DIYでフルリノベーションにチャレンジした、フィールドガレージの代表・原さんとそのご家族。
楽しみながらも大変だったというそのリノベの内容とは?
「楽なことはひとつもなかったですよ!」そう笑いながら話すのは、住まい手のライフスタイルに合わせたリノベーションプランを提案する設計事務所〈フィールドガレージ〉代表の原 直樹さん。夫婦と当時高校生だった長女、今はひとり暮らしをしている長男の4人で、DIYリノベーションにチャレンジした。その感想についてたずねたところ、返って来た答えが冒頭の言葉だ。工期は2ヵ月間ということもあり、家族は一致団結して家づくりに没頭。部屋の解体、珪藻土の左官壁づくり、キッチンの引き出しの組み立て、ダイニングテーブルの制作、フローリング張り、すべてが初めての体験だった。
事務所に近い中目黒の賃貸一戸建てに仮住まいをしながら新しい物件を探していた原さん。リノベ向き物件探しサービス「みのむし不動産」を展開する原さんのお眼鏡に適った物件は、世田谷区内の閑静な住宅街に立つ、築22年の中古マンション。周辺には畑や公園がある自然環境の良さ(なんと近所には古墳まであるという)、駅前の商店街は活気がある一方で、住宅のまわりは静かであること、「川の近くに住みたい」と思っていた原さんにとっては、多摩川に近いことも決め手となった。
どんなHouzz?
住人構成:3名(夫婦+子ども1人、ウサギ1羽)
所在地:東京都世田谷区玉堤
延床面積(専有部):64.67㎡
構造:鉄筋コンクリート造マンション(リノベーション)
竣工時期:2016年4月
設計会社:株式会社フィールドガレージ
リノベーションで一番大変だったのは?
リノベーションで一番大変だったことは、壁を壊すことやクロスを剥がすことだったと原さんは回想する。こうして出た廃棄物は細かく砕き、ゴミ袋に入れてゴミ捨て場に。そしてむき出しの壁にパテを塗ってから、やっと珪藻土の左官壁づくりの下準備が完了する。もちろん重機は入れられないマンションの一室。「手作業でやると、もう粉塵がすごくて……」と苦笑いする原さん。
DIYというと、棚をつくることや、壁を左官壁にするなど、“制作する”ことを想像するが、そこに至るまでの下地づくりが大変だったそうだ。大工さんにも手伝ってもらい、珪藻土の左官の作業も、フローリング貼りも、家具の制作や取り付けも、家族全員で行った。
「途中で投げ出すことはできないですからね。やると決めたら腹をくくらないと」と原さん。プロに任せれば早いし、きれいに仕上がるのは間違いない。しかし、オリジナル性や、制作コストの削減、家族との思い出づくりなど、一から十までプロに任せっきりでは得難い、DIYならではの価値や楽しさがある。
DIYの良さとは?
「失敗したら嫌ですがやり直せばいい。壁の色が思い通りでなかったら塗り直せばいい。DIY精神で乗り切るということを怖がる人は、DIY向きではないかもしれません。失敗も含めて家づくりを楽しめればいいのではないでしょうか」と原さんは話す。
家族全員、自宅のDIYは初体験。原さん一家が楽しめたかどうかの答えは、この記録のアルバムが物語っている。
LDKに入るとまず目に入るのは、幅180センチほどのアイランドカウンターのあるキッチン。床で使う大きなタイルを木枠で囲ってカウンターをつくった。「熱い鍋などを直置きしてもOKですし、汚れてもサッと拭き取れて便利です」と奥様。IKEAのステンレスの引き出しは、長男が苦労して組み立てたものだという。どの箇所でも「誰がつくった」「誰がこだわった」と話せるところがDIYの良さだ。
制作でこだわったのは?
調味料や食材を入れるパントリーは、来客の目に触れないよう、でも調理中にすぐ手が伸ばせるよう、ガス台のそば、キッチンの奥に置かれている。
食器棚は葉山の桜花園で購入した古材の扉を取り付けた。料理家電スペースにある、炊飯器をスライドして手前に引き出す仕組みも原さんの自作。キッチンの面材はステンレスをチョイスした。
食器棚の隣の赤い画は、原さんのお母様が描いたものだ。ほかにも、お茶の先生だったおばあさまの家にあったという、銅鑼や囲炉裏の自在鉤(じざいかぎ)といったアンティーク品もさりげなく飾られていて、古材使いとマッチしている。
右下の黒い棚は、以前の家から使用していた無印良品の棚をペンキで塗り、取っ手を付け替えた。
洗濯物の室内干しや、植物を吊るすために取り付けたアイアンのハンガーバー。コンクリートの骨組みに直打ちするということで、素人には難しい工事は、大工さんにお任せした。
窓際一帯40cmほどの幅に黒い六角形のタイルを敷いているが、「これは日当たりの良いお宅にはぜひおすすめしたいですね」という原さん。
「日当たりがいいと、フローリングが日焼けをしてしまったり、反ってしまったりしますが、タイルならその心配がありません。冬場はタイルが太陽光を蓄熱してくれて部屋を温めてくれるし、窓際に洗濯物を干したり、植物を置いたりするときにも、水濡れも気にしなくていいのもメリットですね」。
カチッという小気味よい音が特徴のトグルスイッチは、ZOLBONNE SWITCH(ゾルボンヌ・スイッチ)という国内のメーカーのもの。ネットで見つけて購入し、LDKの主照明で使っている。
奥様のこだわりのニッチのソファスペース。「最初に塗った色が気に入らなくて、結局3回も塗り直しました」という、淡いラベンダー色の壁は、奥様がトルコ旅行で購入したオリエンタルな雰囲気のキャメルランプや皿のディスプレイと相性バッチリ。ひとり暮らしの長男の部屋はつくらなかったため、下の引き出しから布団セットを取り出して、ここで寝泊まりしてもらう。
長女の部屋のデスクは、元のキッチンにあったカウンターを再利用してペンキ塗りして取り付けた。ソファスペースに隣接しているため、ベッドはロフトベッドになっており、リビングにつながる窓が設けられている。
恵比寿WALPAで購入したウィリアム・モリスの「Strawberry Thief(いちご泥棒)」の壁紙を一面だけ貼った。壁紙に合わせて壁の色もモスグリーンに塗って統一感を出した。
バスタブも新調。グローエのレインシャワーには原さんも大満足。ウォールナットパネルの効果で落ち着いた印象に。
「洗面所・脱衣所の壁こそ珪藻土で正解だった」と話す原さん。湿気をよく吸うため鏡の曇りもすぐに晴れるのだそうだ。さらに、壁面に足場板を貼り、船舶ランプ、三面鏡を取り付けた。「意外と便利だったのが、拡大鏡です」と原さん。
照明器具は味のあるちゃんとしたヴィンテージ品を使いたいと思い、こだわって探したという。姿見の上に取り付けた照明や、風呂場と洗面所の船舶照明は、三宿のアンティークショップ、Antiques The Globeで購入した。
うさぎの「イブ」のお家は玄関に
玄関の靴入れは、もともとこの家にあったものを黒くペンキ塗りし、取っ手を付け替えて再利用。うさぎのイブちゃん(8歳)のお家も玄関に収まる。普段はゲージから出しているが、うさぎの臭いが気にならないのは「珪藻土壁が臭いを吸収してくれるおかげかな?」と原さん。
原家のアイドル・イブちゃん。ケーブルやテーブルの脚などをかじってしまうこともあるやんちゃな子だ。
長女の部屋に取り付けられた、父・原さんの手製の棚がきちんと整理されていたり、長男が組み立てたキッチンの引き出しがピカピカに磨き上げられていたように、みんなで協力してつくった家だから、家族が愛着をもって大切に住んでいる様子がうかがえた原邸。「もう手を入れるところはほぼない完成系の我が家ですが、主照明以外の照明のスイッチを換えたり、玄関のタイルを換えてもいいかなと思っています」。一度DIYで家をつくる喜びを知ってしまった原さん一家。まだどこかDIY精神がうずくのかもしれない。
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