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【書き起こし】アーティスト、ジョン・メイヤー「敬愛なる友人スティーブ・ジョブズから学んだこと」

森澤

2017/12/07(最終更新日:2017/12/07)


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by mak1e

 これまでも4度来日公演したことのある人気アーティストのジョン・メイヤー氏はシンガーソングライターとしても、ギタリストとしても特筆すべき成功を修めている。

 彼はグラミー賞を2001年から計7回受賞し、現代の三大ギタリストの一角としても有名だ。

 そんな彼が、スティーブ・ジョブズ氏と交友関係にあったことをご存じだろうか? 人気ミュージシャンとApple社の創業者、その関係性は結びつけがたいが、ジョン・メイヤー氏のファンからしたら基本知識なのだろうか。

  事実メイヤー氏はMacWorld 2004(アップル製品の展示イベント)にて、MacだけではなくiPhoneにもデフォルトで入っているDTMソフト、GarageBandのプレゼンテーションを手伝った。2007年のMacWorldにおいても彼は初代iPhone発表時にヒットソング「Gravity」や「World to Change」を演奏。

 こうしたことからも分かるように、彼は大のAppleファンで、スティーブ・ジョブズ氏との交友関係は胸が躍るものだったに違いない。

 彼はオクスフォード・ユニオンでのインタビューにて「スティーブ・ジョブズとの交友のきっかけ」「思い出深いエピソード」「スティーブ・ジョブズのような上司を持つ大切さ」「現代への危惧」を語った。

『敬愛なる友人、スティーブ・ジョブズから学んだこと』


スティーブと過ごして貴重な経験をたくさんしたけど、際立ったのはなんだろう。スティーブが僕に言ったすべてが思い出深いのは間違いないけどね。

ある日のディナーで、彼はすごく印象的な、ある種マントラ(真言)みたいなことを言ったんだ。

「パーティに顔を出し続けるんだ」ってね。

個人的に、世界一すばらしい言葉だと思ったよ。この言葉が彼を表していると思わない?

僕とスティーブは誠意ある友人だった。彼はいつも僕の個人的な電話に応えてくれて、それはびっくりするものだった。

僕が彼に電話するときは毎回、何か本当に言いたいことを用意していたんだ。この話は彼がどれだけ天才だったかにつながるのだけど、彼のタフさについても物語っている。

あるとき、僕はMacWorldのバックステージに立っていた。僕は大のMacファンで、実際彼に会ったのも2002年にコールドコールをかけて「Appleが大好きなんです」と言ったのがきっかけだしね。

(会場笑)

当時彼は電話越しで極度に緊張している僕に「安心して。嘘は見抜けるから」と言ったよ。それから友人になって、すぐにMacWorldの出演オファーが来た。

僕とスティーブがMacWorldの舞台裏にいたとき、僕はこう言ったんだ。「スティーブ、聞いてくれ。僕が愛した1999年発売のPowerBook G3のような、美しさをまとったヴィンテージコンピューターはどうだろうか?」と。

余談だけど、PowerBook G3ほど美しいコンピューターと僕はいまだに出会っていないよ。あれはバットマンのコンピューターみたいだ。

(会場笑)

とても興奮しながら「最新の機械を内蔵したPowerBook G3はどうだろう。なぜ作らないの?」と聞いた。彼はすぐに苦言を呈したよ。「14個しか売れないだろうから」ってね。

それで、僕は「おお……。わかった」と答える。

(会場笑)

この質問について、一年半働きかけ続けているのを想像して。線画はすでにあって――それもAutoCADで設計したやつね――3Dプリントでモデルがすでにあるのを想像してみてよ。

(会場爆笑)

そして僕が「明日がスティーブとの大事なミーティングだ!」とつぶやいたとする。それでもなお彼は、「たったの14個しか売れないよ」と言うだろう。

人に自分のアイデアを提示するのがどれだけエモーショナルことがわかるだろ?補足すると、僕が長年にわたってスティーブに投げたバカバカしいアイデアはこれだけじゃないよ。

MacWorldのとき、スティーブは僕をからかっていただけなのだけど、別の機会にちゃんとしたアイデアをもって彼に電話をかけた。

彼は必ずしもアイデアそのものを否定するわけではないかわりに、たった1つの質問でそれを一蹴するんだ。痛い質問というのがまた核心をついていたよ。スティーブ・ジョブズに「こんなアイデアがあるんだ」と電話をかける決意をしたのは、その核心ゆえだったっていうのにね。

(会場笑)

彼は「何でそれは家庭でしないのかな?」っていう核心的な質問をした。「ええと……。うん、確かに……」と僕。そして彼は話を変えて、「次はどこでツアーするんだい?」と尋ねる。僕が「日本」って答えると、彼は「寿司がすごくおいしいところだね」と返すわけだ。

企業界隈のスティーブ・ジョブズを知らないけど、懇願してでも通したいアイデアを持つ従業員の気持ちは想像を絶するだろうね。

スティーブ・ジョブズのような上司

スティーブの話から離れて、僕たちは共同でなにかを作っているとき、人の気持ちを傷つけることが禁じられている時代に生きていると思う。

でも傷つけ合うのは避けられない。時にはお互いを傷つけ合うチームでなくてはならないんだ。傷つけることを意図せずにね。それから問題を改善させるんだ。

音楽産業でも同じような時代の傾向を見た。いい? 僕も「『コンティニュアム(2006年)』にはヒットソングがない」と上司に言われたときは傷ついたよ。

だから、スタジオに入って新しい曲を2、3書こうとした。努力はしたんだ。

上司がヒットソングがないと思っていることが分かったとき、僕は本当に帰路で泣いたよ。苦労して作ったアルバムだったからね。

泣き終えて、「仕事に行き続けよう」と思った。「ヒットソングがない」と言うとき、彼は間違えていない。上司はただ、よりよくするために職務を全うしているだけだ。

会社が一丸となって向上しようとすると――全部で1つの生命体なのだから――トップにいる人は「それをするな。ダメだ、それはうまくいかない」という脳信号を部下に伝達する。

そう言われた部下が「あいつなんて嫌いだ。彼なんかと仕事ができるはずがない。僕の気持ちを傷つける、意地悪な奴なんだ」と言ってしくしく泣くと、すべてが崩壊する。

崩壊する理由は、上司を投票で蹴落とせるからだよ。その人が消えると「組織に似たなにか」はあるものの、実際の組織ではなくなる。怒って、仕事終わりに飲みに行って「彼って本当に嫌な奴だよね」と愚痴る相手がいなくなるんだ。

確かに彼は嫌な奴かもしれない。でも、彼はみんなが成功したときにはディナーをごちそうしてくれる。みんなの浮き沈みを見ているからね。

みんなが求める力を手に入れたのに、その力を使ってなにをすればいいかわかっていないっていうのはよく見る光景だよ。なぜならリーダーが少ししかいないから。

周りが常に優しいような環境で働きたいのだったら、それはそれですばらしい。だだし、成功を祝うことはないだろうね。

だから、すごくビッグなアーティストなのに、ヒットソングがない人物が存在するんだ。曲を発表したものの、その出来には彼ら自身が半信半疑。

これはアーティストら自身が求めていたものを手に入れたからこそ起きる現象だ。彼らは古参の人々を追い出した。そして自分自身に「何を作りたいんだ?」と問う。

保証するよ。同じ質問を僕自身にしたら、僕は時々ゴミを作りだすだろう。僕には経験が足りないからね。

だからこそ歳が離れた人がトップにいる、という感覚が自分にとって大切なんだ。自分みたいな人間を何人も見てきたような人。本当の意味でやるべきことを知るには何百もの雪の結晶を見続けなければならない。

そういった理由で僕は「ただ背中を押してくれる人間」を尊敬しているんだ。「一緒にやっているから、君を押すんだ。お互いよくなるためにもみ合おう」というような人間をね。

全員が勝者である「参加賞表彰文化」が形成されたあたりでそれが破綻したんだ。

厳しい人に直面すると、人は「彼はなんの権限があって僕にあんな口をきくんだ」と涙する。そして取締役会に訴え彼を解雇させるんだ。

そうなった今、君がミーティングの進行係をやることになる。それはすごく難しいよ。35歳である自分が21歳の管理をするのは、とても難しい話だ。その枠組みには優劣が存在しないからね。

だからスティーブや世間一般的な上司を僕は惜しむ。エディターや「こうするな」と言ってくれるような人を惜しむ。なぜなら今は「自分の身は自分で守れ」という時代だから。

我々はそれを求め、獲得した。だけど僕は、アーティストのアイデアをすべて受け入れる、忍耐強くて優しいマネージャーを持つことがそれほどすばらしいとは思えない。そのアーティストは何百万人ものファンを抱えているのに、彼らは朝4時のクラブ帰りに携帯をいじり、アホらしいものを褒め称える。

ヒエラルキーは真っ逆さま、窮するのはクオリティ。みんなが好き勝手やるからね。

好き勝手できず、つまずいて泣くことも時には必要だ。そのおかげで研究室へ舞い戻る。

泣きながら「いつか見返してやる」と思っていたとしても、それが成長につながる。後半はスティーブの質問への答えになってないけど、まあいいや。

(会場笑)

でも人の背中を押し続け、ミーティングそのものよりもチームとしての結果に関心を向けるような人のことを、スティーブの話をしていて思い出したんだ。

スティーブの下で働き、仕事に対しプライドを持って「明日は大事なミーティングだ!」と決意したものの、アイデアを質問1つで一蹴された人の気持ちは想像を絶する。

ありがとうございました。


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