格安スマホの普及に合わせて、海外メーカーの参入が相次ぎ、ラインナップも充実してきたSIMロックフリーのスマートフォン(以下、SIMフリースマホ)。市場を牽引するのはASUSとファーウェイ。エントリーユーザー向けの低価格モデルから、大手キャリアのフラッグシップにも対抗し得るハイエンドモデルまで、幅広いラインナップを展開し、シェアを拡大しつつある。
この “2強” に迫るべく、存在感を強めているのがモトローラ・モビリティ(以下、モトローラ)だ。昨年、デュアルSIMデュアルスタンバイ(DSDS)に対応する「Moto G4 Plus」で日本市場に本格的に再参入して以降、別売のモジュールを合体して機能を拡張できる「Moto Z」シリーズなど、注目モデルをリリースしている。
現在、SIMフリースマホ市場で主力商品となっているのは、税別価格が3万円台後半のミドルレンジモデルだ。高速CPU、フルHDディスプレイ、高画素カメラなど、中級者以上が満足できるハードウェアスペックを備え、指紋センサーを搭載し、DSDSにも対応しているモデルだ。
ここでは、今夏、格安SIMへの乗り換えを検討している人におすすめしたい売れ筋3モデルの実力を徹底的に比較した。まずは、3モデルの特徴を紹介しよう。
ASUS ZenFone 3(ZE520KL)(2016年10月7日発売)
コストパフォーマンスの高さで人気の「ZenFone」シリーズの最新フラッグシップ。5.2インチのフルHDディスプレイを搭載し、背面には指紋センサーを備え、DSDSにも対応。幅広い周波数帯をサポートし、au VoLTEに対応することもセールスポイントだ。
今年の3月から、5.5インチ画面の「ZenFone 3(ZE552KL)」も販売されているほか、上位モデル「ZenFone 3 Deluxe」もある。
HUAWEI nova(2017年2月24日発売)
スマートフォンの出荷台数シェアで世界3位のファーウェイが、昨年秋に発表した新シリーズ。ライカとコラボレーションした高性能カメラを搭載する「Mate」「P」シリーズの下に位置づけられ、デザインやコストを重視する若年層向け端末。
5.0インチのフルHDディスプレイを搭載したコンパクトサイズながら、大容量バッテリーを搭載し、DSDSにも対応。同時に「HUAWEI nova lite」という低価格モデルもリリースされたが、同モデルはDSDS非対応で、機能も若干劣るので注意が必要だ。
Moto G5 Plus(2017年3月31日発売)
モトローラがグローバルでの主力ブランドとして展開する「Moto G」シリーズの最新モデル。5.0インチのフルHDディスプレイを搭載する「Moto G5」と同時にリリースされた。
5.2インチ・フルHDディスプレイの「Moto G5 Plus」は、4GBのメモリを搭載し、「デュアルオートフォーカスピクセル」という技術を採用した高性能カメラが特徴。指紋センサーは、ナビゲーションバー(戻る/ホーム/マルチタスク)の機能も併用できる新方式へと進化している。もちろんDSDSにも対応する。
徹底比較1:カメラ性能
3モデルはそれぞれ高性能なカメラを搭載していることもセールスポイントにしている。メインカメラの有効画素数では、ASUS ZenFone 3がリードしているが、Moto G5 Plusが「デュアルオートフォーカスピクセル」を採用していることに要注目。
これは、デジタル一眼レフなど、高級デジカメにも採用されている技術で、個々の画素が2つのフォトダイオードを備え、高速で的確にピントを合わせるというもの。よって、従来の一般的なイメージセンサーとは比較しづらいのだが、暗い場所での撮影には最も強いと考えていいだろう。
実際に撮り比べてみたところ、3モデルそれぞれにオートフォーカスは速かったのだが、曇りの日や薄暗い室内でも、素早くピントが合い、ナチュナルな色・明るさで撮れるという意味で、Moto G5 Plusが頭ひとつ抜き出ていた。
ただし、前面カメラの画質はほぼ互角。いわゆる「美肌モード」はどの機種も備えているが、HUAWEI novaは「メイクアップモード」も備えており、セルフィーを存分に楽しみたい女性は、その機能もチェックしたほうがいい。
徹底比較2:ディスプレイ
画面サイズは異なるものの、解像度は同じ。つまり、HUAWEI novaが他の2モデルよりも高精細と言ってよい。
しかし、画素密度の高さは、細かい部分まで描写できるというメリットの反面、Webページ上の小さな文字が非常に細い文字で表示されたり、逆に視認性が悪くなることもある。地図などを見るには画面サイズが大きいほうが有利なので、ディスプレイ対決の判定はドローとした。
徹底比較3:パフォーマンス
3モデルいずれも、クアルコム製の「Snapdragon 625」というチップセットを採用している。2.0GHzのオクタコアで、1年前なら「ハイエンド」と呼ばれた性能。よって、この3モデルのスペックを「ハイエンドに近いミドルレンジ」として「ハイミドル」と呼ぶこともある。
ただし、RAM(メインメモリ)は、ZenFone 3とHUAWEI novaが3GBであるのに対し、Moto G5 Plusは4GBと一歩リードしている。複数のアプリを同時に使用するなど、マルチタスク操作においてはMoto G5 Plusが有利だ。
実際の使用で実感する動作性にはほとんど差を感じなかったので、「Antutu Benchmark」というベンチマーク測定アプリで、3モデルのパフォーマンスを比べてみた。それぞれ2回測定したが、大差はなかったので、数値が大きいほうを掲載した。結果はHUAWEI novaが僅差ながら1位を獲得。ファーウェイ独自の「Emotion UI(EMUI)」の使いやすさも含め、HUAWEI novaをWINとした。
徹底比較4:バッテリー容量
バッテリー容量は、わずかながらにHUAWEI novaがリード。ファーウェイの発表会で「13時間のHD動画視聴、16時間のLTE通信でのウェブ閲覧、73時間の音楽再生」をアピールしていたが、標準的な使い方であれば、満充電から2〜3日は持つ印象。外出先で「YouTube」を見たり、「ポケモンGO」をプレイしたりする人でも、多少電池残量を気にかけていけば、1日は持つのではないかと感じた。
なお、電池持ちに関しては、Moto G5 Plusも遜色がないと感じたが、HUAWEI novaのほうが省電力モードが充実していることもあり、HUAWEI novaをWINとした。
ZenFone 3はバッテリー容量が他の2モデルよりも少なめだが、重さが144gで他モデル(HUAWEI novaは146g、Moto G5 Plusは155g)よりも軽いことがメリットだ。
徹底比較5:機能充実度
ミドルクラス以上のSIMフリースマホの必須機能になりつつあるデュアルSIMデュアルスタンバイ(DSDS)には、どの機種も対応。仕事用の電話番号とプライベート用の電話番号を使い分けたり、通話には会社から支給されたSIMを使い、データ通信には自分で購入した格安SIMを使うなど、便利な使い分けが可能だ。
ただし、2枚のSIMを挿しつつ、microSDカードを装着できるのはMoto G5 Plusだけ。ZenFone 3とHUAWEI novaは2枚目のSIMがmicroSDとの排他利用になるので注意が必要。
指紋センサーは、どの機種も認識はスピーディー。搭載位置が異なるが、どちらが便利というわけではなく、ユーザーの好みによるだろう。
海外メーカー製のSIMフリーモデルということもあり、3機種いずれも、防水・ワンセグ・おサイフケータイには対応していない。しかし、Moto G5 Plusは、撥水ナノコーティングが施されているので、雨天時や水回りで使用する際の安心度は高い。また、NFCに対応しているのもMoto G5 Plusだけ。総合的な面で、Moto G5 Plusがリードしていると言える。
徹底比較6:対応周波数
SIMフリー端末は、自分が使いたいSIM(回線)を自由に選べることがメリットだ。しかし、端末が対応する周波数帯に繋がるSIMでないと使えない。つまり、対応周波数が多いほど、対応するSIMが多く、海外渡航時にも重宝すると言える。
そこで、3モデルのLTEの周波数帯を調べてみた。周波数帯は「Band」で表記される。3モデルの日本向けのWebページで案内されいる対応バンドをまとめたのが上の表だ。
ちなみに、日本で利用されているBandは薄いオレンジで着色した。Band 2、Band 5など、白色のものは海外で使われている周波数帯なので、海外に渡航する機会が少ない人は、さほど重視する必要はないだろう。
日本国内での使用において、重視すべき周波数は、NTTドコモはBand 1、3、19。au(KDDI)はBand 1、11、18、ソフトバンクはBand 1、3、8。とくに、NTTドコモ回線を使うSIMではBand 19、au回線を使うSIMではBand 18への対応の有無が重要となる。Band 18に対応していないMoto G5 Plusは、au回線での利用は不向きだ。
最も対応周波数が多いのはASUS ZenFone 3。日本国内の3大キャリアの周波数に対応してることに加えて、海外での対応周波数も多いので、海外旅行を趣味とする人にも最適だ。
徹底比較7:コストパフォーマンス
ほぼ互角の性能を備え、それぞれの長所も有している3モデル。となると、購入に際して最も重視したいのは価格だ。現時点(2017年5月1日)での価格は、Moto G5 Plusが最も安く、3万8664円(税込)。他の2モデルは、税別価格は3万円だが、消費税を含めると4万円を超える。
Moto G5 Plusは、3モデルの中では最も新しいモデルなので、戦略的にZenFone 3やHUAWEI novaよりも安い価格設定になっているとも捉えられる。RAMの容量や搭載機能などでリードしている面もあり、“いま最もお買い得なSIMフリースマホ” と言っても差し支えないだろう。
しかし、ZenFone 3、HUAWEI novaともに、MVNOでの取り扱いが多く、SIMとセットで購入する場合に、割引が適用されるケースもある。
例えば、HUAWEI novaは、台数限定で2万9800円(税別)で販売されることもあった。ASUS、ファーウェイともに、市場の情勢に合わせて価格を見直すこともあるので、新モデルや派生モデルが発表された際などに、値下げが行われる可能性も高い。
3モデルともに、量販店での取り扱っている。ガラスパネルでリッチ感をアピールするZenFone 3、コンパクトでカジュアルだが質感も高いHUAWEI nova、硬派なメタルボディながらしっくりと手に馴染むMoto G5 Plus。個性それぞれのデザインと、実際に持ったインプレッションも、機種選びの参考にしていただきたい。
Text/村元正剛(ゴーズ)
Infographics/I’ll Products
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