新しい言語を習得するのはとても大変。どんな言語でもマスターするにはそれなりの手間、時間がかかるものだ。その過程で挫折し、中途半端に投げてしまう人も少なくないだろう。
今回の書き起こしではシド・エフロモビッチ氏によるTEDスピーチ『どんな言語でも学べる5つのテクニック』を紹介する。
スピーカーである彼は18歳から21歳の3年間で3ヵ国語を習得した。18歳までにも4ヵ国語習得していた彼が使用できる言語は全部で7ヵ国語。彼はどの言語習得も大して苦に感じず、聴衆も5つのテクニックを学べば語学が楽しくなると発言した。
『どんな言語でも学べる5つのテクニック』
エフロモビッチ:僕は7ヵ国語話せるんだ。それを人が知ったとき最も多いのは――「電話番号を教えて!」は除くね――「どうやったの?」「こんなに多くの言語をどう習得したの?」と尋ねられること。
今日、僕はその質問への答えを教えよう。つまり、僕の電話番号は212……(笑)。冗談。
(会場笑)
僕は多国語環境の中で育ったんだ。18歳になるまでにはすでに4ヵ国語習得していた。それに続く3年間で、加えて3ヵ国語習得したんだ。今日僕が話したいのはその3年間について。
僕の言語習得方法は、周りの人々とはまったく違っていたからね。周りの人たちにとって言語習得は途方に暮れるほど困難極まる作業である反面、僕にとってはとても楽しいものだった。こんなに楽しいことはなかったんだ!
今日は僕の言語習得法がなんでこんなにも楽しいものだったかをシェアする。
確かに、僕はそれまでに4ヵ国語を習得済みだった点において周りよりも有利だった。でもそれに加え、僕は言語習得をとても簡単にする5つのテクニック――5つのスキル、とでも言おうか――を心得ていたんだ。
今日はそれら5つのテクニックを紹介するよ。
1つ目のテクニック:「間違いを恐れない」
さっそく始めよう。まずは大きく深呼吸をしてリラックス。僕たちは今まで生きていてずっと物事を「正しく」行う方法を教えられてきた。生まれてこのかたずっと、物事の良し悪しと「正しい」方法を叩きこまれている。
言語習得においての黄金律――最も大切なのは――間違えることなんだ。それが第一のルール。なぜなのか説明しよう。
言語データベース
言語を習得しているということは、その言語の発音と文法を知っているということだ。このプレゼンテーションでは、言語データベ―スと呼ぼうか。言語データベースには、僕たちが知っている発音と文法が含まれているんだ。
けれども、僕たちの言語データベースに存在しない発音や文法はこの世にたくさん存在する。その言語に“上陸”し、“探検”するために必要な文法や発音が「正しい」と証明する情報や知識は僕らの言語データベースには備わっていない。
ある特定の言葉を正確に発音するとしよう。言語データベース上にこの言葉はない。例え正しく発音できたとしても、その発音は間違いのように感じてしまうだろう。「何か間違えている気がする」という不安でムカムカしたこと、今までにもあるだろう?
こういった不安を探し出さなければならない。なぜなら、そうすることが自身の言語データベースを超え、「新たな言語」という領域に達したという合図だからね。
スペイン語“Puerta”の例
さて、実際的な例を紹介しよう。スペイン語で”ドア”という言葉を学ぼうとしているとする。
スペイン語でドアは“Puerta(プエルタ)”。“Puerta”には英語で使う発音はいくつか含まれている。それは“Pu”、“e”、“ta”だ。
ところが“r”の発音でつまずくことになるだろう。巻き舌は僕ら英語ネイティブの言語データベースには存在しないからね。我々の英語言語データベースから少し外れている。
しかしその言葉が自分の言語データベースにないという不安を克服し、突き破り率先して間違いを犯そうとすれば巻き舌のような発音をすることが可能だ。
もう1つ起こりうるのは、自分の言語データベース上で近しい音を見つけること。スペイン語の“r”は英語の“ah-er(ダァァァ)”という発音に近い。
(会場笑)
そしてこの“ah-er”で“Puerta”を発音すると、スペイン語でまったく意味をなさないばかりか、少し下品でさえある。その上その言語について学ぶことがあまりない。
だから1つ目のテクニックは間違いを恐れないこと。“Puerta”のような言葉が正しく発音できるようにね。
2つ目のテクニック:「母国語的価値観の解体」
エフロモビッチ:1、2、3!
会場:マオ!
エフロモビッチ:すばらしい! そら、 2つ目に行くぞ! 1、2、3!
会場:ココ!
エフロモビッチ:さあ3つ目だ。1、2、3!
会場:コカオ!
エフロモビッチ:完璧だ! じゃあ4つ目! 1、2、3!
会場:……(静寂)。
エフロモビッチ:何が起きたのか説明しよう。これら4つの外国語に直面し、僕らはアメリカ人英語の価値観で解釈しようとしたんだ。その結果を伝えよう。
母国語的価値観
1つ目の“マオ”はポルトガル語で“手”という意味なんだけど、アメリカ人英語の価値観から“毛沢東(英語読み:マオ・ツォートン)”と理解した。
2つ目の“ココ”はポルトガル語で“ココナッツ”。そして発音記号を変えた3つ目の“コカオ”は“うんち”という意味に。でも僕らはアメリカ人英語的な価値観から“ココア”と解釈してしまった。
(会場笑)
4つ目は中国語の“huo”で“火”という意味。アメリカ人的な価値観ですごくクリエイティブに解釈しようとしたら、これは空手をしている男性に……。
(会場笑)
どちらにせよ、字面だけでは発音方法のヒントがあまりない。それがアメリカ人英語の観点からだけだと思うかもしれないけど、英語ネイティブではない人たちのことを想像してみて。そして“though”と“thought”の発音を説明してみよう。
もしくは英語圏外の人に“enough”が正しく、“enuf”が普通に間違いであることを。これらは字面上ほぼ一緒なのにまったく関連性がない。
以上のことから言語を学ぶとき、その言語外のアルファベットを応用しようとしても何もできないことがわかる。なぜって?上記の例みたいに、勘違いしてしまうから。
だから2つ目のテクニックは母国語を解体すること。母国語のアルファベットを解体するんだ。さて、方法を教えるよ。
解体方法2
エフロモビッチ:これはブラジルの通貨で“REAL”と綴られる。3つ数えたら、みんなでこの通貨の名前を言ってみよう。1、2、3!
会場:リアル!(少数:レアル!)
エフロモビッチ: この綴りを知っている人もいるみたいだね。でもほとんどの人は“リアル”って言ったでしょ。英語的な読み方をいかに知っていても、何のヒントにはならない。そしてポルトガル語で“リアル”は何の意味も持たないんだ。
ポルトガルで"REAL"の読み方は“レアル”だ。正しい読み方を教えよう。3つ数えたら、“hey”から“y”を抜いた“he(ヘ)”と発音しよう。さあ1、2、3!
会場:ヘ!
エフロモビッチ:パーフェクトだ! 次に“ouch”から“ch(チ)”を抜いた、“ou(アウ)”を発音してみて。1、2、3!
会場:アウ!
エフロモビッチ:完璧! これを連続に言うと“ヘアウ(レアル)”になる。
会場:ヘアウ!
エフロモビッチ:グレート! ブラジルの情熱的な資本主義者みたいだよ。
(会場笑)
エフロモビッチ:外国語を学ぶとき“he”や“au”などの方がよっぽどヒントをくれるのに、なぜ“リアル”というアメリカ人英語の価値観を用いようか。
僕らは一番目のテクニックで自身の言語データベースを打ち破り、間違えた。そして未知なる領域へ足を一歩踏み入れたのさ。
次に我々は実際に有効な情報を得るための表記法を学んだんだ。ではそれが間違いかどうかは、どう試せばいいのだろうか。
3つ目のテクニック:「几帳面な指摘者の探索」
それを試せるのが3つ目のテクニック。間違いを頑固に指摘してくれる人を見つけること。つまり几帳面で、間違いを見逃さない人だ。
そのテクニックはその言語をマスターしている人を探す、というよりは適切な関係性を築くこと。間違いを指摘することを恐れず、目標の言語習得レベルまで誘導してもらえる関係が望ましい。しかしそれと同時に間違えることを推奨し、心置きなく間違いをさせてくれるような人間。
そしてその「指摘者」というのは誰でも――先生、家庭教師、友人、クレイグスリストやスカイプで見つけた相手でも――かまわない。
「指摘者」はどこにでもいて、技術の進歩によってそのような人を探すのは簡単になった。
4つ目のテクニック:「シャワー・カンバセーション」
ここまで来たらお次は「練習」だ。そしてそのために、4つ目のテクニックがある。
僕は自分でも「奇妙だな」と思う行動をずっとしていたんだけど、後になってその有用性に気が付いた。というのも、僕は1人2役の「シャワー・カンバセーション」をずっとしていたんだ。
そして「シャワー・カンバセーション」は読んで字のごとくだよ。新しい言語を学ぶとき、僕はシャワーに数分長めに入っていた。そして1人で会話をしていたんだ。
中国語を習得しようとしていたとき、美味しい餃子を値切ろうとしたり、ぼったくろうとしていたのを憶えているよ。イタリア語のときはローマで一番美味しいピザ屋への道を聞いていた。とにかくすばらしかったよ。
シャワー・カンバセーションの利点
この「シャワー・カンバセーション」のとてもいい点は会話の両者を1人で演じるから、知識のギャップを認識できるところにある。例えば道を聞くのは簡単だけど、聞かれるのはどうだ? もっというと道を教えるときは?
「シャワー・カンバセーション」では1人2役演じなければならない。シャワー内である必要さえもないんだ。これまたすばらしいのが、どこにいてもできること。
シャワーでも、アパートでも、目的地へ向かっている最中でも、地下鉄でもね。冗談抜きに、ニューヨークの地下鉄で外国語をボソボソ言っても誰も驚かない。安心してくれたまえ。
(会場笑)
その上誰にも頼ることなく、1人でできるからね。僕はこれを何年も実践したよ。後になってプロのアスリートもやっていることを知った。
競泳のマイケル・フェルプス選手が全レース泳ぎ始める前、何度もイメージしている話が有名だ。それが彼にとって効果てきめんで、僕にもそうだった。だから君にも役立つと思うよ。
5つ目のテクニック:「共通言語が習得言語と一致する相手と練習」
ここまで僕らは言語を習得する方法を学んだ。次に「実践」で使うフェーズへ行こうか。それは「カンバセーション・バディ(会話相手)」を見つけること。「バディー・フォーミュラ」に則って会話相手を探すことをお勧めする。
これは、新たな言語を使うインセンティブを常に確かめてさせてくれる方法だ。そのためには、目的言語は会話相手と最も共通する言語であるべきだよ。
何故って? 僕と同じ動機で言語の勉強をしているなら、君はより多くの人と話し、外国人への理解を深めるために学んでいるはず。英語でも何語でも――母国語を喋れるというのに、両サイドが得意としない言語を話そうとすると、簡単に会話できる母国語の方に戻ってしまうだろう。
だから相手と一番共通する言語が習得したい言語と一致するような人をお勧めするよ。周りにいないんだったら、オンライン上で探すのはどうだろうか。もし国外旅行ができるなら最高だ。
このテクニックの欠点は自覚している。条件にぴったりと該当する人を探し出すのは難しいからね。でもいい知らせがある。
秘密の話ができる共通言語
それは職場で気づいたことだ。そこには僕と同じ多国語スピーカーの同僚がいた。僕らが一番得意とする共通言語は英語。それは疑う余地もない。そして得意な第2共通言語はフランス語だ。しかしオフィスではずっとドイツ語で話した。
なんでだと思う? それはオフィスに英語やフランス語を喋れる人間が他にいたから。
ドイツ語なら金曜日や土曜日のことを話し合ったとしても誰にもわからない。だから秘密話ができる共通言語でもいいんだ。
(会場笑)
それはとても便利なツールになるよ。友だちと秘密言語をシェアしていることは、公共の場でもプライバシーを守れる。どこにいてもプライベートな会話ができるんだ。
まとめ
まとめに入ろう。まず1つ目のテクニックでは自身の言語の壁を取り払って、言語データベース外の発音と文脈を探る。2つ目では後で未習言語に戻ってきて発音や文法を真似できるようなメモの表記法を学んだ。
3つ目に、指摘してくれる人間を見つけて、間違いをチェックする。4番目は練習。好きなところで「シャワー・カンバセーション」を行うことだ。最後に「バディ・フォーミュラ」に則って言語を共に練習する相手を見つけること。
5つのテクニック
- 1.間違いを恐れず、言語データベース外に到達する
- 2.母国語アルファベットの解体
- 3.几帳面な指摘者の探索
- 4.「シャワー・カンバセーション」の実践
- 5.一番の共通言語が習得言語と一致する相手との会話練習
すると、美しい世界へ到達できる(イタリア語)。言語習得がもはや困難でストレスフルな上退屈なものではなく(ドイツ語)、可能性に満ちた世界にね。我々1人1人が(スペイン語)新たな文化、国外の生活様式を学ぶ機会がある世界へ(フランス語)。
言語習得の一番すばらしい点は自分自身について知れる点(ポルトガル語)。今これはただのギリシャ語にしか聞こえないかもしれないが、だからといって学ばない理由にはならない(ギリシャ語)。
「千里の道も一歩から」と言う(北京語)。そしてみなさんは千里の道の歩み方を知ったので安心して(英語)。
ご清聴ありがとうございました。
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