月曜日の朝、熱々のコーヒーと重たい書類を抱えて会議室のドアを開けると、既に賑やかな雑談が始まっている。唯一空いていた席に座って、コーヒーをすする。
大きなテーブルを囲む十数人はほとんど有色人種である。約半数はカナダで生まれ育っていない。女性の数は約七割を占めている。年齢は20代から50代まで揃っている。
オープンなゲイは自分の他にもう一人いる。多文化共生の都市であるトロントの人口を考慮すれば、この多様なチームは決して珍しいものではない。このような職場が増えていく中で、多様性というソフトスキルが今まで以上に重要視されるようになっている。
多文化共生とダイバーシティ戦略
2011年に行われたカナダのセンサス(国勢調査)によれば、カナダ人口の約20%はヴィジブル・マイノリティー(非白人、有色人種)だと自認している。トロントのような都心部の場合、ヴィジブル・マイノリティーが人口の46%を占める。
多文化な人々が共に働く光景はもはや当たり前である。人権の尊重やコンプライアンスなど、今までどちらかというと受動的だった企業のダイバーシティ戦略も、多種多様な人材を最大限に生かそうとより積極的な方向性が注目を集めるようになってきた。
例えば、Googleのダイバーシティ・コアというプログラムでは社員が20%の労働時間を使って、社内外で多様性を推し進めるプロジェクトに取り組むことができる。このようなプログラムによって、社内のクリエイティビティが向上し、新たなイノベーションが生まれたりするとGoogleは考えている。
こうした多様性を重視する方向性に同意しない人もいる。先月、Googleの男性ソフトウェアエンジニアは「IT技術者や管理職に女性が少ないのは性差別が理由ではなく、女性と男性は生まれつき能力に違いがあるからだ」という内容の文章を匿名で社内掲示板に書き、多くの批判を集めた。
Googleが公表しているデータによれば、女性が占める比率は管理職が25%で、IT技術職は20%である。この数字を変えようと、Googleは女性のIT技術者を育成するプロジェクトなどに力を入れている。
それらの取り組みを否定する文章はGoogleの企業方針からも大きく逸れていた。彼の多様性に否定的な意見を差別だと考える声もあれば、それは言論の自由だと主張もする声もあった。数日後、その文章を書いた社員は解雇された。
差別や偏見の可視化、高まる関心
世界を騒がせたシャーロッツビルのネオナチ行進に見られるように、アメリカやカナダでは白人至上主義や反移民の意見を掲げるオルタナ右翼やヘイトグループが存在感を増している。
そんな中で、多様性に関する意見は非常に繊細な問題となり、ソーシャルメディア上の個人の発言を理由に解雇されるケースは珍しくない。社員の差別的な言動がそのまま組織やブランドのイメージダウンに繋がってしまうからだ。
今年、ハーバード大学はFacebook上の差別的な発言を理由に10名の新入生の入学許可を取り消して話題となった。2014年、ウェブブラウザ「Firefox」などを開発するMozillaのCEOブレンダン・アイク氏は反同性婚の姿勢を批判され、就任から10日で自ら辞任をすることになった。
一方で、ドナルド・トランプのような人がアメリカの大統領に就任していることも事実である。シャーロッツビルのネオナチ行進について「責任は双方にある」と発言し、トランプは各方面から強く批判された。
多様化というソフトスキルの重要性
こうした社会背景もあって、多様性は今まさにスポットライトを浴びている。グローバルな問題をクリティカルに分析し、多様なチームをまとめるリーダーシップがあって、差別や偏見のない職場づくりに貢献できる能力がより重視されている。
それに伴って、教育現場ではカルチュラル・インテリジェンスやシステム・シンキングといった多様性に関連するソフトスキルへの関心が増えている。
このコラムでは、トロントでダイバーシティ促進や人権教育に関わる自分自身の経験と、世界中で起きていることを織り交ぜながら、「多様性というソフトスキルの育て方」をテーマにしたい。
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