魔女=Witchは映画を面白くするキーアイテム。現在ヒット中の「美女と野獣」で美男子王子に呪いをかけて醜い姿に変えるのは魔女だし、「奥様は魔女」では魔法が夫婦生活の潤滑油になっていた。
しかしそもそも、魔女ってナニ? という根本的な疑問に答えるのがこの夏に公開される「ウィッチ」だ。
17世紀アメリカ東部に実在する話がベース
注目の女優、アニヤ・テイラー=ジョイ。 17世紀後半のアメリカ、ニューイングランドにはイギリスから入植した厳格な清教徒たちがコロニーを形成していた。彼らには新天地で腐敗した英国国教会を改革したいという強い意欲があったために、それが神に反するもの、つまり、悪魔や魔女を炙り出し、処刑するという極端な方向へと向かわせる。
1692年にマサチューセッツ州セイラムで200人近い村人が魔女として告発され、その中の多くが処刑された“セイラムの魔女裁判”は史実として記録されていて、裁判前後の経緯は後にダニエル・デイ=ルイス主演で映画化(「クルーシブル」97)されている。
突如、赤ん坊が姿を消した!
「ウィッチ」はセイラム裁判からさらに遡ること62年、同じニューイングランドに敬虔な清教徒一家が入植する場面から始まる。人里離れた原野に粗末な住まいを構え、神に日々の出来事を報告し、信仰心を確認し合う一家の生活は、ある日、生まれたばかりの赤子が忽然と姿を消したことで一変する。
父親は家長としての自尊心を、そして、母親は夫への信頼と平常心を失い、やがて、彼らの恐怖の矛先は、赤子を消える寸前まであやしていた長女のトマシンへ向けられる。
消えた子供のすぐ側には、一家が恐れ、忌み嫌う魔女の森があった。長男のケイレブは何かの惹きつけられるようにして森に足を踏み入れ、数日後、変わり果てた姿で発見される。
あれ以来、悪夢にうなされ続けた母親はいよいよ常軌を逸し、なぜか凶暴化した家畜が父親に襲いかかる。カオスとヒステリー状態の中で、遂にトマシンは決断する。自分が向かうべき場所がどこなのかを悟るのだ。
時には目を背けたくなるシーンも
人に魔法をかけて闇へと引き込み、一方で不可能を可能にしてしまうマジックの使い手でもある魔女=Witchが、実は歴史に記録された宗教的な背景と、人間が持つ恐怖心や猜疑心の捌け口として存在していたことを、単なるオカルト映画の枠を超え、ここまでリアルに描いたケースは稀だろう。“魔女の作られ方”を分かり易く描いたという意味でも。
特に、地味な入植ものとして始まった映画が、後半、怒濤のショック演出を積み重ねて凶暴化していく様は圧巻。レイティングはあくまでG(一般)だが、人によってはけっこうダメなシーンが幾つかあるかも知れない。
克明に再現された17世紀のライフスタイル
17世紀ニューイングンドの入植者生活を保存する博物館に展示されていた家屋、服装、ライフスタイルなどをヒントに、それらを克明に再現する質素なアートディレクションと、ほぼ自然光のみを照明に使った撮影、そして、通常の画面よりも横幅が狭い1.33:1のアスペクト比(通常は2.35:1)は、観客を“家庭内魔女狩りワールド”へと誘うツールとして有効に使われている。
脚本と衣装デザインも兼任したロバート・エガースは、2015年のサンダンス映画祭で監督賞に輝いている。
ヒロインを演じる逸材、アニヤ・テイラー=ジョイ
同時に「ウィッチ」からはニュースターが誕生した。本作で本格的な映画デビューを果たしたトマシン役のアニヤ・テイラー=ジョイ(21歳)だ。
彼女の透き通るような表情と演技に触発されたM・ナイト・シャマランは「スプリット」(16)のヒロインに抜擢。次回作で「アンブレイカブル」シリーズの最新作となる「Glass」の主役も彼女に振っている。見えない何かに取り込まれていく少女の心理を、フルヌードも厭わず表現するその女優魂は、今後も要注意だ。
【作品情報】
「ウィッチ」
©︎Witch Movie, LCC. ALL Right Reserved.
配給:インターフィルム
7月22日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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