本年度のアワードシーズンも3月4日に発表される第90回アカデミー賞(R)に向けて佳境に入ってきた。そこで、賞レースを牽引する話題作を順次紹介していこう。
まず最初は、今年のゴールデングローブ賞でドラマ部門の作品賞以下、最多4部門に輝いた「スリー・ビルボード」だ。
同作は、映画の現場を誰よりも熟知するプロデューサーが選ぶ映画賞で、ゴールデングローブ賞よりむしろオスカーに近いと言われる全米製作者組合賞(PGA)にもノミネートされている。ついでに、同じく候補に挙がったライバル作品のラインナップは以下の通り。
ライバル作品がひしめく今年の賞レース
「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」(パキスタン出身のコメディアンがアメリカ文化と格闘する:2/23公開)、「君の名前で僕を呼んで」(1980年代のイタリアを舞台にゲイ同士の恋を描く:4月公開)、「アイ、トーニャ(原題)」(ライバル選手の殴打事件に加担した罪を問われた実在のフィギュアスケーターの実像に迫る:初夏公開)、「レディ・バード」(カリフォルニアのサクラメントで暮らす女子高生が田舎町の閉塞感と戦う青春映画:6月公開)。
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(アメリカ国防省内に実在するベトナム戦争に関する機密文書を暴露したメディアの実録もの:3/30公開)、「モリーズ・ゲーム」(高額ポーカーゲームを仕切った女性経営者に肉薄:5月公開)、「シェイプ・オブ・ウォーター」(言葉が話せないヒロインと海獣の純愛物語:3/1公開)。
さらに、すでに日本公開済みの「ダンケルク」「ゲット・アウト」「ワンダーウーマン」を合わせたPGA史上最多の11作品がエントリーしている。つまり、今年の賞レースは稀に見る混戦なのだ。
「スリー・ビルボード」が強力な理由
そんな中で「スリー・ビルボード」が他作品を一歩リードする理由は、クライムサスペンスとブラックコメディとヒューマンドラマの要素を併せ持つ類い稀な作品だから。こんな映画、最近ちょっと観たことがない。
ミズーリの田舎町に突如登場した3つの巨大看板には、娘を惨殺された母親、ミルドレッドが広告代を支払って人々に告知しようとした、事件の捜査を放棄したかのような警察署長への怒りが綴られていた。曰く、「レイプされて死亡!」「なぜなの?ウィロビー署長」「犯人逮捕はまだ?」。
こうして始まるミルドレッドのリベンジマッチは、途中で意外な事実を掘り起こしつつ、やがて、観客も想定外の衝撃の結末へと舵を切る。従って、映画の基本ラインはクライム・サスペンスと言っていいだろう。
適役のフランシス・マクドーマンドがすごい!!
しかし、そもそも看板を立てて警察に喧嘩を売るなんて、ミルドレッドの行動は娘を殺された母親の怒りを突き抜けて、どこかブラックな笑いを醸し出す。まして、演じるのが「ファーゴ」(96)で厳寒のノースダコタで未解決の誘拐事件を追う婦警をコミカルに演じてアカデミー主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドだ。
本作でも、彼女はバンダナにつなぎの戦闘服で決めて、無骨に目的を遂行していく頑固な母親像を熱演して、ウィロビー署長役のウディ・ハレルソン、署長の犬になってミルドレッドに襲いかかる人種差別主義者の巡査を好演するサム・ロックウェル等と共に、この乾いた犯罪劇を芳醇なヒューマンドラマへと昇華させる役目を果たしている。
これは現代に蘇った西部劇か?
人々の中で渦巻く怒りや差別が、結果、暴力の連鎖を生む物語のフォーマットは、さながら現代に蘇った西部劇のようでもある。それもそのはず、監督はかつて黄金期のハリウッドに君臨した西部劇の父、ジョン・フォードと同じくアイルランド出身のマーティン・マクドナーだ。
フランチャイズ映画に軸足を置く今のハリウッドで、一度は廃れたジャンル映画が外国人によって復活したこと。少々皮肉だけれど、それも本作が今年のオスカーに最も近いと言われる所以である。
アカデミー賞受賞期待度(★5つ評価): ★★★★★
【作品情報】
「スリー・ビルボード」
公式サイト:https://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
2月1日(木)より全国ロードショー
©2017 Twentieth Century Fox
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