現在公開中の「ワンダーウーマン」は、セクシーなだけのアメコミ・ヒロインの枠を軽く飛び越え、どんな場面でも信念を曲げないパワフルでしなやかな女性像を確立して、世界的ヒットを打ち立てると同時に来年のオスカー候補の呼び声も高い。
女性監督としてハリウッド映画史上最高の収益をあげたパティ・ジェンキンスは、2019年公開予定の続編でもメガホンを任されることになった。
「ワンダーウーマン」の次は「アトミック・ブロンド」!
男社会のハリウッドで気を吐いているのは女性監督だけじゃない。
男優との不当なギャラ格差に怒り心頭の女優たちも、根強い女性差別と必死に格闘している。その代表格が、ジェンキンスの監督デビュー作「モンスター」(03)でアカデミー主演女優賞に輝いたシャーリーズ・セロンだ。
モデル出身の長身でスリムなパーフェクトボディは、ディオールのイメージモデルとして最適だし、オスカー女優でありながら、アクション女優としても機能している点がセロンの強み。
そもそも女優の仕事が少ないハリウッドで、さらに需要のないアクション映画で実績を積むことがいかに困難かは、かつて多くの女優がこの分野に挑戦し、一時注目されても、その後、撤退を余儀なくされてきた経緯を見ても明らかだ。
彼女が原作に魅せられたワケとは?
コミックを映画化した2005年の「イーオン・フラックス」以来、いち早くアクションに活路を見出してきたセロンが、原作のグラフィックノベルを出版前のパイロット版で読み、速攻で映画化権を買い取り、準備してきたのが、最新主演作「アトミック・ブロンド」だ。
自ら主宰する映画製作会社“デンバー&デリラ”を率いて、製作と脚本にも携わり、実に5年を費やして完成させた最新作のどこにセロンはそれ程惚れ込んだのか?
物語は、壁崩壊直前のベルリンを主な舞台に、英国秘密情報部MI6の敏腕エージェント、ローレン・ブロートンが、消えたスパイリストを奪還すべく暗躍する姿を描く。
東西統合前のベルリンに漂うデカダンなムード、スパイがスパイで居られた最後の時代へのオマージュ、MI6(英)、CIA(米)、KGB(露)、体外治安総局DGSE(仏)が四つ巴で展開する諜報戦の熾烈、繰り出される残酷なバイオレンスシーン、そして、誰も予測できない意外すぎる結末……。
特訓相手はキアヌ・リーヴスだった?
しかし、何よりセロンが着目したのは、ヒロインのローレンがジェームズ・ボンドやイーサン・ハントに匹敵する、否、それ以上に魅力的な女性スパイとして躍動している点だという。
それを具現化するため、彼女はクランクインの2ヵ月前からフィジカル・トレーニングを開始する。特訓場所は「ジョン・ウィック」(15)と「ジョン・ウィック:チャプター2」(17)を監督したチャド・スタエルスキのトレーニング施設で、特訓相手は、たまたま「ジョン・ウィック2」の準備に入っていたキアヌ・リーヴスだったというからちょっと笑える。
セロンとキアヌは「スウィート・ノベンバー」(01)で共演以来、旧知の間柄だったのだ。
ディオールが特別に衣装を提供
女優デビュー前、バレリーナを目指していたというセロンが、生来のしなやかな動きにキアヌと特訓した格闘技のスキルをプラスして演じる、劇中のラスト7分半・1カットのファイトシーンは、映画最大の見せ場。
また、セロン自身がアイデアを出したというファッションも魅力の一つだ。
プラチナブロンドのヘアを靡かせ、スパイの必須アイテムであるトレンチコートではなく、ニーハイブーツにレザージャケットというスタイルで崩れゆくベルリンを疾走するローレンの勇姿は、まるでパンクロックのMVを見るよう。
また、セロンのクライアントであるディオールのアーカイブからは、暗闇に浮き立つ真紅のコートが特別に貸し出されている。
ハリウッドでもどこでも、実績がモノを言う!!
製作開始から5年の間には存亡の危機もあったと聞く本作だが、それが実現に向けてスピードアップしたきっかけは、近年のアクション映画で最も成功した「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)で孤高の女戦士、フュリオサに扮したセロンの演技(オスカー候補も取り沙汰された)が、作品と共に高く評価されたからだとか。
つまり、要は実績。性別に関係なく、質のいい作品を作り続けることがステップアップに繫がることを、パティ・ジェンキンスとシャーリーズ・セロンは身を以て証明しているだけなのだ。
実績主義。これほど重く、説得力がある言葉はない。
【作品情報】
「アトミック・ブロンド」
公式HP:https://atomic-blonde.jp/
10月20日(金) 全国ロードショー
配給:KADOKAWA
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