2014年にYouTubeで500万回以上再生された7分間の映像が、やがて、クラウドファンディングによって製作費の目標額である25万ドル以上を達成し、劇場用長編映画「ハードコア」として完成。翌年のトロント映画祭で見事観客賞を獲得してしまう。
そんなSNS時代の映画製作を絵に描いたような作品は、なぜ、それ程までに人々を熱狂させたのか? 原因は、96分間を通して一人称視点=FPS(ファースト・パーソン・シューター)によって撮影されているからだ。
上空→落下→カーチェイス→落下と怒濤の展開!!
それも、既存のPOVとは少々違っている。一人称映像の展開力とグルーヴ感がハンパないのだ。見覚えのない研究室で目覚めたなぜか傷だらけの主人公、ヘンリーが、サイボーグとして作り替えられようとする自らの体をじっくり眺める間もなく、傭兵軍団の急襲を受け、妻を名乗る美人看護婦と共に脱出ポッドに乗り込むと、ポッドは一気に地上へと落下(研究室は飛行機の中だった!!)。
そこから、いきなりハイウェイでの銃撃戦、バイクに乗ってカーチェイスの末、疾走するトラックに乗り移ったものの弾き出され、アーチ橋の最上部を渕すれすれで走り抜け(高所恐怖症は厳禁かも)、これでもかと高層ビルの上からジャンプする。
その間には、サイボーグならではの体内部品の自主交換を余儀なくされ、その場その場に姿を変えて現れる謎のクローン人間、ジミーの助けを借りなければいけない。だいたい、ヘンリーにそんな試練を与えた黒幕の目的は何なのか? 美人看護婦は本当に妻なのか?
俳優ではなくスタントマンがゴープロカメラを装着して疾走&ジャンプ
考えを精査する余裕を与えず刻一刻と変化していく風景は、主人公、ヘンリーの視点というより、むしろ、俺、つまり観客の視点そのもの。ヘンリー=観客というアイデアに特化した監督以下、スタッフは、故に、観客に視点に立ち、いかにして飽きさせず、緊張感を最大限に維持したまま物語を展開させるかに腐心したという。
結果、高画質のゴープロカメラをマグネットでヘルメットに装着した監督を含む10人以上のカメラマンやスタントマンが、代わる代わるヘンリー役を受け持ち、身の危険を顧みず渾身のFPS映像をゲット。ヘンリーに関してはプロの俳優が誰1人関わってないというこだわり様だ。
“ロシアン・ニュー・ウェイヴ”から目が離せない
そんな命知らずの監督の名前はイリヤ・ナイシュラー。モスクワのパンクバンド、バイティング・エルボーズのフロントマンであり、彼が手がけたミュージックビデオ“Bad Motherfucker”(すでにFPS満載)は口コミで世界中から注目され、「ハードコア」をきっかけに今やゴープロ使用POV映像の第一人者と言われるまでになった。
ナイシュラーの才能に惚れ込み、製作を務めるのは同じロシアが生んだ映像作家で、「ナイト・ウォッチ」(06)やアンジェリーナ・ジョリーの主演の「ウォンテッド」(08)などで知られるティムール・ベクマンベトフ。アイディアの枯渇が著しいハリウッドアクションを尻目に、彼ら"ロシアン・ニュー・ウェイヴ"の台頭からしばらく目が離せない!
【作品情報】
「ハードコア」
4月1日(土)より、新宿バルト9他全国ロードショー
配給:クロックワークス
提供:クロックワークス/パルコ
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