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西田宗千佳のトレンドノート:アプリ市場は「現実社会」の現し身だ

西田宗千佳

2018/01/26(最終更新日:2018/01/26)


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  1月19日、スマホアプリ関係の市場調査会社であるApp Annieは、毎年発表している「アプリ市場総括レポート」の2017年版を発表した(名前などを登録すれば、誰もが全文を無料で取得できる)。

「自分のビジネスはアプリと関係ないし。どうせゲームとかの話でしょ?」

 そんな風に思っているなら、ちょっともったいない。スマホアプリは我々の生活に密着しており、その動向は生活の変化そのものを反映している。その一端をご紹介したい。

我々は1年のうち1.5ヶ月を「アプリを見て生活」している?

 レポートによれば、2017年の世界のアプリ市場は堅調に成長している。

 2015年比で、総ダウンロード数は60%増加の1750億回、年間でのアプリ利用時間累計は、ユーザー1人あたり、なんと「1.5ヶ月」にも達している。それほど我々はスマホアプリの画面を見つめながら生活しているのだ。

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2017年もアプリ市場は成長。ユーザーがアプリを使っている時間を累計すると、1年で「1.5ヶ月分」にもなる。

 接触時間に関する、もう少し詳しいレポートを見てみよう。アプリとの接触時間は国によって異なる。総じて高いのは「モバイルファースト」傾向の強い国々、と言われている。

 新興国のように、PCなどの高度化をスキップしてスマートフォンが普及した国々や、日本・韓国のようにコンパクトでモバイルネットワークの普及した国のことを指すが、欧米の各国に比べ、利用時間があきらかに長くなっている。

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国毎のアプリ接触時間の違い。日本を含む「モバイルファースト」の国々では特に長くなっている点に注目。

 これだけ接触時間が長いと、「いかにアプリを通じて消費者とつながるか」が各企業にとって大きな課題になるのは明白だ。

 次のデータは、小売り関連アプリの利用量(セッション数、となっているが、これは通信の頻度だと思っていただければいい)を示したグラフだ。スマートフォンが普及し、かつ通販も定着している成熟市場においては、両者の利用はかなりの勢いで増えている。トップ4ヶ国の利用量の順調な増加は、やはり注目に値する出来事だ。

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小売り系アプリの利用量変化。国による違いは大きいものの、日本を含むトップ4ヶ国の需要の大きさが読み取れる。

アプリは人の欲望を反映している

 別のいい方をすれば、これだけ生活にアプリが密着しているということは、人の欲求とアプリは密接に関わっている、ということでもある。

 アプリのランキングにゲームやマッチング系のものが目立つのも、そうしたアプリが人々の嗜好や欲望につながっているからだ。そのことを否定しても始まらないし、その関係が密接になればなるほど、スマホアプリがより生活の中に溶け込んだのだ、ということでもある。

 2017年の傾向としてレポートの中に挙げられていた情報の中で、筆者が注目したのは次の情報だ。これは、ビットコインなどのいわゆる「仮想通貨」の取引を扱うアプリのMAU(月間アクティブユーザー数)と、ビットコインの値上がりのグラフを比較したものである。形が見事に同じである点に注目していただきたい。

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仮想通貨アプリのMAUと、ビットコインの値動きをグラフ化して比較。まったく同じ形になっていることに驚く。

 考えてみれば理由は単純でわかりやすい。

 ビットコインが値上がりすれば、それでの投機・利殖に興味が沸く人が増える。値動きが活発ならば売買のタイミングが気になるので、アプリを使う頻度も当然増える。定期的に使う利用者がそれだけ多くなるわけだから、MAUには当然影響が出る。

 値上がりサイクルが続く限りはビットコインから人は離れず、興味を持つ人も増え続ける。かくて、MAUのグラフとビットコインの値動きのグラフは見事に一致した……ということだ。

 では、今年に入ってからの値下がりでMAUは減ったのか、という疑問が出てくる。そこはレポートが出ていないからわからない。上昇トレンドがたまたま同期しただけ、という可能性は高い。

 しかし、このことは、先ほども述べた「アプリは個人の欲望を反映する」ということの強い証左だ。2017年、特に日本では仮想通貨の投機性が注目された。そのトレンドはアプリにも現れた。というよりも、スマホとアプリ、という非常にわかりやすくて手軽な窓口があったからこそ、仮想通貨による投機は急速に一般化した……と言えるだろう。

 今後、同じようなトレンドを描く現象はなにになるのか、その時、どんなアプリ市場があり得るかを考えてみると、そこに新しいビジネスのタネが見つかるのではないか、と思うのだ。


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