Windows 10以降、マイクロソフトは、OSの大型バージョンアップを「年に2回」と定めている。過去のような「バージョン名」を変えたバージョンアップはなくなり、同じ「Windows 10」のまま、無料で機能変更が続けられている。
4月には「Creators Update」と名付けられた大型アップデートがあったが、次は秋に「Fall Creators Update」が控えている。次回のアップデート、実は、マイクロソフトの大きな変化の表れでもある。
5月10日〜13日、米シアトルで開かれた開発者会議「Microsoft Build 2017」の取材から、年末のWindowsの姿を探ってみよう。
PCからスマホへの「コピペ」も実現
Fall Creators Updateで追加される、Windows 10の最大の変化は「スマホ連携」である。
1つ例を挙げよう。
PCで書いていたメールの続きをスマホで書くために、自分にメールした経験はないだろうか? 現在、いわゆる「コピー&ペースト」は、同じ機器間でないとできないのが基本。
だが、秋にFall Creators Updateが行われたWindows 10では、「Cloud-powered Clipboard」の登場により、それが変わる。自分が使っているPC同士で、機器をまたいでコピー&ペーストが行えたり、PCからスマホへとコピー&ペーストできたりする。
機器をまたいで「コピー&ペースト」ができる「Cloud-powered Clipboard」が登場。 また、新しく追加される「Timeline」という機能を使うと、コピペ以上のことも可能になる。
Windows 10の新機能「Timeline」。あなたが行った作業を覚えておいて、機器をまたいで活用可能にする。 PC上では色んな作業をする。ウェブを見て、文書ファイルを作り、音楽を聴いて映像も見る。メールなどでコミュニケーションをとることも多い。Timelineは、そうした作業の履歴を時系列で記憶し、機器間で連携可能にするものだ。
例えば、あるPCで「音楽を聴きながら」「資料になるウェブを開き」「パワーポイントで文書を作っていた」としよう。別のPCに移動すると、自分が前のPCでやっていた作業がポップアップし、クリックひとつですべての続きがスタートする。自分でファイルを探して開く必要はない。PCで読んでいたウェブの続きを移動中に読みたい時は、スマホからTimelineの履歴をたどり、ウェブを呼び出して読むことができる。
他のPCでやっていた作業を、まとめて1クリックで「いま使っているPC」で再現。 TimelineはPC同士での連携である以上に、スマホとの間をつなぐ機能でもある。冒頭で説明した「Cloud-powered Clipboard」も、その中で働く機能である。
すべてのスマホと連携するWindows
Fall Creators Updateが登場すると、Windows 10のコントロールパネルには「Phone」が現れる。ここに自分の持っているスマートフォンを登録することで、Timelineを含めたデバイス連携が可能になる。
Fall Creators Updateではコントロールパネルに「Phone」が追加になる。 こうした機能が提案される時、多くの場合、「同じメーカー同士」になる。実際、機器をまたいだコピー&ペーストや、やっていることを機器をまたいで引き継ぐ、という機能については、すでにアップルが、同社製品同士(要はiPhoneとMacの間)で実現している。ファンを増やして自社に囲い込むのが目的だからだ。
しかしマイクロソフトは今回、対象となるスマホを限定しない。デモのほとんどはWindows PCとiPhoneで行われ、Androidでも利用できる。
マイクロソフトはFall Creators Updateで「Windows PCs Love(本当はハートマーク) All Your Devices」というキャッチフレーズを使う。要は、Windows PCから、人々が持っているデバイスを分け隔てなく活用できるようにすることで、結果的にPCをより使いやすいものにしよう……としているわけだ。
Windows 10の新キャッチフレーズのひとつ「Windows PCs Love All Your Devices」。 マイクロソフトのスマートフォン向けOSである「Windows 10 Mobile」は存在感が薄い。自社のスマホ用OSにこだわっても意味はなく、結果的にマルチデバイス対応を進めている……という事情はあるだろう。
だが、アップルが「囲い込み」の会社であり、GoogleはPCを持っていないことを考えると、「OSメーカーとして採りうる戦略」としては、すべてのデバイスに対応するのが必須であり必然、という結論でもある。
コアは「Graph」、たくさん使ってもらうことを軸に体質変化
マイクロソフトがデバイスを問わない環境をアピールする理由は、もうひとつある。
Timelineなどの機能は、クラウドに自分のデータを一時的に(もちろん、他人にはアクセス不可能な形で)記録することで行う。どんなデバイスで、どんな機能を使い、どんな人とともにコミュニケーションをとったかが記録されることで、私たちの日常の作業を快適なものにしよう……というのが狙いである。
そこで働いているのが「Microsoft Graph」という技術である。Excelでグラフを描くソフト……みたいに聞こえるがそういうものではない。だいたい、「Word」や「Excel」のように「Graph」というアプリがあるわけではない。
Microsoft Graphは、アプリの利用履歴やデータ、人とのコミュニケーション履歴を統合し、わかりやすい「仕事用ダッシュボード」を作るための基盤技術である。元々は企業内で業務の専用アプリを作るために提案されていたものだ。
例えば、「部署単位でお得意先のリストと連携し、案件の進捗状態を見ながら作業が行える社内ツール」のようなものを開発するために使われていた。人と人の関係を「ソーシャルグラフ」ということがあるが、ソーシャルグラフの「グラフ」が、Microsoft Graphの「Graph」である。
マイクロソフトはこの技術を、同社の基盤に据え始めている。もはや、人々はPCだけで暮らしているわけではない。かといってスマホだけで済むわけではない。どこでなにをしたのか、次になにをしたいのか、他人になにをして欲しいのか。そうしたことを、機器をまたいで実現できることが、これからのITシステムに重要なことになる。
そこでは、いわゆるクラウドとAIが活躍することになるが、その基盤がMicrosoft Graphなのである。Timelineなど、Windows 10の機能になる部分も、コアにあるのはMicrosoft Graphである。
Windows 10の新機能もコアは「Microsoft Graph」だ。 別のいい方をすれば、マイクロソフトは「OSやオフィスを売る会社」ではなく、「クラウドやAIを使ってもらう会社」になったのだ。そのためにWindowsというOSも「ツールとして提供している」にすぎない。
過去には「OSやアプリが売れた数」が重要であり、どれだけ使われているかは重要ではなかった。しかし「使われた量が収益に直結する企業」になっている以上、デバイスを選んではいられない。
Windows 10の進化は、マイクロソフトという企業の体質変化そのものを表していたのだ。
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