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アカデミー賞レース第2弾|セクシュアルなダークファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」

清藤秀人

2018/01/23(最終更新日:2018/01/23)


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アカデミー賞レース第2弾|セクシュアルなダークファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」 1番目の画像

 先に発表された第75回ゴールデングローブ賞で、ドラマ部門の作品賞は「スリー・ビルボード」に譲ったものの、大方の予想通り監督賞に輝いたのは「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロの方だった。

 「スリー・ビルボート」のマーティン・マクドナー監督は最後までデル・トロと監督賞を争ったと思われるが、結局、マクドナーは脚本賞と作品賞を手に入れ、ハリウッドではより長いキャリアを誇るデル・トロに監督賞が渡ったことに異議を唱える人はいなかったはずだ。

ダークファンタジーの達人ギレルモ・デル・トロ

アカデミー賞レース第2弾|セクシュアルなダークファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」 2番目の画像

 ギレルモ・デル・トロ。彼の名前を日本の怪獣映画にオマージュを捧げた「パシフィック・リム」(2013年)や、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズから派生したスピンオフ映画「ホビット 竜に奪われた王国」(2013年)などで初めって知ったという若い映画ファンもいるだろう。

 でも実は、アメリカのダークコミックを映画化した「ヘルボーイ」(1994年)で、アメリカ軍の手で秘密兵器として育成される赤鬼のようなクリーチャー、ヘルボーイの運命を描いて以来、ダークファンタジーを追求し続けて来たこの分野の権威なのだ。

 しかし、妥協を許さない映画作家としての姿勢がハリウッドでは軋轢を生むこともしばしばで、「ヘルボーイ」では自らが主役に望んだ怪優、ロン・パールマンの起用にこだわったために製作費をカットされ、「ホビット」では製作日程の大幅な遅延を理由に脚本から名前を削除される不運にも見舞われたデル・トロであった。

最新作は過去の最高傑作に迫る完成度

アカデミー賞レース第2弾|セクシュアルなダークファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」 3番目の画像

 そんな、映画人としてはある意味純粋過ぎるデル・トロが、ハリウッドを離れ、祖国メキシコと同じ言語圏であるスペインで撮影したファンタジーのマスターピース「パンズ・ラビリンス」(2006年)以来の傑作と評判なのが、最新作「シェイプ・オブ・ウォーター」だ。

 スペイン内戦で父親を亡くした夢見がちな少女、オフェリアが、絶望的な現実からの逃げ道として身を置く空想の世界へ命と引き換えに旅立つ物語は、絵空事と思われがちなファンタジー映画の限界点を飛び越えていた。

 それから10年、デル・トロが久々に放ったダークファンタジーである「シェイプ~」では、またも「ヘルボーイ」と同じく兵器として捕獲された海獣の運命が描かれる。

あらゆる概念を超えて恋に落ちる2人!

 冷戦時代、対ソ連の秘密兵器としてアメリカ政府が研究所内に拘束し、痛々しい生体実験を繰り返すアマゾンの海獣と、研究所で清掃員として働く言葉が話せないヒロイン、イライザが、会ったその瞬間から恋に落ちる。

 言葉が対話の手段になり得ない2人が、アイコンタクトのみで通じ合い、やがて、体を重ね合うプロセスは、これまでのデル・トロにはなかったセクシュアルなアプローチだ。

 イライザと海獣が深い部分で対話し合うのとは対照的に、普通の人々はことごとくミスコミュニケーションに苦しんでいる。その皮肉さも秀逸だ。

 2人を追いつめる残忍なエリート軍人、ストリックランドは妻を虐待し、イライザの同僚、ゼルダの夫婦生活は破綻している。また、イライザの隣人で友人のジャイルズは、恋した相手が自分に相応しいかどうかを見極めることすら出来ないのだ。



コスチュームと水の美しさに目を奪われる

アカデミー賞レース第2弾|セクシュアルなダークファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」 4番目の画像

 イライザ、そして、彼女の目を通して観客を魅了するに足る、海獣のコスチュームを作るためデル・トロがクリーチャー・デザイナーにオーダーしたのは、きめ細かい鱗に覆われた筋肉質スーツ。

 それを纏い、演技する俳優のダグ・ジョーンズと、イライザを演じて数多くの演技賞を受賞しているサリー・ホーキンスのラブシーンは、劇中でも白眉だ。

 そして、2人が愛を語らうバスタブを始め、映画全体を浸す仄暗い水の世界は、いつもブルーグレーに統一されていて美しいことこの上ない。それは、これまでも映画化は困難と言われたあらゆる視覚演出を、その都度、リスクを張って実現してきたギレルモ・デル・トロならではだろう。

少なくても監督賞受賞は確実か?

 そのデル・トロを筆頭に、アカデミー賞(R)に直結する今年の監督組合賞(DGA)の候補に挙がっているのは、前記のマーティン・マクドナー、「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ、「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール、「ダンケルク」のクリストファー・ノーランの以上5人。

 こう見ると、DGA、そして、アカデミー監督賞に最短なのは、やはり、デル・トロではないだろうか?

アカデミー賞受賞期待度(★5つ評価):★★★★★

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【作品情報】
「シェイプ・オブ・ウォーター」
3月1日(木)TOHOシネマズシャンテ他ロードショー
公式HP:https://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/
©2017 Twentieth Century Fox


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