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AIはエンジニアの仕事も奪うのか?次世代エンジニアに求められる「UXデザインスキル」のすべて

Rikaco Miyazaki

2018/01/12(最終更新日:2018/01/12)


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(写真左から)三宅陽一郎氏、尾原和啓氏(モニター登壇)、藤川真一氏

 ここ数年、「10年後になくなる仕事」「10年後も需要がある仕事」という話題を耳にすることが増えた。

 こういった話題において、私たちから仕事を奪うといわれているのが「AI」——「人工知能」である。

 上述したように“脅威“として捉えられがちなAIだが、エンジニアなくしてはAIが成長することはない。

 では、AIを成長させていく上で“エンジニアという職業”に変化は訪れるのだろうか? AI時代において、エンジニアにはどんなスキルが求められるのだろうか?

 『モチベーション革命—稼ぐために働きたくない世代の解体書』の著者であるIT批評家・尾原数啓氏と、国内最大級のEコマースプラットフォーム「BASE」のCTO・藤川真一氏、ゲームAI開発の第一人者である三宅陽一郎氏が対談したQREATOR SCHOOLのイベント「AI時代のエンジニアのモチベーション」から、その答えを探してみたい。

プロデューサーはAIのエンジニアリングを通して「どう人間がハマるか」を見る

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 「AI」と聞くと、将棋AIとプロ棋士が戦う「電王戦」を想像する人もいるだろう。AIを利用した代表的なサービスとして挙げられるものの1つが「ゲーム」なのだ。

 今回のイベントに登壇した三宅氏は「FINAL FANTASY XV」のリードAIアーキテクトを務めるなど、ゲーム界におけるAI開発の第一人者である。

“受動”と“能動”をコントロールしてユーザーを没入させる

 格闘ゲームのキャラクターを使って「AIはどこまで発達しているのか」を解説した三宅氏は、「ユーザーをパニックにさせる(アクションを起こす)ことが、ネットと現実の境目をわからなくさせる」と話した。

 淡々と“自分の思い通り”に展開していくゲームである場合、その世界観に没入することはなかなかできない。

 ある程度「ユーザーを混乱させる」ようなアクシデントや展開がなければ、そのゲームにハマらないのだ。

 また、三宅氏はエンタメにハマるかどうかを決定する要因について、「どのように受動と能動をコントロールするかで決まる」と、考えているようである。

次の時代のエンジニアに必要なのは「1人1人に最適なものを当てはめるスキル」

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 先の「受動と能動のコントロールによって、ユーザーが没入するか否かが決まる」という三宅氏の意見に対し、スクリーン上で登壇したIT批評家である尾原氏も同意した。

プランニングやプロデュースをする人は、AIのエンジニアリングを通して「どう人間がハマるのか」を考えている。

出典:QREATOR SCHOOL「AI時代のエンジニアのモチベーション」

 プロデューサーやプランナーたちがAIを利用することで、よりインタラクティブ(双方向、対話式)で面白い作品が完成する、と尾原氏は予測。

 最近では、AIが「ハリー・ポッター」の全7作品のデータを元に新作を書き上げるなど、小説や映画などといったエンタメ作品にもAIが活用されるシーンが増えてきた。

 つまり、今まで「対マス」でしか作られてこなかったコンテンツやプロダクトは、AIによって「1人1人」に向けて作ることが可能になってきたのだ。

 最後に尾原氏は、「AI時代においてエンジニアに必要なのは、(AIを活用して)1人1人に最適なものを当てはめていくスキル」だと語った。

 Google検索やターゲティング広告なども、AIを活用して「1人1人に最適化」したものである。

 そのことを踏まえると、これから求められるのは「個々人」に向けられたプロダクトであることが十二分に考えられるのだ。

AI時代のWebエンジニアに求められる「UXデザインスキル」

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今のエンジニアの要件に「人間を理解すること」は入っているか?

 “AI時代のエンジニアに求めるスキル”の話の流れから、BASE株式会社のCTOを務める藤川氏は「WebのエンジニアがAIを使いこなそうと思ったら、UXを自ら作れる仕事や作業をしなくてはいけない」と明言。

 この発言に続けて、藤川氏は「人間を理解するということが、今のエンジニアの要件には入っていないのではないだろうか?」と、Webエンジニアの現状について警鐘を鳴らす。

 たしかに、「UXD(ユーザー体験の設計)やUI(ユーザーとの接触点)」はデザイン、プロデューサー側が意識するべきものである、という認識が世間に広まっているかもしれない。

 しかしながら、UXDなどについてはプロダクトマネージャーやIA(情報アーキテクチャ)のエンジニアなどの設計側にも必要なものであると、藤川氏は考えているのだ。

Webエンジニアは「Webと人間側」を繋げて満足している可能性がある

 それではなぜ、WebエンジニアがAIを使いこなす上でUXDといった概念が重要になってくるのだろうか?

 その理由を語る上で、藤川氏は当時大流行したゲーム「シーマン」を開発したことでも知られる斎藤由多加氏が作成した小冊子「ゲームの作り方」を例示した。

 「ゲームの作り方」の冒頭には、以下のように書かれていたそうだ。

ゲームとは閉じたルートを作ることである。

出典:QREATOR SCHOOL「AI時代のエンジニアのモチベーション」

 ゲームが「ゲーム」という箱の中にルートを作るのに対し、Webは「人間側」にルートを作らなければならない。

 そのルート作りに固執し、Webエンジニアたちは「Webと人間側」をhttpなどを使ってどのように通信するか?というところで思考停止している可能性が高いのだ。

 「AIを活用した優れたWebサービスを作るのであれば、UIやUXDなどを意識して、(Webを人間側に繋げるだけでなく)人間と触れ合うとこまで設計する経験が必要になってくる」と、藤川氏は持論を述べた。

 AI時代のエンジニアにとっては、一方向的にルートを作るのではなく、「インタラクティブ」にプロダクトを作ることが必要不可欠なのかもしれない。

AI時代でも第一に考えるべきなのは「プロダクトを使うユーザー」

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AIはUXを向上させるための“ツール”

 ゲームに登場するキャラクターの人工知能を作っている三宅氏は、エンジニアがUXを意識する必要があるという話に「(自分自身も)いつも考えるのはUXなんですよね」と、共感した。

 というのも、三宅氏は「AIの有り無し」でUXが明らかに異なることを、ゲームを作る過程で経験しているからである。

 また、「“AIでUXをデザインしている”といったほうが正しい」と三宅氏。

 ぜひ、AI時代のエンジニアには「UXを向上するためのツール」としてAIを活用することを心がけてほしい。

 AI時代であるからといって「AI=人工知能」という認識に囚われず、エンジニアは「プロダクトを使うユーザー」のことを第一に考えることが肝要なのだ。


ビジネスに役立つエンタメ力が身につく「QREATOR SCHOOL」

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 緊急開催された「AI時代において、エンジニアの価値はどう変わるのか」では、IT批評家・尾原 和啓氏とBASE株式会社 CTO・藤川 真一氏、日本デジタルゲーム学会の理事・三宅 陽一郎氏が登壇したが、QREATOR SCHOOLでは今後も多種多様な業界のQREATORたちがイベントを行う予定だ。

 チャレンジをし続ける“面白い大人たち“に出会えるイベントになっているので、新しいモノ好きで、さまざまな業界や職種の話を聞きたいビジネスパーソンは、ぜひ足を運んでみて好奇心を刺激してもらってほしい。

 イベントの提供元である株式会社FIREBUGでは、テレビ番組の企画や、企業をプロデュースしている。

 同社が今までに築いたネットワークによって集めたQREATORたちが、どんなイベントを開催していくのか、本記事を読んでイベントに興味を持った方はぜひチェックしてみてほしい。

【プロフィール】
尾原和啓:IT批評家。京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員などを経て、現在13職目。著書『モチベーション革命—稼ぐために働きたくない世代の解体書』(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

藤川真一:BASE株式会社 取締役CTO。FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボ株式会社に入社。2007年から携帯向けTwitterクライアント「モバツイ」の開発・運営を個人で開始。2012年に想創社設立。モイ株式会社にてツイキャスのチーフアーキテクトを勤めた後、BASE株式会社 取締役CTOに就任。Twitter:@fshin2000

三宅陽一郎:京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員、IGDA日本ゲームAI専門部会チェア。著書『人工知能のための哲学塾』(BNN新社)等。Twitter:@miyayou


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