1月9日から12日まで、米ラスベガスにて、世界最大のテクノロジー関連イベント「CES 2018」が開催されている。
4000以上の企業が出展しているのだが、その中でもちょっと変わった注目を集めているブースがある。注目されているのは「おもちゃ」だ。だが、注目される「おもちゃ」を作れることにこそ、今のものづくりをめぐる大きな変化が現れている。
SAOの剣が現実になった!
ベンチャー企業・CerevoがCESで公開した「エリシュデーター 1/1」。アニメ「ソードアート・オンライン」に登場する剣をそのまま再現したものだ。CES会場の一つであるサンズ・エキスポの入り口を抜けると、そのブースはいきなり現れる。ブースに貼られているのは、人気アニメ「ソードアート・オンライン」(以下SAO)のポスター。壇上では、コスプレした男性が剣を振り回している。このブースで展示しているのは、彼が持つ「剣」なのだ。
この剣の名はエリシュデーター。SAOのファンならご存じかと思うが、SAOの主人公であるキリトが劇中で使う、もっとも有名な剣だ。SAOはゲーム的な世界を描いたアニメなので、キリトが剣を振るうと、刃は光り、音を発する。この、現実世界に現れたエリシュデーターも、もちろん光って音を出す。
「そんなの、子供向けのおもちゃで昔からあるじゃない」
そんな風に思うなかれ。この製品、そうしたものとはレベルが違うのだ。
とりあえず動画をご覧いただきたい。これは普通にiPhoneで撮影した「だけ」の動画である。なのに、剣が自然に光って軌跡が残像のように残っているのがわかるだろうか。
全体がぼんやり光るのではなく、先鋭な光であり、剣の根元から順に先へと光が伸びる、といった表現も行える。これだけ明るく微細な表現のために、剣の中には2000個を超える高輝度LEDがびっしりと敷き詰められている。
普通のおもちゃならば、LEDはせいぜい5個から10個といったところだが、このエリシュデーターには、高級液晶テレビのバックライトに勝るとも劣らない精度でLEDが並べられている。
実際に剣を振るシーンを動画で。光り方のリアルさ、音の変化などにご注目!
音も単に「出る」だけではない。剣のモーションの違いを認識して、自動的に最適なものが出る。
例えば、振ったときと突いた時では音が違うし、肩に剣を載せるようなポーズをとると、「カチャッ」と載せたような音が出る。内部に高度なモーションセンサーが入っていて、動きを認識して音を変えているのだ。また、音声で技の名前を言うと、劇中でその技を使った時と同じ光り方・音の出方をする。
光り方や音の出方は、連携するスマートフォンアプリで操作可能になっていて、今後アップデートもできる。剣のおもちゃでありつつ、中身は完全なコンピューターだ。
高価でも「大人のファン」が喜ぶものを
CerevoのCEO・岩佐琢磨氏これだけ凝りに凝ったものなので、価格は「おもちゃ並み」とはいかない。現状正確な価格は決まっていないが「数万円台の後半」と予定されている。
これを高すぎる、と思うだろうか?
開発・販売を担当するCerevoの岩佐琢磨CEOは「とんでもない。この値段でも欲しい、という人がたくさんいる」と話す。
いまや、アニメファンの大半は大人だ。アニメが大人の鑑賞に耐える、高度なものになったのならば、そのファングッズも高度にならなければいけない。大人が欲しいのは、ちょっとしたおもちゃではなく「本物にかぎりなく近いおもちゃ」、いわば「超おもちゃ」なのだ。
特にこうした製品を喜ぶのがコスプレを趣味とする人々だ。彼らは本物に見えるガジェットを、工夫を凝らして毎回作っている。「現実世界にアニメキャラを登場させる」こと、「自分がそのキャラになりきる」ことこそが、彼らの行動のモチベーションだからだ。
コスプレファンのことを考えて作られた機能が、エリシュデーターには存在する。自分のスマホと連動し、スマホ側にスピーカーなどをつないで「大音量で効果音を出す」機能だ。
自宅で一人で遊んでいる時は不要だが、コスプレイベントなど、大人数が集まる場所の場合、剣の中に入るスピーカーの音量では埋もれてしまう。だから、外部のスピーカーから大きな音を出して「没入する」機能が必要になったのである。
おもちゃの「10倍の価格」でもビジネスになる時代に
Cerevoは玩具メーカーではない。IoT機器や家電の開発を得意とするハードウエアベンチャーとして、国内では知る人ぞ知る存在だ。
映像配信用の機器やネット接続機能を備えた自転車、滑りを可視化できる「スマートスノーボード」など、ユニークな製品を作ってきた。
同社は過去にも、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する「ドミネーター」や、「攻殻機動隊 S.A.C.」に登場するロボット「タチコマ」の1/8モデルなど、「超ハイテクおもちゃ」的な製品を開発しており、「いまや密かに、自社の稼ぎ頭のひとつになっている」と岩佐CEOは言う。エリシュデーターは、そのシリーズの最新作だ。
一方で、こういう製品は大量に売れるわけではない。おもちゃメーカーが作る「光る剣」は、数万個・数十万個が販売される量産品だが、Cerevoが作る超ハイテクおもちゃは、その一桁・二桁少ない量しか売れない。
「そうした数で、しかも高度な製造技術を必要とする製品でも、今は製造委託ができるようになったことが大きい」と岩佐CEOは説明する。
現在のものづくりは、開発企業と生産を請け負う企業がコラボレーションする形で行うことが多い。この形は、スマートフォンのように「生産量が多いものを低価格に作る」ために生まれてきた側面があるが、生産請負企業の側の競争が激化したこと、彼らの能力が向上したことなどもあり、小ロットでも、開発企業と密接に連携できるなら、製造を請け負うようになってきている。
おもちゃメーカーやホビーメーカーが作るものは、高くても数千円・数万円で売られることを前提としている。当然、原価が高く、技術的に難しいものを作るのは限界がある。
だが、Cerevoのように「家電を作るノウハウ」を持つ企業が作ると、おもちゃメーカーよりも10倍高いが、圧倒的に凝った、高度なものが作れる。
製造技術とビジネスモデルの変化により、そうした「新しい市場」が生まれていることこそ、エリシュデーターが生まれた理由であり、もっとも興味深い点でもあるのだ。
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