人類とエイリアンのコンタクトを様々な設定と方法で描いてきたSF映画史に、新たな足跡を刻む傑作が登場した。今年のアカデミー賞(R)で堂々8部門にノミネートされた「メッセージ」だ。
今度のエイリアンは敵か?味方か?
ある日突然、地球のあちこちに楕円形を縦に置き換えたような形状の真っ黒な宇宙船が現れ、人々がパニックに陥っている様子は、エイリアン=人類の敵と見なした「インデペンデンス・デイ」(96)を彷彿とさせる。
反面、宇宙船が地上すれすれで停泊する原っぱに即席の基地を構え、科学者や軍隊が物々しく調査を進めている状況は、エイリアン=人類の友と言い切る「未知との遭遇」(77)に近いものだ。
彼らが描く墨文字に重要なヒントが?
しかし、無機質な映像と心臓に響くサウンド(アカデミー音響編集賞受賞)を駆使し、やがて明かされる宇宙船内のビジュアルは、SF映画をさらに高い位置に押し上げた不朽の名作「2001年宇宙の旅」(68)にも匹敵する。
ビジュアルだけではない。宇宙船の底から中心部めがけて縦に上昇していく調査隊の平衡感覚が、観客諸共いつしか麻痺して縦から横に変化している不思議な空間演出は、映画のテーマにも直結する重要なヒントだ。
提示される時間の新たなる概念
宇宙船の内部を覆う霞の中からおぼろげな姿を現したエイリアンが、その手から吐き出す“墨文字”で描く“円”が何を意味するものかを、調査隊に加わったエイミー・アダムス扮する言語学者、ルイーズが解読しようとする。
難解なメッセージと格闘する過程で、度々、時系列に関係なく現れる重い病気を患い幼くしてこの世を去った娘と、それが原因で別れた夫との思い出に引き戻されるルイーズだが、やがて彼女は真理に到達するのだ。
ここで明言は避けよう。ただ、異星人がルイーズを介して我々人類に届けようとしたメッセージは、時間についての新しい概念を提示するものだとだけ言っておく。ヒントは“円”=サークルだ。
監督は「ブレードランナー2049」も託されたカナダの天才
エイミー・アダムスのハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム入りの式典に参加したドゥニ・ヴィルヌーヴ(左端)。 そんなある種哲学的なテーマを孕んだ中国系アメリカ人のSF作家、テッド・チャンの原作「あなたの人生の物語」は、必然的に長らく映像化不可能と言われてきた。そんな難業を見事に実現した監督は、今、ハリウッド映画の話題作に次々と駆り出されているカナダ人、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。
1998年に監督デビュー以降、世界各国の映画祭で注目されてきた現在49歳の天才は、これまでも「複製された男」や「プリズナーズ」(13)、「ボーダーライン」(15)など、観客の心理を抉る独特のタッチがプロアマ問わず映画通の高評価を得てきた。
SF映画のもう片方の金字塔である「ブレードランナー」(82)のリメイク「ブレードランナー2049」の公開(今年10月27日・日本公開)が待たれるヴィルヌーヴだが、続いて「デューン/砂の惑星」(94)の続編も控えている。
リドリー・スコットやデヴィッド・リンチのマスターピースに挑めるのは、現在の映画界ではヴィルヌーヴが最適任者というわけで、この名前は是非覚えておいて頂きたい。
【作品情報】
「メッセージ」
5月19日(金) 全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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