猫の習性を知り、猫も猫と暮らす人も幸せに暮らす空間づくりをめざす建築家ふたりが暮らす、工夫いっぱいの賃貸マンション。
猫と人が幸せに暮らせるのはどんな家だろう? しかも暮らしているのが賃貸マンションだったら、どんな工夫ができるのだろう? そのヒントを求めて、ペット可の賃貸マンションでインスタグラムで人気の猫3匹と暮らす「猫と建築社」の中村さん夫妻の家におじゃました。
この家の猫ちゃん
名前:うぅちゃん(推定16歳、メス)、ごにゃぞう(15歳、オス)千葉ちゃん(1歳半、メス)
種類:雑種
ベランダ猫、うぅちゃんとの出会い
中村家で暮らす猫は3匹。裕実子さんが一時一人暮らしをしていたころ、庭にやってくる猫がいた。それが写真の猫、うぅちゃん(推定16歳、メス)だ。名前の由来は、しっぽが短くてうさぎみたいだから。
親子で「うちの子」に
ある日、通い猫だったうぅちゃんが、子どもを連れてやってきた。うぅちゃんが子どもに「ごにゃ、ごにゃ」と呼びかけていたから、名前は「ごにゃぞう」に。親子で外暮らしをさせておくのはよくない、と思った裕実子さんは、実家へ戻るタイミングで親子を家猫として迎え入れた。
写真左がごにゃぞう。中村家のリビングの隣は和室で押入れがあるが、上段や天袋部分は猫たちの居場所として開放している。ごにゃぞうは今では、「猫と建築社」の「しょちょう」でもある。
被災地からきた千葉ちゃん
裕実子さんと幸宏さんが一緒に暮らすようになり、この家に引っ越してきてからやってきたのが、写真の千葉ちゃん(1歳半、メス)だ。黒い仮面をかぶったみたいな顔がインスタグラムでも大人気の千葉ちゃんは、被災地出身の猫である。
「避難区域に取り残されている猫たちの給餌と保護のために、毎週末東京から福島へ通っている個人ボランティアさんのお手伝いをしていたとき、子猫は手がかかるのでシェルターではお世話が難しいということで一時的に預かることに。ところがコクシジウム(寄生虫)がいたり血尿が続いたり、となかなか里親さんにご縁がなく、結局うちの子になったんです」と裕実子さん。千葉ちゃんという名前の由来は、横浜で開催された猫イベントの里親会のとき、千葉のピーナツ最中の箱に入っていたから。
猫が駆け回れるリビングの棚
中村さんの家は3LDKの賃貸マンション(ペット可)。日当たりのいいリビングの両側の壁に、DIYで作った奥行き18センチの造作棚がある。窓際に渡した板が支えになっていて倒れにくい設計。「猫は垂直方向に動くのが好き。外を眺められる橋を渡し、行き止まりを作らず回遊性を持たせるように作りました。くるっと回れる空間は、猫にとっても人にとっても気持ちがいいんです」と裕実子さん。
猫たちは猛スピードで駆け回ったり、棚の両端でお互いを眺めていたり。猫から見下されながら過ごすのもまた幸せな時間だ。
クリエイターの創作意欲を刺激する人気モデル猫
棚の中を見るとうぅちゃんやごにゃぞうや千葉ちゃんの顔がたくさん。インスタグラムを通じて知り合ったイラストレーターやアーティストが3匹のかわいい姿に魅せられてつくってくれたものだ。特に千葉ちゃんはクリエイターの創作意欲を刺激するらしく「千葉ちゃんがうちにきてから、インスタグラムのフォロワーが増え、人とのつきあいが広がりました。うちに福を呼ぶ猫ですね」と裕実子さん。
一昨年と昨年には、知り合いになったクリエイターたちと一緒に、猫雑貨の販売や保護猫の写真展、里親会、猫と人に優しい家の建築模型の展示を行うイベント「港のネーコ・ネコはま・ネコすき」を開催した。
インパクトのある千葉ちゃんの黄色いポストカードは、インスタグラムやラインスタンプで人気のクリエイター、KORIRIさん作。
こちらは、木彫作家バンナイリョウジさんによるごにゃぞうの彫像。「五二八(ごにゃ)」名入りのまわしは友人がつくってくれたもの。
ベランダは風を感じるリゾート
猫の安全を考えれば、都会では完全室内飼育がいちばんだ。でも本当は猫たちは外に出たいはず。そこで、ベランダにケージを使った「リゾート」を用意した。サッシ窓を開けておけば、猫が自由に出入りできるし、逃げてしまうこともない。「とくに千葉ちゃんはここで風を感じるのが好きみたいですね」と裕実子さん。
もちろん、家の中で狭いところに入るのも大好き。使わなくなった旧型iMacのシェルは、猫たちのお気に入りの場所。
オリジナル《地形爪とぎハウス》
「猫と建築社」は、猫グッズも開発中。その1つが神奈川県の形をしたダンボール製爪とぎハウス。「弊社のある神奈川県は、犬猫の殺処分ゼロを達成し、これからも継続していくために頑張っている猫に優しい県でもあります」と裕実子さん。
強化ダンボール製で、中に猫が入れる空洞がある。神奈川県の形にしたのは地形好きの幸宏さんの発案。「次は滋賀県ですね。琵琶湖の形がいいな、と(笑)。」地形爪とぎハウスは、注文製作のため約2ヵ月で納品。
猫と人が幸せに暮らす家づくり
ところで、「猫と建築社」は中村さん夫妻が主宰する設計事務所「neno 1365」のいわば派生ブランド「neno 1365」は、愛猫家住宅にかぎらずさまざまな住宅の設計やリフォームを手がけている。
だが、今回はペット特集記事ということで、中村さん夫妻が手がけた愛猫家のリフォーム事例をご紹介しよう。こちらの写真は3階建て住宅で、2階の一部を犬と猫のため、3階を猫のための空間に改装したプロジェクトだ。
2階では、床素材としてよく使われるサイザル麻を腰壁の仕上材として使用。心置きなく爪とぎできるので猫にとってはうれしいし、人にとっては他の壁をボロボロにされないというメリットがある。腰壁の内側は奥様のワークスペースなので、爪とぎする猫の気配を感じられるのもうれしい。
柱には、荒縄をまきつけ、ここも猫の爪とぎ場所に。真剣な面持ちで爪を研いでいるのはこの家のアイドル猫、こふじちゃん。
このスペースの下は玄関になっているので、床の一部をグレーチングとガラスにして光を通している。
グレーチング部分は、下から眺めると猫の肉球が見られる。
こちらは別の家の例。猫の脱走防止のため、玄関ホールと廊下の間に格子引戸を設けた。視界を遮らないので猫たちのお出迎えも楽しめる。
こちらは、眺めの良い立地を活かしたキャットウォークをつくった家の例。このステップも爪とぎできる素材でできている。
キャットウォークや窓台は部屋をぐるりとめぐる設計になっていて、窓際では猫が気持ちよく外を眺められる。
「猫は引っ掻いたり、高いところに飛び乗ったり、外を眺める習性があるので、それができないとすごくストレスが溜まります。でも、人間としては、家のなかのあちこちを好き勝手に引っかかれたりしてはたまらないのも確か。そこで、猫の習性を発揮できる場所をつくってあげることで、猫も、猫と暮らす人も、双方がストレスなく楽しく暮らせる設計を考えています」と裕実子さんは話す。
こちらは、先述のイベントで展示した建築模型。猫と人が心地よく暮らせる、吹き抜けのあるコンパクトハウスを考えた。「猫は外を眺めたり、高い所から家族を観察したりするのが大好き。それに走り回れる直線もほしいはず。そこで、吹き抜けに木の枝のようにキャットウォークを張り巡らせる案を考えました。光がトップライトから木漏れ日のように1階のリビングに落ちる設定なので『猫ヶ森』と名づけています。」と裕実子さん。
実は猫が大の苦手だった!
幸宏さん(左)、裕実子さんとごにゃぞう。実は幸宏さんはもともと猫が大の苦手だった。だが、猫連れの裕実子さんと暮らすことになり、猫に慣れるため、最初は猫カフェに行って「訓練」した。「当初はダラダラと脂汗をかいて固まってましたね」と裕実子さん。「子供の頃から猫は化けると教え込まれてたので、もうどうしたらいいかわからなくて。でも今では、道端の猫に自分から寄っていくほどになりました(笑)」と幸宏さん。ふたりと三匹の幸せな暮らしがいつまでもつづきますように!
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文:Houzz Japan
記事提供:Houzz(ハウズ)
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