日常生活でAIのウエイトが、どんどん大きくなっていっている。先日、ネットで話題となったGoogleの自動絵画サービス「AutoDraw」をはじめ、人々を驚かせるAIのサービスが次々と登場しているのだ。
クリエイティブ分野におけるAIの躍進は画像処理だけにとどまらない。扱うことが比較的難しいとされていた「文章」にもAIが進出。
今年の1月、日本経済新聞が始めた「決算サマリー」では、企業決算が発表されると売り上げなどの情報をAIが要約。そして、その記事をすぐに配信する。執筆から配信まで人間の手は一切加えない、完全自動の記事だ。
日経新聞で「AI記者」がデビュー
「AI記者」——数年前は考えられなかった存在が、もうすでに機能し始めている。
日経は、AI記者が書いた記事を継続的に配信するとのこと。これまで、海外ではAP通信やワシントン・ポストなどが同様にサービスを提供していたが、国内では中部経済新聞が限定的に記事を配信したのみで本格的な導入は初となる。
「10秒」で記事完成。上場企業のほぼ全てをカバー
東京証券取引所が運営する「TDnet(適時開示情報閲覧サービス)」に上場企業の決算が発表された後、10秒足らずで記事が完成。上場企業約3,600社の大半に対応。
人間では不可能なスピードで大量に記事を生産できるため、全体の効率化に好影響を及ぼすことは間違いない。アルゴリズムは松尾豊・東京大学特任准教授研究室と言語理解研究所(ILU)の協力を受け開発された。
基本的には記事を「業績」「要因」「見通し」3段落のテンプレートに振り分け。特に重要なのが「要因」。決算資料の肯定的・否定的な表現、売り上げ増減の理由を説明している文を見つけ出すことができる。
経営理念など決算に関係のない文の判別を可能にすることで、より人間が書く記事に近づいた。
加速するAI記者の導入
記事作成にAIを応用させる技術は他の通信社、新聞社でも徐々に採用され始めている。AP通信でも日経同様に、AIによる利益報告記事を2014年から配信している。
昨年、国内でも中部経済新聞が70周年特別企画として、同社の歴史を振り返る記事を配信。“要約”という分野においては、AIが十分に適用可能だということがわかる。
AI記者の実力を検証! まだまだ改善の余地あり?
実際にAIが作成した記事を紹介しよう。日経のウェブサイトの「決算サマリー」のカテゴリーで観覧することができる。
まずは4月13日のファーストリテイリングの記事。
確かに、しっかり記事として成り立っている。
売上増減の因果関係はわかりにくいものの、理論立った記述である。速報記事としてのクオリティは低くない。
続いては大和の決算記事。
こちらの記事は先ほどの記事と異なり、記事としてのクオリティは高くない。利益が急激に減少しているにもかかわらず、その要因に触れていない。
それどころか、「宿泊部門が概ね堅調に推移し」「各社とも経営効率向上と収益力強化に取り組み」など肯定的な文が続く。
因果関係に関しては、まだまだ改善の余地ありといったところだろうか。それでも、記事としての体をなしていることに関しては驚きだ。文法的な間違いはほとんど見受けられない。
改善を進めていけば、企業決算の要約だけでなく一般の記事も扱うことができるようになるのではないだろうか。
日経の試みによって、ついに「AI記者」が日本でも本格的に指導する予感。速報記事のような単純作業から人間が解放されるのか、それとも記者という仕事をAIが人間から奪うのか……まだ答えを出すことはできない。
今後、AIの職場進出はあらゆる業種に及ぶことになるはず。どんな結果をもたらすにせよ、来たる時代に順応するしか道はない。AIが引き起こす変化がさらに加速する中、私たち人間の役割の再考が求められている。
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