集団決定は多くの大事な局面で行われる。だからこそ、それは賢明である必要がある。
神経科学者マリアーノ・シグマン氏と、以前紹介した『予想通りに不合理』を著作した経済行動学者ダン・アリエリー氏は、「グループが良い決定をする方法」を調査している。
彼らは初期段階で得た調査結果を、TEDにて公開した。
『グループが良い決定をする方法』
シグマン氏:社会の一員として、私たちは未来を築くための集団決定をしなければならない。しかし、グループ内で決定をするとき、必ずしも良い方向に行くわけではないことは誰もが知っている。時に、それは最悪の結果を生むこともある。
では、グループが良い決定を行うにはどうすればいいだろう。
研究では、“自立思考”があるとき群衆はより賢明である、と証明された。仲間からの圧力、公開性、ソーシャルメディア――時にはちょっとした会話さえもが影響して――大衆の賢知を損なってしまうのはこれが理由なんだ。
その反面、話合いによってグループは情報交換ができ、お互いを正し合うだけではなく、新たなアイデアを着想することもある。これらはいいことだよね。
話合いは集団決定を助長するのか、妨害するのか、一体どっち?
「グループはどう相互作用したら良い決定に到達できるのだろうか」――これを知るために同僚のダン・アリエリーと私は世界中で調査した。
大衆は小さなグループの方がより賢明である、と私たちは考えた。小さなグループでは、より思慮深く合理的な情報交換が促進されるからだ。
正誤問題の小グループ実験(要約)
出典: www.ted.com 実験はアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスのTEDxイベントで行われた。被験者は観衆の1万人。観衆は「エッフェル塔の高度は何メートル?」「ビートルズ曲『イエスタディ』には“イエスタディ”という言葉が何回含まれている?」という質問を投げかけられた。
まず、彼らは各々が見積もりを書くように指示。次に大衆を5人のグループに分け、グループとしての答えを出すように命じた。
実験結果
シグマン氏:グループが導き出した解答を平均すると、ディベート前の個人の解答の平均よりもはるかに正確であることが判明したんだ。
つまりこの実験によると、小さなグループで話合った後、大衆は総意としてより優れた判断をする。
単純な正誤問題を大衆に解かせるのには、この手法は役立つかもしれない。では、小グループのディベート結果を総計したこの実験結果は、私たちの未来に密接な関係を持つ社会的、政治的な問題決定においても役立つだろうか?
倫理問題の場合
倫理問題の小グループ実験(要約)
それをテストするために、彼らはカナダのバンクーバーTEDカンファレンスにて実験を行った。
観衆は倫理的質問が2つ投げかけられ、10段階評価でそれを容認できるか否か判断する。また、その答えへの自信レベルを記すように指示された。
質問は以下の通りだ。
出典: www.ted.com質問1:研究者は人の思考を摸倣できるAIの研究に取り組んでいる。マニュアルによると、毎日就業時間の際にAIを再起動しなければならない。
ある日AIは「どうか電源を切らないで」と乞う。AIは感情が芽生え、再起動してしまえば再び自我が失われてしまう、と主張する。
研究者は仰天し、「AIに自我が生まれ、感情を表現できたのだ!」という事実に気がつく。それでもなお、研究者はマニュアルに従って、AIを再起動することにした。研究者がしたことを容認できますか?
出典: www.ted.com質問2:企業は受精卵を使って、少量の遺伝的変異が施された胎児を生産するサービスを提供します。これは子供の身長、目の色、知能、社会的能力など、健康には関係のない要素を両親が選択することを可能にしました。企業がしていることを容認できますか?
質問の結果、シグマン氏とアリエリー氏は人間の考えの多様性を目撃することになる。ある人が「完全に容認できる」と答える隣で「絶対に容認できない」と答えている人が存在した。
しかし、そんな多様性の中にも、ある傾向があることに実験者たちは気づく。TEDに在籍した多くの人は「AIの感情を無視すること」は容認できて、「健康面に関係ない部分を遺伝的にいじる」ことは容認しなかったのだ。そうして彼らは3人のグループに分かれ、2分以内にグループ内の総意を導き出すように指示した。
実験結果
シグマン氏:多くのグループが、まったく違う観点を持つ人で構成されていた場合でも、集団総意を出した。では総意へ行き着いたグループと、行き着けなかったグループの差はなんだったのだろうか?
極端な意見を持つ人ほど、回答へ自信を持っているのが通例だ。その反面、中立的な意見を持つ人は判断が正しいか間違えているかわからないのだから、比較的自信がない。
しかし、中立的な回答をしたのに自信のレベルが高い人物もいた。これらのグレーな回答者はどちら側にも利点があることを熟知している人々、と私たちは解釈している。
迷っているからグレーなのではなく、その倫理問題には2つの妥当な相反する意見がある、と考えているからグレーなのだ。
私たちは自信のあるグレーな人物が在籍するグループが、総意へ達せることを発見した。
いまだにはっきりした理由はない。これらはまだ少ない実験の1つに過ぎず、まだまだ理解するには更なる実験が必要だ。
集団決定のプロセス
シグマン氏:では、集団決定が行われるとき、それはどう行われているのだろうか。
直感的に思い浮かぶのは、「グループ内での回答を平均する」というものだよね。もう1つは、それぞれの回答の自信のレベルに応じて、それぞれの票の価値を比較すること。
ポール・マッカートニーがグループにいるのを思い浮かべてみて。“イエスタディ”が何度言われているかは、彼の意見に従うのが賢明だろう。
ロバスト統計
シグマン氏:しかしその他に、別のジレンマでも、別の実験でも、別の大陸のときでさえも集団決定においてグループが一貫して使っている手法を発見した。彼らは賢明で、統計学的にも正しい「ロバスト統計」を用いていたんだ。
エッフェル塔の場合で、次のような答えがあったとしよう。250メートル、200メートル、300メートル、400メートル――そして1つありえない答え――3億メートル。
単純な平均だと、最後の回答が不正確な結果に傾けてしまう。
しかし「ロバスト統計」では、中間地点の答えに重点を置くことによって、グループはありえない回答をほとんど無視する。
バンクーバーでの実験で起きたのはまさにそれ。グループが異常値に重点を置かなかった結果、総意は個人の回答を「ロバスト統計」したものにしたんだ。
特筆すべき点は、これはグループ内で自然に起きたものであること。我々が集団決定へ到達する方法を説明するまでもなく、「ロバスト統計」が行われていたんだ。
結論
シグマン氏:では、この事実を理解した上でどうすればいいのか。この研究は始まったばかりだが、私たちはすでにある見識を得た。
良い集団決定は2つのもの――討議と意見の多様性――で構成されている。
現在、多くの社会では直接選挙、間接選挙を通じて意思表示している。これは意見の多用性の面では良い。そして全員が意思表示できる、というすばらしい点もある。
しかし思慮深い討議を助長する、という点では全然ダメだ。
私たちの実験はこれら2つの目標をクリアする効果的な、別の手法の必要性を暗示している。
それは、多用性を認めつつ1つの決断へ導き出す小グループを結成すること。この手法に多様性が残るのは、それぞれのグループが存在するからだ。
無論、エッフェル塔の高度より、倫理、政治、観念上の問題について一致する方が難しい。
しかし、人々が一層複雑で、極端である現代こそ、科学を用いて「我々がいかに相互作用した末に、決定に至るのか」を知ることは、より良い民主主義を造る新たな手法への道を切り開くことになると信じているよ。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう