で変化やイノベーションを起こす方法を教えることです。
変化やイノベーションが、みなさんにとって耳新しくないことは承知しています。我々は「変化」や「イノベーションとその定着」について、いつも話していますから。
私が、なによりも不思議に感じたのは「では、なぜ実行していないのか」。変化を阻害する要因とは、なんでしょう。
私は毎年世界中をまわって、約100,000名に向かって彼らに「変化にどう備え、変化をどう発生させるのか」説いているのです。各地巡りまわって、変化がみなさんにとっていかに難しい話なのか、実感しました。
とても難しいことは承知の上で、「なぜ、変化が起きないのか」という疑問を追求したかったのです。対象が25名ずつにしろ、何千名ずつにしろ、私はごくシンプルな問い「日々何をして過ごしていますか」から投げかけました。
会場のみなさんも、日常的にしていることについて、思案してください。
驚いたのは回答の独自性ではなく、その一貫性です。どんな国、文化、企業だとしても、どんな地位や役職、企業のレベルたとしても、まったく同じ回答が返ってきました。
「あなたは日々何をしていますか?」と問うと、必ず返ってくる返答が「ミーティングかメール」。私が「変化」について話しに来ているのに、ですよ。
「人々は朝起きて、価値のあることをしたいのだ」という予感が私にはあります。みなさんがどうなのか知りませんが、朝起きて「ミーティングが待ち遠しい!」と言う友人を私は一人も知りません。「メールを見るのが待ち遠しい。多くの刺激を受けるんだ!」とね。
(会場笑)
誰も、そんなことは思わないのです。
我々は退屈なタスクのために、毎朝起きているわけではありません。価値があることをするために、目覚めるのです。
影響を与え、変化を生み、問題を解決し、前進する。これが私たちが望むことです。ミーティングやメールに時間を割いていては、それは実行できませんよ。
そのことから学んだのは、ほとんどの組織が「変化」に対して間違えたアプローチをしていることです。だって、そうでしょう?
より良い変化やイノベーションの発生を助長するもの自体が、変化やイノベーションを妨げているのですから。
ミーティングや報告書、方針、メール、そして戦略。これらは、もちろんとても重要です。
しかし残念ながら、それらが我々の唯一の業務になってしまうことが、多々あります。
次にその業務が複雑化し、それが通常営業になって言い訳へと変わり、我々はそれで満足してしまうのです。そこには、変化が起きる隙が一切ありません。
みなさんの中にも、こういった経験をしている人はいるのでは?
では、どうそれを打開しましょうか。「変化」に対して、まったく斬新なアプローチをしなければならない、と私は考えています。
このような問題に直面したとき、我々は、第一に「もっとやろう」や「もっとなにかを導入なければ」と反応し、タスクを増やす傾向にあります。
そうではなく、我々は第一に、それらを取り除かなければなりません。
「変化」が発生するような余地を生むには、我々の行く手を阻む、メールやミーティングなどの複雑すぎることを除去しなければなりません。
これはとても簡単な方法でできますので、みなさんにどうすればいいか伝えますね。
価値基準上の問題点
ボデル氏:まず必要なのは、我々の考え方を少し変えること。まず我々が価値を置く物事、職場環境に問題があります。このマインドセットを変化しなければなりません。誤認識1:リーダーの育成
1つ目に気になったのが、我々はリーダー育成をしていないことです。よくても上司の育成をしているだけです。
辛口に言うと、我々が育成しているのは熟練した懐疑者。
私がイノベーションについて、完全に新しく、革新的なアイデアを教えると、懐疑者たちは、すごく雄弁に、それが孕む問題点を唱えます。彼らはことの核心に触れるまで、長い時間を使って反論するのです。
疑うのはすばらしいこと。しかし、それしかできないのでは、ダメです。
誤認識2:プロセス>カルチャー
2つ目は、文化よりもプロセスを重んじる傾向に、我々があることです。文化について、我々は口先ではいいように話します。しかし、それはごまかしにすぎません。
やれ「文化的美学だ」だの、「色のある壁」や「ホワイトボードだ」だの、やれ「テーブルサッカーが必要」「いや、バッグチェアだ」や「すばらしい会議室だ」だの、どうでもいいじゃありませんか。
それはカルチャーとは呼びません。
ここで、我々が実際にしているのは、プロセスです。なぜならそれは具体的であったり、構造上の話でありますから。
我々は、実に柔軟である「態度」、を直視しようとしません。そのようなグレーな領域が変化やイノベーションを促進するのに、です。
誤認識3:考えるよりも行動
最後に変わる必要があるのは、我々が「考えるよりも行動」に依存していること。大半の企業では、「考えること」が大胆な行動になってしまっています。
想像してください。
例えば、スティーブ・ジョブズのオフィスに入ったとしましょう。
彼は、ただイスにもたれ、外を見て、顔は喜色、だとしましょう。あなたはスティーブにこう尋ねます。
「スティーブ、何をしているの?」と。彼はあなたに顔を向けて、「考えているだけさ」と一言。
ほとんどの人の頭にまず浮かぶのはなんでしょう?
「仕事にもどれよ! 私だってそうしたいんだ!」ですよね。「私だって、毎日そうできたらいいのに」とあなた方は感じるでしょう。
(会場笑)
(中略)
考えることは大胆な行動です。変化やイノベーションに必要な隙を発生させるには、まず、変わらなければなりません。
3つの簡単な方法を教えましょう。
1つ目は、刺激的な「キラークエスチョン」を投げかけること。2つ目は、意味のない日常作業を、取り除くこと。そして、最後に、「簡略化」を習慣にすることです。
では、各々解説していきましょう。
「キラークエスチョン」を聞けるようになる
ボデル氏:まずは、挑戦的な質問「キラークエスチョン」を聞くことです。
講義、会議、そしてブレインストーミングなど、我々の時間の多くはミーティングやメールに割かれるのに、その時間を有効に使っていないのです。はっきり言って、もったいない、ですよね。
私は、自分のミーティングは、なるべく多くを得るつもりで出席します。時間は、貴重ですから。
我々は、お金を無駄遣いされると、怒りますよね。なぜその憤りを、時間を無駄にされたときは、感じないのでしょう。私には理解できません。
リーダーとして、ミーティングを執り行うとき、私たちには、その時間を有効に使う義務が発生しています。よりよい回答が欲しいのだったら、よい質問を聞きましょうよ。
しかし、我々はリーダー、そして未来を担う企業の一員として、「解を求めること」が身にしみついています。「早く答えを出せ!」と。
ゆえに、会議室に入ってから第一声が、「議題についてだが、答えがわかる人は挙手」なのです。この時点で、「わかるわけあるか。寝るか、ほかのことでも考えよう」と会議メンバーの意欲は削がれてしまいます。
では、どうすれば、よりよい質問が聞けるようになるのでしょうか。その前に、なぜ「キラークエスチョン」が重要なのか、説明しましょう。
「キラークエスチョン」が重要な理由
出典:www.ted.comこれからは、解決策よりも、適切な質問のほうが、重宝されます。
我々には、機械学習、人工知能、そして膨大なアルゴリズムがそろっていますから、解決へ到達する道筋はすでにあるのです。問題は、正しい質問ができているか、です。
よく考えてください。Googleは検索エンジンではありません。むしろ、解答エンジンです。
10年前、Googleで、例えば「エイブラハム・リンカーンの誕生日はいつ?」と検索すると、リンカーンの誕生日が記されてるリンクを、いくつか提示されました。
今はどうでしょう。「エイブラハム・リンカーンの誕生日はいつ?」と検索かければ、彼の一生涯について、Wikipediaのボックスが表示される他、彼の誕生日を明かすリンクの要約文が出てきます。
そして、Googleが、あなたの質問の核心を察し、「別の検索ワード」を提示するのです。
みなさんに問いましょう。あなたは、質問が得意ですか?
適切な質問例
次に進みましょう。どんな質問をすればいいのか、教えます。
次回ミーティングに向かうとき、独創的な問題解決が行われるような質問をしてみましょう。
イスにもたれかかったり、睡眠やメールの確認、そして中途半端に考えさせるのではなく、彼らの関心をつかみましょうよ。かなりイノベーティブな発案があるかもしれませんよ。
例えば「無料で、現在ある製品やサービスを提供することになったら、我々は、どう利益を出そう?」です。
「顧客(や社員)に恥ずかしさ、恐れ多さのあまりに、尋ねたくても、尋ねられない質問はなに?」もいいでしょう。
最後の例、これはなぜ従業員のモチベーションが低いのかわからないときに効果的です。ある顧客が、私に教えてくれた質問です。「あなたは、今組織の暴露本を書き終えたところだ。どんな秘密情報がつづられている?」
みなさんには「自分がぜひとも聞きたい、キラークエスチョンはなにか?」を考えてほしいです。
それは、納得のいかないことの解決策となる質問がいいでしょう。出席者を生産的にするために誘導し、脱力的な思考体系から引っ張り出すような質問が適当です。
意味のないルールの廃止
ボデル氏:次は、ルールについてです。寓話から、説明しましょう。
これは、私がドイツを訪れたとき、原子力発電企業のエンジニアから聞かされた話です。
私は、彼に尋ねます。「変化しないのは、なぜですか?」すると、彼はこう答えました。「直接的な表現は避けたいから、見事にその理由を総括する寓話をあなたに教えよう」。
たしかに、見事でした。彼は、続けて、以下のように語りました。
科学者と10匹のサル(寓話)
「科学者と檻の中にサルが10匹いた。彼はサルで実験を試みたのだ。檻の上にバナナを置くと、もちろん、サルたちはバナナ取ろうとけんかした。一番にバナナを獲得したサルには、食べる権利が与えられた。他9匹のサルには、水をかける。激怒していたそうだ。
次の日、彼は同じことを繰り返した。バナナを上に置き、サルはケンカし一等賞のみがバナナを食べれて、他は水。サルは怒ります。
週末にもなると、バナナを取ろうとするサルは、9匹から引きずり落ろされるようになる。科学者は利口にも、次のような決定をします。
『実験を変更しましょう。新たなサルを毎週1匹ずつ投下して、古いサルを檻から出します』と。翌週、彼は古参者を取り出し、新参者を入れる。
新しいサルが、一番に取る行動はなんだと思う? バナナへ向かうよね。
しかし、他9匹がそれを許さないんだ。1週間経つと、そのサルも、『あのバナナに触れてはならないんだ!』と認識する。10週間後、檻にはいるサルは全匹新しい。誰もバナナへ向かおうとはしない。そして、その理由は、誰もわかっていない」。
不必要なルールを廃止する方法
これは、まさに我々が、日々過ごす職場、組織のなかで起きていることです。規則や様式を疑うことをしません。
「ルールには理由があるはずだ」や「このルールには歴史があるのだろうな」と。
我々が取るべき行動、それは、意味のないルールを撤廃することです。
私は、数々の場で「イノベーションを阻害要因を2つ撤廃できるとしたら、なにを消しますか? また、それはなんで? 15分で考えてください」と質問してきました。
彼らが導き出す結論は、ルールでないことにまで及ぶことがあります。
ポリシーから報告書、ミーティング、メール、そして「そんな規則があるなんて、誰が言ってたんだ?」と上司が驚くような暗黙のルールまで多岐に存在します。
そして、これがイノベーションの阻害要因を排除する議論を、招くのです。
「簡略化」を習慣にする
ボデル氏:最後にお伝えするのは、我々がなんとか到達しなければならない、大局的な見地についてです。それは、「簡略化」を習慣にすること。
出典:www.ted.com(またもやメールで済むミーティングに居座ってしまった)
(会場笑)
あるあるですよね? みなさんが笑うのは、それが本当だからです。
あまりにも頻繁に、我々は「簡略化」をその場限りの出来事として扱っています。12月など、進捗が遅くなるときだったり、戦略計画の直前、表面的にすばらしいことを証明するときくらいしか、実行しません。
「簡略化」は、誰もが権利を持ち、誰もが所有するスキル。にもかかわらず、誰も活用しないのです。
我々は、物事を「簡略化」するよりも「複雑化」することに時間を割いています。
今こそ、リーダーたちが、行動規範を見直し、「簡略化」を活動方針にするべき時です。タスクに取り掛かろうとするとき「これは必要だろうか?」と確認することは自分自身、同僚、そして部下に対する、義務です。
「私は、必要最小限の方法で、目標を達成できているのだろうか?」「私は、部下がはっきりと理解できるような、明確な言葉で運営ができているだろうか?」「我々(リーダー)は、真に価値があることが、できているだろうか?」
「我々(リーダー)は、簡略化ができるような権限を社員に与えているだろうか?」これは社員自身が、「簡略していい」と決断を下せるような、力を与えられているかどうか、です。
そうではないと、変化やイノベーションが定着する余地が生まれません。
簡略化することに意識するべき
ボデル氏:我々は、「変化」が選択可能であることに、気がつかなければなりません。強制はしませんが、それが正しい方向なのです。方法は至って簡単。
ミーティングを有意義にする「キラークエスチョン」を聞いたり、今すぐ意味のないルールを廃止して、物事を簡単にすることです。
「簡略化」を新たな活動方針にすることも、必要です。そうすれば、社員は退屈な仕事をせず有意義な仕事に取り掛かることができるのです。
これがイノベーションや変革を呼び起こす、真の方法です。
ありがとうございました。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう