ロボット時代の到来により、近い将来大勢の失業が予言されている。これは他人事ではない。日本にも「ロボット時代」が来て、多くのブルーカラー職とホワイトカラー職へ大打撃を加えるだろう。AI技術の発展によって、専門的な仕事もロボットが取って代わるのだから。
対抗策としてイーロン・マスク氏など多くの著名人はベーシックインカムを唱えているが、現時点で政府がそれを実現する可能性は薄い。やむを得ずベーシックインカムを導入しなければならない状況になってからでは手遅れなのだ。
イノベーターのデビッド・リー氏はTEDスピーチで「企業側が新職種を設計すること」を提唱。これによって彼は「ロボットと共存する未来」のみならず、「ロボット時代で人類がさらに幸せになる未来」を予見している。
以下がTEDスピーチ『未来の職業を「仕事」だと感じない理由』の全訳だ。
『未来の職業が「仕事」だと感じない理由』
我々は技術を発達させすぎてしまったがゆえに、失業時代へのレールを自ら敷いてしまいました。ロボット時代に対する妥当な懸念が広まっています。
ロボットカーの到来が一番わかりやすい例です。オートメーションは色んな意味で素晴らしいことを引き起こします。しかしアメリカ合衆国50州のうち23州で、「運転手」が最も一般的な職業であることをご存知でしょうか。
人間が運転や料理をしなくなり、病気の診断さえもロボットに一任するようになったら、それらの職業は一体どうなってしまうのでしょうか?
フォレスター・リサーチ社による最近の研究は、10年間で2,500万の職がなくなるとまで予想しました。広い視野で見ると、それは金融危機の余波で失われた職の3倍です。
そして危機に脅かされているのはブルーカラー労働者だけではありません。ウォール街からシリコンバレーまで、機械学習による分析や決定のクオリティーが凄まじく進化しているのを我々は目撃しています。この変化によって高収入で最も賢い人さえも影響を受けるでしょう。
ここ数年で、どんな職業でも――完全ではなくとも多少は――ロボットやソフトウェアが支配するようになることは明確です。マーク・ザッカーバーグ氏やビル・ゲイツ氏のような人々が政府資金によるベーシックインカムの必要性を提唱するのは、こうした理由に基づいています。
しかし、ヘルスケア制度や学校の給食についてでさえ合意できない政治家たちが、ユニバーサル・ベーシックインカムほど莫大な財源を要するものにコンセンサスを得る未来が見えません。
この問題はむしろ、私たち産業側が対応しなければならないものだと考えています。我々はこの先の変化を認識し、ロボット時代になっても必要な職業を作らなければなりません。
必要なのは“労働の性質”の変化
でも、良い知らせがあります。それは人類が大量失業危機に過去2回立ち向かい克服したことです。まず1870年から1970年の間、アメリカでの農業が90%減少した例。また、1950年から2010年にも、工場で働くアメリカ市民が70%も減少しました。
しかし今回我々が直面しているのは時間的問題です。農業から工場に移るまで100年かかり、サービス経済を完全に築くまで60年。
現在の変化度で見ると我々が適応するための時間は10年から15年しか残されていなくて、迅速に対応しないと今の小学生が大学生になるころには大半の人が失業し、大恐慌に窮するロボット時代に生きることを示唆しています。
とはいえ、助かる道もあります。
私はイノベーションの仕事をしていまして、大企業に新技術をどう適応させるか案じるのが仕事の1つです。もちろんこれらの新技術の中には従業員の職を代替するのに特化したものもあります。
しかし、労働の性質を変えるために今対策すれば、人々が職業を愛せるような職場づくりができるだけではなく、テクノロジーによって失われる職を代替するイノベーションを生み出すことができます。
失業する未来を防ぐ鍵は、まず何をもって我々が人間なのか再確認すること。そして、我々の秘めた能力や情熱を開放する人間中心の職業を、新世代の職業を創ることにある、と考えています。
ロボット問題を生み出したのは人類
しかしまずは、我々自身がロボット化問題を生み出したことを認識するのが大切です。それは何も我々がロボットを作ったから、というだけではありません。それは何十年も前にほとんどの職業が工場の外へ追いやられたにもかかわらず、我々がいまだに統一思想と無個性思想を持ち続けていることにあります。
我々はいまだに書類関連の仕事を職とみなし、そうしたタスクの労働時間に賃金を支払います。レジ係や融資業務担当者、タクシー運転手などの狭い範囲で職業を定義づけて、それらの単純作業でキャリアを成すようにしたのです。
この選択は実際に2つの副次的影響を残しました。1つ目は了見の狭い職業ができたこと。これらは最初にロボットから奪われるでしょう。単純作業をこなすロボットは一番簡単に作れますから。
2つ目は、世界中何百万人もの労働者の職業人生を信じられないほど退屈にするような仕事をうっかり設計してしまったことです。
(会場笑)
コールセンターの従業員
コールセンターの従業員の例を見てみましょう。ここ数十年間にわたって、我々は低コストでの経営を謳うようになりました。低コストの成因は、人から知力をほとんど奪って、タスクをマニュアル化したことにあります。
彼らは1日中画面をクリックし、マニュアルを読み上げる。彼らは人間と言うよりも、機械のように振舞います。
そして残念ながらこの先数十年間で、技術の発達につれ、販売員や簿記係と同じようにほとんどは失業するでしょう。
人間とロボットが共栄する職場環境
対抗策は、タスク中心の職業ではなく、スキルを中心とした新しい職業をつくり始めることです。
例えば、ロボットは反復的で制約のある作業を得意としますが、人間はこれまでにない問題に直面したとき、能力と独創力を織り交ぜるすばらしい才能があります。
それには日々驚かせられると同時に、職業がロボットではなく人間のために設計されているんだという事実を思い出させてくれます。
起業家やエンジニアはすでにその境地にいて、看護師や配管工、セラピストも同じくその境地に達しています。あまりに多くの企業や団体が従業員に「ただ来て働け」と命じているその性質が問題なのです。
しかし、ロボットの仕事の質が上回っていたり、AIの方がよりよい決断をするなら、あなたは何をすればいいのでしょうか?
経営者である我々は、今後数年で無くなる職業について現実的に案じ、それを補充するだけのさらに有意義で価値のある仕事を設計するべきです。人類とロボットがともに繁栄する環境をつくらなければなりません。
ロボットにもっと仕事をさせて、まずは我々が大嫌いなことをやらせましょう。「ロボットよ、このひどく馬鹿馬鹿しい報告書を処理するのだ。あとこの箱を動かしておいて。ありがとう」ってね。
(会場笑)
そして人類側はシカゴ大学のハリー・デービス教授のアドバイスに従うべきです。彼は新しい職は個性を出すものでなければならないことを示唆しました。つまり私が言いたいのは、「休日の人間はあんなにも素晴らしいのに」ということです。
休日の人間
知り合いが土曜日に何をしているか考えてみてください。彼らは芸術家にも、大工やシェフにも、アスリートにもなります。けれども月曜日を迎えると彼らはいつものジュニア人事担当やシステムアナリストに戻るのです。
(会場笑)
これらの視野の狭い職業は退屈そうに聞こえるだけではなく、狭く味気ない貢献度だから微細なモチベーションしか生み出しません。しかし、モチベーションをさらに引き出そうとすれば、彼らのポテンシャルに驚くことを私は身をもって体験しました。
試作コンテストとその結果
数年前、組織文化にイノベーションを定着させようとしている大手金融企業に勤めていました。そこで私はチームと誰でも参加可能な試作コンテストを開催したのです。
実際のところ我々は、イノベーションを阻害する素因はアイディアの欠如なのか才能の欠如なのかを見定めようとしていたのですが、どちらでもありませんでした。問題は権限がないことにありました。
試作コンテストの結果はすばらしいものでした。まずは人々が、「自身のチームに取り入れられるもの」を再度想像するようにしました。このコンテストは好きになんでも作れるだけではなく、好きな職種につけるものでもありました。
人々が日々の職位に制御されなくなったとき、彼らは遠慮なく多種多様のスキルと素質を問題解決に用いました。技術職の人々がデザイナーになるのを見ましたし、建築家になるマーケティング部門の人も、果てには財務部の人間がジョークを書く能力を見せつけるのも見ました。
(会場笑)
我々はこのコンテストを2回執り行い、その度に400人以上もの人が長年望んだ問題解決にあたり、予想外の才能を発揮するのを目の当たりにしました。総括すると、人々は何百万ドルにもなりうる貴重なアイディアを提出しました。
彼らが開発したのはコールセンターのプッシュフォンシステムや、以前よりも簡単な支店のデスクトップツール、従業員の職業体験の礎となった「サンキューカードシステム」など。
8週間にわたり、彼らは仕事で夢にも思わなかった才能を働かせました。彼らは新たなスキルを取得し、見知らぬ人と出会ったのです。
プログラム終了後、参加者の1人が寄ってきて「この数週間は私のキャリア上最も大変でしたが、一瞬たりとも仕事だと感じませんでした」とおっしゃいました。
それがキーポイント。その数週間、人々はクリエイターやイノベイターになりました。彼らは何年間も悩ませられた問題を解決できる日を夢見ていて、このコンテストはまさにその夢を実現するチャンスだったのです。
そしてその「切望」が我々人間と機械を切り離す要素です。今のところ機械はフラストレーションや怒りを感じませんし、想像もしません。しかし我々は人間として痛みも怒りも感じます。
そして最も困って、好奇心旺盛になるときこそ、人は問題に熱心に取り組むモチベーションを得て、変化を作るのです。新商品、新サービス、新産業の起源は我々のイマジネーションなのです。
リーダーとして問うべき質問
私は、アナリスト、専門職と称する人々の想像力から職業の未来が訪れると信じています。しかしこれは、彼らが冒険者や発明家になるために必要な自由と保護を与えたときのみに起きるのです。
本当に職をロボットに明け渡したいのであれば、我々はリーダーとして人に命令を下すマインドセットから離れ、どんな問題を解決したいのか、どんな才能を仕事に使いたいのかを人々に問うべきです。
土曜日の自分を水曜日の自分に持ってこられたら、月曜日をもっと待ちわびることができます。月曜日へ抱くそのような感情が我々を人間にする一要素なのですから。
そして我々がロボット時代に向けて職業を再設計している間、職業人生にいっそう「人間味」を取り入れるべく、ともに働きかけましょう。
ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
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