Amazon.comは言わずもがな、世界中の人々が利用している大企業だ。2017年版「ジェトロ世界貿易投資報告」によると、Amazon.comはEC市場シェアにおいて米国、英国、ドイツ、フランス、そして日本においてトップという快挙を成し遂げている。
今回は、そんなAmazon.comの創業者でありCEOのジェフ・べゾス氏が自社の誕生を振り返ったもの。彼はこのスピーチで「Amazonの誕生秘話」「後悔最小化理論」「苦労から得たこと」について語る。
また、Q&Aにおいてべゾス氏は「スタートアップ起業に向けたアドバイス」と「リスク」を語った。
なお、このスピーチはアカデミー・オブ・アチーブメントにて2001年頃に行われたもので、動画の提供はCorporate Valley社による。
Amazon.comの誕生
こんにちは、僕の名前はガース・ファガン(振付師)です。今から振り付けの話をしよう! 嘘です(笑)。
(会場笑)
約7年前(スピーチは2001年頃のものと思われる)、僕はAmazon.comという名の素晴らしい旅路を歩みはじめました。当時、実はこの会社はAmazonと呼ばれてさえいなかったのです。
当初はCadabra,Inc.(株式会社カタブラ)と言う名前で、アブラカタブラからとりました。シアトルへの道中、自社を法人化するため弁護士に電話をかけたのです。
弁護士から「会社の名前はどうしますか?」と聞かれ、僕は「カタブラでお願い」と答えた。そしたら彼から「え、Cadaver(発:カダヴァー/意:死体)かい?」と聞き返されました。彼はこの名前をよく思っていなかったのです。
数ヵ月後、この会社名を改名しました。
Amazon.comを起業へと導いたのは、1994年春のWeb使用率が毎年2,300%という数字で伸びているのを発見したから。普通、物事はそのような早さでは伸びません。非常にまれな増加率でした。
当時これについて正確な研究は行われていませんでしたが、Webの使用率がその場限りでないことは明らかだったのです。それが、毎年2,300%で伸びている。これは明らかに、近い将来世界中でWebが普及することを示していました。
問題は、この信じられない増加の中で、どのようなビジネスプランが理にかなっているか。そこで、オンラインで第一に販売する最適な製品を探し出すために、多くの分野を調べ、20の商品リストを作りました。
その中から、様々な理由を元に、本を選びました。それはある側面で本が非常に特別だったから。本には、他のどの製品よりも、たくさんのカテゴリーがあることです。
本にはいつでも何百万冊という種類があります。そしてコンピューターは膨大な数のものを整理するのに優れています。
また、現実世界の書店やカタログに何百万種もの本を取り扱うのは物理的に不可能です。現実世界ではどうしても作れないものを作れるという、Webの性質にもマッチしていました。
1994年、まだ新しい技術であるWebでビジネスをするには、「こうでなければできない」という形をとらなければならなかった。それが僕を本へと導きました。
「後悔最小化理論」
Webで本を売ることを決めたとき、僕はまず妻に相談しました。彼女はまぬけだけど比較的安定した夫――つまりウォール街にある会社に勤務している僕――と結婚した。
起業は厳しい決断でした。僕はそのような重大な決断をするときに適した考えの枠組みを探して、見つけたのが「後悔最小化理論」。
「後悔最小化理論」と言うと仰々しいけど、これは80歳になったときの自分を想像して、人生を回顧したときに、できる限り後悔の数が少ないようにしようというもの。
これは多くの人が無意識下で行っていることだと思います。多くの人は健全だから、「後悔最小化理論」なんて名前はつけないだろうけど。
(会場笑)
でも、僕にとって「後悔最小化理論」は、このような人生決断を行うのに必要な方法だった。
僕は次のように考えました。「僕がAmazon.comを起業し、これからとても重要になると考えているインターネットに関与して失敗したとしたら、後悔するだろうか?」それに対する答えは明白。答えは「ノー」。
同時に、それをせずにあきらめたら、常に後悔することになるだろうということもわかっていました。
後悔が、この空想上の80歳まで続く――ちなみに、その歳になれることを願っております。近頃、妻が僕の食生活を改善しようとしておりまして、ワイル博士(健康医学研究者)は彼女のヒーロー。
もし客席にいらっしゃるなら、あなたの考えた食事制限は私に降りかかっています。長い目で見れば、僕の健康をよくしてくれているのでしょうけど。
(会場笑)
これがAmazon.com発足につながった決断方法です。
発足当初のAmazon.com社
Amazon.com社が創立するまでの準備段階には、まだまだ膨大な量の話があります。ソフトウェアのインフラを作成したり、ベンダー関係管理を整えたりするのに1年かかりました。
1995年7月、Amazon.comを始める1日前、僕らは37平方メートルの流通センターを見ていたのですが、ソフトウェアエンジニアの1人が「これが楽観していいものなのか、絶望的にみじめなのかがわからない」と言いました。
37平方メートルというのは車を1台収容できる車庫のサイズと一緒で、裏にはソフトウェアがあれど、流通センターごっこのおもちゃセットみたいなものでした。
(会場笑)
なるほど、僕らはその問いに答えることができなかった。初期段階で、顧客がこのような新サービスをどう受け止めるかなんて、知る由がない。
そこには多くのリスクがありました。
リスク
今日客席にいる僕の両親はAmazon.comの第一資金提供者だったのです。両親はAmazon.comに老後の蓄えの大部分、およそ$300,000を投資してくれた。
父親からの1つ目の質問は「インターネットって、何?」でした。つまり、彼らはコンセプトやアイデアに賭けていたわけではなく、自分の息子に賭けていたのです。
僕は彼らに「70%の確率で、投資したお金をすべて失う」と伝えました。それは重要な情報開示。だって何が起きても感謝祭のディナーには出席したかったからね。彼らの投資が成功したことをとても嬉しく思います。
それでも、僕は通常よりも3倍もうまくいく予測をしていました。スタートアップ企業というのはとても難しく、実際には10%以下の企業しか初期投資を黒字にしません。僕は両親に70%と言ったので、30%のチャンスを見込んでいました。とても自信過剰です。
しかし、物事はうまいく運びました。スタートアップ企業というのは、どんな悪いことが起きてもおかしくないから、奇跡的レベルでうまく運ばないといけない。
思わぬ反響
1995年7月にAmazon.com社を立ち上げたとき、我々は顧客の反響に驚きました。文字通り最初の1ヵ月で、米国全土、外国45ヵ国からの注文があったのです。そして私たちはみじめなほどに、この莫大な量の注文を処理する準備が整っていませんでした。
実際、地主にすぐ相談して、約185平方メートルの地下倉庫のようなところに移りました。天井まではたったの180cmで、従業員の1人の身長は185cmあった。だから彼はずっと首を曲げていましたよ。
(会場笑)
僕らは朝、小さなスタートアップ企業が10人の従業員でできるプログラミングなどの作業をして、午後や早朝の時間を注文のパッキングやシッピングにつぎ込みました。
そしてUPS(米貨物運送会社)まで運転し、すでに閉店したドアをノックする。彼らは僕たちに同情してくれ、遅れてもシッピングさせてくれたのです。
準備ができていないにもかかわらず注文を多く抱えていたため、実際、僕たちの流通センターには組織的な側面はまったくなかった。僕ら全員が堅いコンクリートの上で、自らの手足で包装をしていたのです。
これは馬鹿げた話なんだけど、所属する人全員が包装をしている様子を見て、ひらめいた。そして僕は隣の人にこう言いました。「この包装作業で身体の節々が痛い。背中も、膝も痛いんだ」。彼は「君の言いたいこと、わかるよ」と答える。
それに対し僕はいたって真面目に、「何が必要かって――これは天才的なアイデアなんだけど――膝あてが必要なんだ!」と言い放ったのです。
(会場笑)
隣の人が、人生で一番頭の悪い人に会ったような目を僕に向けてきた。まるで「俺はこの人のために働いているのか。やばいな」と思っているように。そして彼はこう言う。「必要なのは包装用テーブルだよ」
(会場爆笑)
僕は彼の答えが、人生で聞いた中で一番知的なアイデアだと思った。パッキングテーブルを購入した次の日から、生産性は2倍になったと思う。
準備不足から得たこと
Amazon.com社の初期段階の準備不足は、とりわけ幸運なことの一つでした。なぜならそれが、カスタマーサービスという文化を全従業員間で作ったから。
自らの手で、顧客と密接な関係を持ち、注文品がきちんと発送されたかを確認しなければならなかった。それが僕たちに顧客中心の文化を形成するというすばらしいことを起こしたのです。そうして、僕たちの目標は世界一顧客中心の企業になることになった。
(タイマーが)ゼロと表示されているので、そろそろ終わります。これからは、Q&Aに移りましょう。3つほどの質問に答える時間があります。
(会場拍手)
ベゾス流スタートアップ企業へのアドバイス
Q:今のITスタートアップ企業にアドバイスするとしたら、どんなことを言いますか?
ITスタートアップ企業へのアドバイスは、どんな分野の起業家にも向けて言うことと同じです。それは「情熱を注げることに焦点を当てられているか」ということ。
初期のIT企業を見てみると、彼らはインターネットが流行するずいぶんと前から、彼ら自身がとても関心を持っていることに焦点を当てていた。
現在Amazon.comは再び劣勢に戻っている。創設から6年たちましたが、我々が勝者に輝いた時代はたったの1年だけでした。それは1999年。
僕は劣勢時代も好きです。それは、Amazon.comに行こうとしたら両親から「頭がおかしい」と認定されていた時代が好きだから。幸運なことに、またその劣勢時代に戻ってきました。
(会場笑)
1999年だったら、両親たちは兄弟たちにハイタッチをしてこう自慢しました:「私の息子はAmazon.comで働くのだ」と。
スタートアップ企業を作るときは――僕は人生のすべてにおいてこれが言えると思っているんだけど――流行りに便乗するべきではない。
起業家として起業するのであれば、関心のあることから真の顧客価値を作りえるものを選び、その場に留まって、流行りが自分に追いつくまで待つのです。
Q:(本以外でも)選ぼうと思った商品はありましたか?
リストは通信販売を参考に作りました。だから、リストの原案は通信販売の人気順に並んでいました。
例えば、アパレル系は通信販売の中でもポピュラーだったから、リストのトップに近かった。他だと、音楽、ビデオ、コンピューターソフトウェア、ハードウェアがトップに近かったですね。
Q:べゾス氏の人生、またAmazon.comでの成功においてリスクはどのような意味を持っていますか?
思うに、何をしようとしても人生にリスクはつきものなのです。そして、リスクは進歩するための必需品。
それぞれの人生においてやりたいことは多種多様だと思うけど、僕は探検が好きだ。困ったことなんだけど、僕は本物の探検家にすごくなりたい。
リチャード・フランシス・バートンみたいな探検家になりたかったもんです。ナイル川の源を探し、槍を投げられたらどんなに楽しいだろう。最高だと思います。
(会場笑)
(中略)そしてもちろん宇宙。長い間、宇宙には強い興味を持っていて、いつか行ってみたいと思っています。これらすべてにリスクが伴う。
先駆的なことをするなら、どんなことであっても、リスクが伴います。それ以外の方法を僕は知らない。
そして、Amazon.com社は最初に、初期段階の企業が必ずすべきことをしました。つまりリスクの削減です。
スタートアップ時の大切なお金を――僕の場合は両親からの$300,000と20名の天使のような投資家たちから頂いた数百万ドルを――それにつぎ込むのです。大切な初期資金を使って、リスクを1つ1つ順に除去します。
初期段階では運が必要ですが、その末に望むのは、運に左右されないようなスケールの企業になり、企業自体が自身の命運を決められるようになること。
それは、企業を代表するチームの人々への責任感にもつながります。僕らの場合、すでに自社の命運を自分たちで握っているから、今Amazon.com社で働く7,000名の従業員は昔よりも更に強い責任感を持って働いている。
リスクを十分に順に取り除いた今、僕らは有力かつ長続きする企業を作らないといけない。それが出来なかったら、みっともないです。
ありがとうございました。
(会場拍手)
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