未知の惑星に不時着し、そこに住む進化した猿たちの奴隷と化した宇宙飛行士が、脱出を試みた先の浜辺で朽ち果てた“自由の女神像”を発見して号泣する。
彼が、そして観客が未知の惑星と思っていたのは、あろうことか、未来の地球の惨めな姿だったのだ……。
半世紀続いたロングシリーズが遂に終結!
人類の未来像を最後はタイムスリップを用いて大胆に予測し、SF映画史にその名を刻む「猿の惑星」は、その後、続編4作が製作されるほどの人気シリーズとなり、一旦終了。
2001年にはティム・バートンがマーク・ウォールバーグ主演でリメイク版「PLANET OF THE APES/猿の惑星」を発表するが、残念ながらブーム再来とはならなかった。
しかし、収益化可能なレガシーならば必ず蘇らせるハリウッドは、第1作のプリクエル(前日譚)と位置付けて新シリーズ計3作の製作に踏み切る。こうして、「猿の惑星:創生記(ジェネシス)」を手始めに、続く「猿の惑星:新世紀(ライジング)」、そして、最新作「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」が発表され、間を開けて延べ半世紀続いたシリーズは遂に幕を閉じることになった。配給元に確認したところ、シリーズのリブート(再起動)は、今のところ、ない、ということだ。
パフォーマンス・キャプチャーの発達がもたらしたもの
何せ半世紀だから前置きが長くなってしまった。さて、ご存知のように新シリーズの売りは、そもそもは人間が開発したアルツハイマー治療薬の投与によって、高度な知的変化を遂げ、やがて対人間戦争に突入していく猿たちの“人並み外れた”表情だ。
そこで導入されたのがパフォーマンス・キャプチャー、つまり、俳優の表情や動きをPC上にデータ化し、それをCGに移し替える画期的なシステムである。これによって、物語の核になるチンパンジーやオランウータンたちは、物語の設定と同じく、人間を凌駕するような豊富でデリケートな演技が可能になったのだ。
最大の功労者はアンディ・サーキス!!
その最たるものが、主人公のチンパンジー、シーザーを演じるアンディ・サーキスだ。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(01〜03)のゴラム役でモーション・キャプチャー(パフォーマンス・キャプチャーの旧バージョン)の第1人者と呼ばれるようになったサーキスは、「創生期」では猿を虐待する人間に対し、仲間たちを率いて蜂起するリーダーの怒りを、「新世紀」では人類との共存を模索しながらも、種の存続のために戦闘を決意するまでの葛藤を渾身の演技で表現。
素顔は封印し、CGのチンパンジーに自分の表情を言わば“注入する”その作業は、献身以外の何ものでもない。サーキスに度々アカデミー賞の可能性が浮上するのは、いかに彼がこの分野で同業者やファンから尊敬を集めているかの証拠なのだ。
「聖戦記」では、猿と人類が全面戦争に突入してから2年後、冷酷非道なリーダー、大佐率いる人類軍によって、最愛の家族を虐殺されたシーザーが、数少ない仲間と共に復讐のロードを決行する様子が描かれる。
本作からパフォーマンス・キャプチャーが屋外ロケにも対応できるようになったことで、シーザー一行が馬に跨がって雪の原野を疾走する場面など、背景とCGの溶け込み方が半端ないし、何よりも、例えば大佐を演じるウッディ・ハレルソンには申し訳ないけれど、3作目にして、いよいよシーザーは俳優が演じる人間を演技力で超えてしまっている。家族を殺され、仲間を失い、自分はボロボロになっても尚、次世代に希望を託そうとするその演技、その姿は、神々しいほどだ。
理想のリーダー像がそこにある?
前作から続投する監督のマット・リーヴスが、本作でのシーザーをモーゼに例えている。モーゼとは、旧聖書で神から倫理の根本原理を簡潔に示した“十戒”が記された石板を授かり、海を割り、海底に道を作ったとされる予言者だ。
シーザーとモーゼに共通するのは、どんな困難も理性と信念で切り抜け、自分はさて置き、明るい未来を部下に託そうとする理想のリーダー像。そんな上司を渇望するビジネスパーソンの目に、CGの猿がどう映るか? 試しに一見をオススメする。
【作品情報】
「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」
10月13日(金) 全国ロードショー
© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
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