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西田宗千佳のトレンドノート:ソニーaibo復活の裏にある「メカ屋の魂」

西田宗千佳

2017/11/08(最終更新日:2017/11/08)


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 11月1日ソニーは、同社を象徴するプロダクトの一つであるペットロボット「AIBO」を、「aibo」として復活させると発表した。発表会には平井一夫社長も登場し、「AIとロボティクスを組み合わせた商品」として強くアピールした。

 この時期にaiboが復活した理由は、ソニーの業績が回復し、未来に向けた余裕あるプロジェクト展開が可能になってきた……という事情が大きい。

 だが一方で、ソニーのような企業にとっては、aiboのような製品はまた別の側面も持っている。ソニーはなぜaiboを復活させることになったのか? それはソニーが「メカ屋の会社」でもあるからだ。

メカ屋の伝統が生んだ「AIBO」

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 aiboはなぜ復活することになったのか? aiboの開発リーダーである、ソニー執行役員 ビジネスエグゼクティブ AIロボティクスビジネスグループ長の川西泉氏は「会社としての要求ももちろんだが、現場からの希望も多かった。『AIBOを作りたい』という声が大きく、それに後押しされた」と話す。

 そしてこう続ける。

「特に『メカ屋』からの希望が大きかった。やはりソニーはメカ屋なので、そのノウハウがあるうちに作りたい、という部分はある」

 川西氏の言う「メカ屋」とは、「メカトロニクスの設計・製造をする人々」と言い換えていい。メカトロニクスとは、平たくいえば「動く」機械のこと。過去の家電メーカーは、メカトロニクスの技術とノウハウを多数持っていることが強みになっていた。

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 「ウォークマン」のようなポータブルカセットプレイヤーも、「ハンディカム」のようなビデオカメラも、そしてビデオデッキも、みなメカトロニクスが主軸になった製品である。その後ディスクの時代になってもやはりメカトロニクスは重要で、高速に回転するディスクをいかに扱うかがポイントだった。

 しかし現在、売れる家電の中でメカトロニクスが大切なものの比率は減っている。特にAV・IT関連の製品では、「動く部分が少ない」ものがほとんど。ソニー製品の中にも、メカトロニクスが関わる製品の比率は減っている。

 一方で、ソニーにおけるロボット事業は、同社のメカトロニクス技術の所産であったのもまた事実だ。初代AIBOが発売された1999年は、DVDすら普及する前で、メカトロニクス全盛の時代である。AIBOとそれに続く二足歩行ロボット「QRIO」には、ソニー内のメカトロニクスエンジニアが集まった。ウォークマンなどのAV機器からはもちろん、ソニー社内の工場生産設備などを手掛けるエンジニアまでもが集まった。ロボットは、ソニーのメカトロニクス技術をアピールする場でもあったのだ。

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 その後2006年、ソニーはAIBO事業をいったん休止する、と発表した。当時、AIBOの生産を担当したのは、「VAIOの里」としても知られていた、長野県安曇野にあるソニー安曇野工場。2014年、ソニーからPC事業が独立して「VAIO株式会社」になった時、安曇野工場もVAIOへと移譲され、すでにソニーの持ち物でAIBOの生産ノウハウはVAIOに引き継がれており、すでにソニー内部には一部しか残っていない。現在VAIOでは、いくつかの企業の「ロボットの生産委託を行なっている。AIBOはなくなったものの、そのノウハウは「日本の個人向けロボット生産」の礎となっている。

ロボットビジネスで重要になる「動く機械」のノウハウ

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 あれから12年が経過したが、川西氏は「AIBOをみて、AIBOに憧れてソニーに入った技術者も多く、彼らからAIBOを作りたい、という希望が出ていた」という。

 1年半前、2015年はじめに、ソニー内では新しいaiboの開発チームが組織された。その中に、過去のAIBOに関わった経験のある人々は意外なほど少なく「4名ほど」(川西氏)しかいないという。30代を中心にした、比較的若手のチームが担当している。

 ウォークマンもビデオデッキも、ディスクプレイヤーすら過去のものとなった時代、ソニーのメカトロニクスの主軸として使われるのは「デジタルカメラ」、それも「レンズ」の技術である。

 レンズのオートフォーカース技術は、すばやく正確にピントを合わせるために、強力かつ正確で、消費電力も小さなモーターを制御する技術が必須である。レンズのモーター制御技術は、aibo以外にもスマートロックの「QRIO」にも使われている。そういえば「QRIO」も、過去にはソニー製ロボットの商標だった。奇縁、といえるかもしれない。

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 これから、メカトロニクスが必要とされる分野は減ってしまうだろう。だが、なくなることはない。オートフォーカス用のレンズはその最たるものだし、今後の市場としては、自動運転車やロボットが有望だ。

 メカトロニクスには特にノウハウの蓄積が重要なジャンルである。長く問題なく動き続けることを保証するには、パーツを買ってきて組み立てるだけでなく、「どう動くか」「その結果どういう風に機会が傷むのか」といったことに関する、広範な情報の蓄積が必要になる。AIを使った機器は多数生まれているが、実際に「動く」もの、歩き回るものはそんなに多くない。

 自動掃除機などを手掛けるベンチャーが一時期増えたものの、信頼性が高いものを作れたのは少数の企業だけで、結局、ルンバを除くと、白物家電の老舗が軒を連ねる。IT関連技術では見劣りするものの、「吸い込む機械」「動く機械」を作る能力では、白物家電メーカーに一日の長があったため、そのような状況になったのだ。

 ロボットも同様だ。

 ソニーは初代AIBOで、「長い間、家庭の中で動き続けるロボットの難しさ」を知っている。あまり知られていないが、AIBOは意外と壊れやすく、サポートが非常に重要な製品だった。今後本格的なロボットビジネスをするには、過去にAIBOで培ったノウハウに加え、新しい知見が必要になる。

 ソニーがaiboを復活させたのは、メカトロニクスのノウハウとエンジニアが残っている今のうちに、ロボットビジネスに必要なノウハウを再構築するためだったのである。


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