米Idealab社は多くの有名企業を輩出したスタートアップ・スタジオ(スタートアップを生み出す企業)である。1996年、この企業はビル・グロース氏によって起業された。
グロース氏はIdealabにて実に100社以上の企業の立ち上げを行った経験がある。100社以上ともなると、成功も失敗も味わっているのは必然。
スタートアップ企業を成功させる要因を知りたかった彼は、これまでの成功例、失敗例を分析し、体系的なデータを導き出した。
今回のTEDスピーチで、彼は「スタートアップ企業の成功に最も重要な主要因はタイミングである」と語る。
『スタートアップ企業が成功する唯一の主要因』
グロース氏:みなさんに「企業が成功する一番の要因」と「スタートアップ企業が成功するために一番大切なこと」についてお伝えできるのを、とても嬉しく思います。この発見には自分でも驚きました。
スタートアップ企業は世の中をよくするための至高の形式である、と私は信じています。
適切な株式のインセンティブを持つグループメンバーを集め、スタートアップ企業を組織すれば、これまでは不可能だった方法で人間の潜在能力を解き放つことができます。すばらしい偉業が達成できるのです。
では、スタートアップ企業はそれほど素晴らしいものなのに、なぜこんなにも失敗例が多いのでしょうか? 私はそれが知りたかったのです。
スタートアップ企業の成功に最も重要なことは、一体なんでしょうか。
その疑問に可能な限り体系的に取り組みたかったのです。それは、これまで多くの企業を見てきた体験から得た主観や誤解を避けたかったためです。
私がスタートアップ企業の成功要因を知りたかったというのも、私は12歳の頃からビジネスに携わってきました。中学生の頃はバス停でキャンディを販売し、高校ではソーラーエネルギー機器を、大学ではスピーカーの開発をしました。
大学卒業後は、ソフトウェア会社を起業することになります。そして20年前、Idealabを起業しました。そこで100社以上の企業を立ち上げ、多くの成功、そしてたくさんの大失敗を経験し、失敗から多くのことを学びました。
成功を導く5つの要因
グロース氏:私は成功例と失敗例の主要因を導き出そうと試みました。そのために、これら5つの要因に注意しました。
出典:www.ted.com1つ目は「アイデア」です。昔、私はアイディアがすべてだと思っていました。Idealabという社名は初めてアイディアが思い付いたときの、「ひらめきの瞬間」への信愛からつけたのです。
しかし、次第に「チーム、遂行力、適応力」がより重要ではないか、と思うようになります。ボクサーのマイク・タイソンのTEDスピーチを引用するとは夢にも思いませんでしたが、「みんな顔面を殴られるまでは、計画があるのだ」(笑)。
(会場笑)
ビジネスにおいてもまさに同じことが言えます。チームの実行力は、顧客に顔面を殴られることに順応する能力が大半を占めます。顧客が真の現実ですから。
そういうわけでチームが最も大切かもしれない、と思ったのです。
次に「ビジネスモデル」を観察しました。その企業が顧客から収益を生み出すための明確な道筋を立てられているのかどうか、です。これが成功への最も重要な要因ではないかと思い始めました。
次に「ファンディング」です。時には企業がとてつもない金額の資金を得ることがありました。これが一番大切なのかも?
そして最後はもちろん、「タイミング」です。そのアイディアに世界が追いついているかどうか。というのはアイディアが時代を先行していて、世界を教育しなければならないかどうか、です。逆にアイディアが時代遅れで、競争者がすでにあふれかえっていないか。
成功企業、失敗企業の分析・結果
グロース氏:これら5つの要因を基に多くの企業を注意深く分析しようと思いました。Idealabの100社とIdealab外100社を研究することによって、科学的結論を導き出したのです。
分析
出典:www.ted.comIdealab企業の上段――Citysearch社、CarsDirect社、GoTo社、NetZero社、Tickets.com社――これらはすべて十億ドル単位の成功を収めました。
一方、下段の企業5つ――Z.com社、Insider Pages社、MyLife社、Desktop Factory社、Peoplelink社――これらには大望を抱いたものの、失敗に終わりました。
そこで私はこれらの企業が5つの要因項目でどんなスコアを取ったかを割り出しました。
出典:www.ted.comIdealab外の企業に関しては、Airbnb社、Instagram社、Uber社、YouTube社、LinkedIn社などの大成功企業を分析しました。逆に失敗した企業は、Webvan社、Kozmo社、Pets.com社、Flooz社、Friendster社。
下段の企業は甚大な金額の資金があり、企業によってはビジネスモデルがあったにもかかわらず、成功しませんでした。これら企業の成功、失敗の大部分をどの要因が構成したのかを分析したところ、驚くべき結果になりました。
分析結果
出典:www.ted.com最も大切なのはタイミングだったのです。成功例と失敗例の差はタイミングが42%占めました。チームと遂行力は2位で、アイデアの独自性は実は3位だったのです。
これは絶対的な結果ではありませんし、なにもアイデアを軽視していいというわけではありません。しかしアイデアが一番でないことに私は大変驚きました。場合によってはタイミングが計られたかどうかは、アイデアより大切だったのです。
下位の2要素に関しては、実は納得しました。ビジネスモデルが下位にあることに納得できるのは、ビジネスモデル抜きで起業しても、作ったものに顧客ニーズがあれば後から付け足せばいいからです。
ファンディングに関しても同様で、最初は資金不足でも注目を集めれば――特に最近では――膨大な資金を調達するのはとてつもなく簡単です。
具体的な例
検証結果について具体的な例を上げましょう。Airbnb社のように爆発的な成功を収めた企業を見てみましょう。
あの企業は多くの賢明な投資家に投資を見送られたことで有名です。それは「誰も知らない人に家のスペースを貸し出すわけがない」と思っていたからです。
もちろん、それが間違いであることは証明されました。よいビジネスモデル、よいアイデア、素晴らしい遂行力に加え、成功した1つの理由はタイミングです。
Airbnb社は不況期真っただ中に出現します。人々は副収入を必要としていて、それが「他人に家を貸す」という抵抗を乗り越えさせたのでしょう。
同じことがUber社にも言えます。あのすばらしい企業も、突出したビジネスモデル、遂行力がありました。しかしなによりも運転手をシステムに組み込んだタイミングが完璧だったのです。
ドライバーも副収入を求めていたので、そのタイミングがとても重要でした。
Idealab社の初期の成功例、Citysearch社はウェブページのニーズが高まったときに出現しました。同じくGoTo.com社も――実はこの企業は1998年に、ここTEDで発表したのですが――多くの企業が低コストの交通手段を求めているときに起業しました。
当時は「アイディア様様だな」、と思っていましたがタイミングがより重要な要因だったのです。
そして失敗例を見てみましょう。オンラインエンターテインメント会社、Z.comを立ち上げた当初、我々は大きな期待を抱いていました。資金調達は十分済んでいて、素晴らしいビジネスモデルを持っていました。優れたハリウッドタレントと契約を結んだりもしたのです。
しかし1999年から2000年の間、ブロードバンド普及率は低く、ビデオコンテンツを視聴するのは困難でした。自身のブラウザに圧縮・伸張ソフトウェアを導入しなければならず、2003年に倒産してしまいました。
それからたった2年、圧縮・伸張問題がAdobe Flashによって解決し、アメリカでブロードバンド普及率が50%を超えたとき、YouTubeがジャストタイミングで到来。素晴らしいアイディアで、信じがたいタイミングです。事実、立ち上げ当初のYouTubeにはビジネスモデルがなく、うまくいくかどうかは未知数でした。
タイミングがお見事だったのです。
まとめ
グロース氏:要するに私がお伝えしたいのは、「確かに遂行力もアイデアもすごく重要です。しかしタイミングはそれよりも重要」ということです。
そしてタイミングを見計るのに一番いい方法は、あなたが提供する製品を受け入れる準備を顧客が整えられているか、真に見極めること。そして結果がどうであれ、真摯に受け止め、突っぱねないこと、です。
愛する製品を作って、プッシュしたいでしょうが、タイミングは真摯に受け止めましょう。
先ほども申し上げたように、私はスタートアップ企業が世界を変え、よりよい場所にしてくれることを信じています。これらの知恵が、成功率を少しでも上げ、素晴らしいものを世に輩出してくれることを願っています。
ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
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