「インターネットの普及による生活の変化」と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろう?
情報収集ツールの変化、連絡手段の変化、働き方の変化など、さまざまな変化があるが、そのなかでも大きく変化を遂げたものの一つが「モノの売り方、届け方の変化」だ。
ボタンをクリックするだけで翌日に商品が届いたり、個人が簡単にECサイトで商品を販売できたりと、十数年前くらいには考えられない「売り方・届け方」の変化が起きている。
そんな現代における「新しいモノの売り方、届け方」について考えるイベントが、11月1日(水)ビジネスに活きるエンタメ力を身につける「QREATOR SCHOOL」にて行われた。
『進撃の巨人』編集者・川窪慎太郎氏がモデレーターを務める「ビジネスの巨人を編集する Vol.1」と題したイベントには、「モノの売り方」に変化を与えたサービス「BASE」を生み出した鶴岡裕太氏が登壇。
「これからのモノの売り方、そして届け方とは」というテーマについて、全く違うフィールドを生き抜く2人は何を語るのだろうか。
「新たなモノの価値」を決めるキーワードは「複製」「人間味」
「これからのモノの売り方、そして届け方とは?」というテーマについて語るべく、モデレーターである川窪氏が事前に用意していた質問を元にしながらトークが進行。
「モノの売り方・届け方」という点にとどまらず、両名の仕事内容や人間性に関することなどが話し合われた1時間半以上に及ぶトーク内容から、今後のモノの売り方や届け方に関わる「新たなモノの価値」についてお伝えしたい。
「お客様は神様」から「売り手と買い手の双方が楽しむ」時代へ
川窪:最近の漫画業界では、色んなメディアが出てきたことで、読者が感想を発信したり、二次創作を作ったりしやすくなり、ただ書店に単行本を置いておくところから、いかに読者を巻き込んでいくのか? が大事になってきていると感じていて。
「読者と漫画家(出版社)の境界線」が少しずつ曖昧になっているのかな、と僕は思っています。
鶴岡さんは「消費者と製造者の境界線」について、最近どう感じていますか?
鶴岡:ここ5年くらいのBASEを見ていると、購入者だった人が供給側にまわっているという実感があります。今まで自分の子どもに作っていた服を多めに作って「アパレルブランド」にする人とか、結構いますね。
あとは、最近オフラインでやったイベントで、オーナーさんがビール飲みながらモノを売っているところを見かけました(笑)。オーナーさんが購入者の目線で遊びながらモノを売っているんですよね。
音楽が流れている会場で、買う方も売る方もビール飲んでて……「売り手」がツラくて「買い手」が楽しくて、っていう関係ではなかったんです。
モノを売り買いする双方が楽しい!と思えることが「楽しさの最大化」に繋がっている感じがします。
買い手から売り手へ。境界線は自然とぼやけていく
トーク冒頭では「消費者と製造者の境界線」について、話し合われた。
漫画業界でいうと、読者がイラストサイトで二次創作やオリジナルのイラストや作品を公開し、そこで人気ユーザーともなればコミックイベントで「一読者」から「売り手」として漫画やグッズを販売する機会も多分にある。
川窪氏も、漫画の読者が自分の作品をSNSで公開している様子を見て「消費者が供給側へまわりやすい時代になったんだ」と実感したそうだ。
一方、誰でも簡単にWebショップを作ることができるBASEでは、今まで「趣味や生活の一貫」として子ども服を作っていた人たちが自らのブランドを立ち上げている。
どちらの場でも、簡単に「買い手から売り手」になれる今、お互いの境界線は自然にぼやけていくのでは? と鶴岡氏と話した。
もしかしたら、「お客様は神様」のような「買い手と売り手の上下関係」は、新たなモノの売り買いの中では薄れていくのかもしれない。
自分が決めた価値に共感してもらえる“承認欲求”の満たされ方
川窪:漫画家は、読者にページをめくらせるために「期待」を創出しないといけないのですが、そういう人間の欲求ってどうやって生まれると思いますか?
鶴岡:BASEにおいての欲求創出は、「SNS」の存在がすごく大きいと思います。大げさかもしれないけど、BASEはInstagramのおかげ成り立っているんじゃないか?と思うくらい(笑)。
モノの価値って、僕が今持っている紙に「1,000円の価値がある」と思った瞬間に「紙=1,000円」になるわけではないんですよね。他の誰かも「1,000円の価値がある」と言ったときに、初めてモノの価値が決まるんです。
そういうモノの価値のマッチング精度が(SNSの進化も相まって)ここ2、3年ですごく高まったと感じています。
川窪:それはモノの価値をマッチングさせるツールができたからですか?
鶴岡:そうですね。「モノの価値をマッチングできる機会」って、50年前だとリアルで会うしかなかったし、10年前のインターネットでは赤の他人には告知できないし。
それが今では、SNSで自分が作ったものを誰かが見てくれて、買ってくれる可能性が高くなっているんですよね。
自分が定めた価値に共感して「その価値がある!」って言ってもらう承認欲求の満たされ方、最強じゃないですか(笑)? これに勝る楽しさは今の時代にないかな、と。
自分が抱いている価値観と同じ価値観を持っている人が出会える可能性を広げたのが、多くの人にBASEを使ってもらっている本質的な理由だと思っています。
SNSが叶えた“価値のマッチング”
BASEなどの個人が出店するWebショップの場合、売り手がSNSを活用しているケースが多い。
売り手がSNSで発信することで得られるメリットは、モノを認知してもらえるだけでなく、モノの作り手について知ることもでき、さらには買い手と交流することもできる。
イベントテーマである「新しいモノの売り方・届け方」という観点でいえば、フリーマーケットなどのリアルで会わずとも、SNSを活用した“価値のマッチング”でモノを売る・届けるということができるようになったのだ。
複製できないモノの価値が上がっている
イベントでは川窪氏と鶴岡氏、両名に対してイベント参加者が質問する時間も設けられていた。
その質問コーナーで鶴岡氏に対して、BASEで今売れているモノはどんなモノか? という質問が投げかけられた。
果たして新たなモノの売り場では、一体どんなものが売れているのだろうか?
複製できないモノ=「人間性」が宿るモノ
——質問者:売れるモノが時代の流れとともに変わっていると思いますが、BASEで今売れているモノってどういうモノですか?
鶴岡:複製しやすいモノの価値は下がってきているように感じますね。大量生産できるモノとか。
「モノ消費からコト消費へ」のように、モノとか体験とかは関係なくて、ライブみたいに複製できないものの価値が上がってきていると思います。
(BASEに入っている)陶芸作家のショップとか、アパレルブランドのショップとか、単価もどんどん上がっていて、月売り上げも上がっている。
複製できるんだっけ?できないんだっけ?っていうところが大事かなって思います。
——質問者:複製できないっていうのは、どんなモノがあるんですか?
鶴岡:いい質問ですね(笑)。うーん……川窪さんはどう思いますか(笑)?
川窪:そうですね……僕はそれは“人間性”かな、と思います。編集者からすると、人間性が宿っている漫画とそうでない漫画があると感じるんですよね。
それは洋服や陶芸であっても、その作品を作った人の人間性が宿っているのであれば、複製できないものになる。同じ作り方をして見分けがほぼつかないようなモノになったとしても、人間性だけは真似できないですから。
ビジネスに役立つエンタメ力が身につく「QREATOR SCHOOL」
多種多様な業界でエンタメ力を武器に活躍する人たちが先生!
「ビジネスの巨人を編集する Vol.1」では『進撃の巨人』の編集者・川窪慎太郎氏とBASE株式会社のCEO・鶴岡裕太氏が登壇したが、QREATOR SCHOOLでは、今後も多種多様な業界のQREATORたちがイベントを行う予定だ。
チャレンジをし続ける“面白い大人たち”に出会えるイベントになっているので、新しいモノ好きで、様々な業界や職種の話を聞きたいビジネスパーソンは、ぜひ足を運んでみて好奇心を刺激してもらってほしい。
イベントの提供元である株式会社FIREBUGでは、テレビ番組の企画や、企業をプロデュースしている。
同社が今までに築いたネットワークによって集めたQREATORたちが、どんなイベントを開催していくのか、本記事を読んでイベントに興味を持った方はぜひチェックしてみてほしい。
【プロフィール】
■川窪 慎太郎:株式会社講談社 週刊少年マガジン編集部 副編集長。2006年に週刊少年マガジン編集部に配属。立ち上げから現在まで「進撃の巨人」を担当。その他の担当作品に「ふらいんぐうぃっち」「将来的に死んでくれ」「青春相関図」「五等分の花嫁」など。
■鶴岡 裕太:BASE株式会社 代表取締役CEO。2012年に22歳でBASE株式会社を設立。国内最大級のEコマースプラットフォーム「BASE」、お支払いアプリ「PAY ID」、開発者向けオンライン決済サービス「PAY.JP」を運営。
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