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【書き起こし】80,000 Hours創業者「充実した職業に就くには情熱に従うべきではない」

森澤

2017/10/24(最終更新日:2017/10/24)


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 「情熱に従って職業を見つけろ」とみんな口そろえて言う。しかし、そうすることが本当に正解なのだろうか? 実際、多くの人が自分の職業に対して不満を持っている。 

 今回はキャリアガイダンスをする企業80,000 Hoursを設立したベンジャミン・トッド氏によるTEDスピーチを書き起こす。

 彼は「充実感のあるキャリアを得るためには情熱を追い求めるのではなく、人のためになることをすべきだ」と提言。

「愛せる職業に就くには情熱に従うべきではない」

大学を卒業したとき、僕はどのキャリアを選ぶか迷っていました。「多くのことに興味を持っているけど、どれを追求して、仕事にすればいいのだろう?」という具合に。

 彼は大学在学中に興味があったという、武術、哲学、投資と金融学について語った。特に投資と金融額を追求すれば、いい年収を得られるが、彼は「社会に役立てないかもしれない」という理由でやめた。

 つまり、それらすべてが彼らのキャリア条件を満たさなかったのである。

「情熱を職業にする」の頼りなさ

「どうすれば充実したキャリア選択ができるんだろう?」みなさんも自分に問うたことがあるかもしれません。

この問いについて考えてみるにつれ、いかに自分がキャリアの選び方を知らないかを自覚しました。本を読んだり、キャリアカウンセラーに相談したりしましたが、真に求めている情報は得られません。

僕が求めていたのは、「最終的に何ができるようになれるの?」「今必要なスキルって何?」「社会的な需要があって、僕が変化をもたらしうる分野はどれ?」への答えです。この未回答の問いのせいで、僕は数年の遅れをとってしまいました。

結局具体的なキャリアにはつかずに、僕は「どのキャリアにつくべきなのか」ということを専心して研究する組織、80,000 Hoursを設立。

80,000時間というのは、一生涯の労働時間。だから人々は、「その時間で何をすれば有効的か」を真剣に研究をするべきなのです。

(中略)

ここでの研究から、「現代のキャリアアドバイスは間違えたことに焦点をあてている」、そう結論付きました。

「職」の歴史

歴史的に見て長い間、職は基本的に世襲制でした。80年代の人々は「貪欲であることはいいこと」と考え、大金を稼ぐことに焦点をあてました。

しかし我々の世代はこれらとは異なるキャリアアドバイスを聞いて育ちました。それは「情熱があることを職業にしよう」。90年代半ばから、このフレーズの使用は劇的に増えた。

今、我々は「情熱があること」……自分の興味や情熱を求めるのではなく、人々にどう貢献できるのか、世界をいかによくできるかに焦点を当てるべきです。

体験談

僕のキャリア選択に話を戻しましょう。「情熱に従う」ということは、どう僕に当てはまるでしょうか?

「情熱に従う」は3つのことをさせます。まず、真に興味があることを見つけること。次に、その興味にマッチする職を見つける。最後は、何があろうとそのキャリアを追求すること。

このアドバイスでいうと、充実した職を見つけることは、自分の情熱を追求するだけの勇気を持つことなのです。

僕の場合、武術と哲学に興味を持っていました。さて、僕はどのキャリアを選択すべきなのでしょうか。少林寺の僧侶になるべきなのでしょう。仏教と武術がありますからね(笑)。

このアドバイスの理論はどうなっているのでしょうか? それは情熱と職が合致すれば、仕事は楽しめるし、モチベーションも大いにある。だから、成功する可能性は高いという理論です。

また、情熱のある職につければ、充実したキャリア生活を送れる。そう言われれば、結構なアドバイスに聞こえるでしょう?

しかしもう少し考えてみましょう。情熱に従うと、失敗に終える可能性が高いことが判明しました。なぜ僕がそういうのかって? データを見てみましょう。

情熱に従う=失敗

カナダ人500名を調査した結果、彼らの一番の情熱はアイスホッケーとダンスだということがわかりました。90%の人々がスポーツ、音楽、芸術などに情熱があったのです。

しかし国勢調査から、スポーツ、音楽、芸術に関する職業はたった3%しかないことがわかります。そのため、10人に1人が情熱に従ったとしても、ほとんどが失敗で終わることは必然ですね。

だから、「情熱のあることを職業にする」のはうまくいかないと言えるでしょう。

2つ目の「情熱のある職業につけば、充実したキャリアを送れる」ということに関しても信憑性が薄いように思えます。

たとえ情熱のある職業について成功したとしても、充実したキャリアライフに失敗することはあります。それはその職を有意義に感じないかもしれないから。

僕が金融業界に就職しなかった理由の1つはこれにあります。「興味はあって成功もできるかもしれないけど、変化をもたらすことはできない。だからそれで最終的に充実しないかもしれない」と僕は考えたのです。

したがって、その理論も通りません。

情熱を職にすると早死にする

この時点で、あなた方は以下のように考えているかもしれない。「情熱だけが大切でないことはわかった。情熱に従ったとしても、成功するとは限らないから。でも少なくとも成功と充実したキャリアライフの実現の可能性は上がるだろう? キャリアアドバイスとして、これは精一杯なんだ」と。

しかしこれも間違えていると思います。

あなた方の知る中で最も積極的な人を――セールスと説得に情熱を持ち、外交的な人を――思い浮かべてご覧ください。

間違いなくそのような人は「マッドマン」(2007~2015年のテレビドラマ)のように、広告・営業マネージャーになるべきでしょう。もしくは、自動車セールスマンになるべきかもしれない。

なんであれ、販売と外向的に人と話す職に就くべきです。しかし、それはとても悪い選択だということが判明しました。

ターマン研究を分析してみると、情熱的で積極的なタイプのセールスマンは普通の人よりも、燃え尽きやすく、早死にすることがわかります。情熱を追求することは実際、死につながった。

もっと一般的な話をしますと、研究者たちは何十年間もインタレスト・マッチと仕事の成功率、充実性の関連性を証明しようとしてきました。しかし今のところ、この2つの強い関連性は証明できていません。

これは興味と職がただ関係ないのではなく、本当のキャリア選択となったとき、興味は決定打ではなく、他のこと――スキルや考え方など――の方がよっぽど大切だということだと思います。

我々は興味がその真価よりも大切だと思いがちです。興味の変わりけな性質を度外視しているのです。

5年、10年前の興味が今とどれほど違うか考えてみてください。当時あなた方は子供で、まったく別のことに興味を持っていたでしょう。

5年や10年後、あなたは再びまったく別のことに興味を持つ。これらすべてはあなたの現在の興味はキャリア選択をするにあたって、しっかりした土台ではないことを意味します。

充実したキャリアの中身

さて、興味に焦点をあてないなら何にあてるべきなのでしょうか? 情熱に従わないなら、何をすべきなのでしょうか?

キャリアアドバイスをまとめて1つのスローガンにするとしたら私はこうします。「価値のあることをしなさい」

これは真に人のためになり、世界をよりよくすることに焦点をあてなさい、ということです。それが充実したキャリアのコツ。

当たり前のように、価値のあることは世界のためになります。

人類は長い間、「人のためになるということは個人的な充足感と幸せにつながる」と提唱し続けています。このスライドにいくつかの引用文があります。

1つ目だけ読もう。「人の真の豊かさは善行にある。――ハリル・ジブラーン」

本日我々はこれを裏付ける確かなデータを持っています。心理学者、マーティン・セリグマンによる学術書『Flourish(2011)』は、過去数十年間の実証研究をまとめようとしました。その研究内容とは、人に充足感と幸せ味わわせる原因は何か。

そして彼は、主要素の2つは価値のあることをすることだと指摘したのです。

主要素の2つ

1つ目は成果:熟練とも言われています。これは物事に打ち込んで、堪能になることを指します。

2つ目は意味:意義を持つことです。これは自己満足を超えた何かをしようとすること。つまり、世界に貢献することなのです。

この2つを合わせると、「世界をよりよくすることに熟練する」となります。つまり、価値のあることをすること。

価値のあることをすることによる利益

思うに、価値のあることをするのは、他にも個人的な利益があると思います。

チャリティーで働いていたとしても、一番影響力のある人が最も価値のあることをし、募金調達をより容易く行い、目的を達成する。それも大切なことです。

また僕自分の経験から、人のためになることをすると、たくさんの人が応援してくれます。だから実際、利他主義者は自分独自のことをするよりも、成功しやすい。

「情熱に従う」は逆

「情熱に従え」というアドバイスは物事をあべこべにすることがわかりました。今情熱を持っていることから始めて、成功や充足感がついてくることを願うというよりは、価値のあることに焦点をあて、それが情熱、充足感のあるキャリアにつながるという方が正しいのです。

僕はこれを自分の経験から見つけました。僕が16歳のころキャリアテストをしたとして、「人にキャリアガイダンスをしたいか」という質問が出てきたら「嫌だ」というボタンをクリックしたでしょうね。

僕はシャイで、科学に興味を持っていたので人にキャリアアドバイスを与えることはまったく魅力的ではなかっただろうから。

しかし今、僕は自分の時間すべてをキャリアアドバイスに費やし、完全に心を奪われ、魅了されています。価値のあることをするのは、明確で意味のある目標を僕に与え、人生の質を上げてくれました。

存在もしないのに「自分の興味の中で天職になるのはどれか」と絶え間なく熟考するのは終わったのです。



充実したキャリアの選択方法

それでは、実際にキャリアにおいて価値のあることをするのにどうすればいいのだろうか。そして、どのような行程を歩めばいいのでしょうか。

これは自社80,000 Hoursでほとんどの時間を費やして研究していること。今からできる3つの事柄を超要約して、お伝えします。

3つのステップ

1つ目は調査すること。世界について、学べるだけ学び、様々な分野で自分が適しているかどうか試しましょう。

価値のあることをしたいのであれば、現実世界でそれを見出さなければなりません。自分の興味や利益を考えているだけでは、それは見つからないのです。

次に、スキルを習得し、手練れになるのです。需要があり、多様な分野で活かせるスキルを選ぶといいでしょう。ここ10年間ですと、コンピュータープログラミングを推奨します。

このスキル習得においてやっと、情熱が関係してきます。なぜなら今現在情熱があることは、将来熟練できることへのヒントになるからです。考える価値があります。でも、それのみが大切ではない、ということを忘れてはなりません。

スキルを習得したのち、それを適用し解決できる大きな、そして差し迫った社会問題を探し出しましょう。ただ大事なだけの社会問題を選ばないよう注意してください。理不尽にも、人から注目されてない事柄を探しましょう。なぜなら、そのような分野なら、最大の影響を尽くすことができますから。

そして最後に、価値のあることをするためには医者になってアフリカへ行き、自らが直接手を下す必要はないことを留意してください。大きな社会問題はしばしば、研究や新たな技術開発、広告などでアイデアを宣布することによって解決されることがあります。

自分のスキルと合致し、最大のインパクトを残せる分野を考え出すのがキー。

僕は、価値のあることをすることは実際直感的なものだと思っています。

自分の死に際を想像して、80,000時間のキャリアを振り返り、考えられる2つのシナリオを思い浮かべてみてください。

まず自分にこう聞きます。「自分の得意なことをしたし、楽しくやったつもりだ。大金を得て、2つの家とヨットを所有している。でもそれに何の意味があったのだろうか?」

次に「チャリティーで死ぬほど頑張ったし、簡単ではなかったが努力によってマラリアで死にゆく100人の子供たちを救った。しかし、これに何の意味があっただろうか?」と聞きます。

第一のシナリオはありふれた後悔です。しかし2つ目はほとんど予想のつかないもの。もちろん、それはやりがいのあるキャリアだったことでしょう。

利他主義を貫く生き方

利他主義でいて後悔することは絶対にありません。

自分のキャリアで本当に充足感を味わいたいのならば、自己中心的な考えはやめて、人のためにどう役立てるか自問自答すべき。この考え方が一人一人の思考にある世界を想像してみてください。

愛す職に就きたいのであれば、情熱に従うのみではなく、価値のあることをしましょう。

研究し、スキルを得て、大きな差し迫った問題を解決すれば、充足感と情熱のあるキャリアは訪れます。

キャリアは80,000時間あります。無駄にせず、有意義に使いましょう。


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