シリーズ累計販売本数3,800万本、国民的ゲームとして絶大な人気を誇る「モンスターハンター」。3月18日(土)には最新作『モンスターハンターダブルクロス』の発売が控え、さらにはハリウッド映画化プロジェクトも進行している。
そんな大ヒットシリーズでプロデューサーを務めるのが、辻本良三さん。プロジェクトをまとめるチームマネジメントの極意をはじめ、リーダー論、仕事論について話をうかがった。
辻本良三|RYOZO TSUJIMOTO
株式会社カプコン 執行役員 「モンスターハンター」シリーズプロデューサー
1996年カプコン入社。プランナーとしてゲーム開発に携わったのち、「モンスターハンター」シリーズのプロデューサーに。昨年10月に発売された『モンスターハンター ストーリーズ』ではシリーズ初のRPGに挑戦するなど、新機軸を次々に打ち出している。
リーダー論1:メールよりも口頭で。リアルなコミュニケーションが、円滑なチームワークを生む
——はじめに、ゲームプロデューサーというお仕事について教えてください。ゲーム制作において、どのようなミッションを担っているのでしょうか。
辻本:各社役割は違うと思いますが、開発当初はゲーム開発の現場監督であるディレクターとかと話をして、そのゲームのコンセプトや方向性を決めるのがプロデューサーです。例えば『モンスターハンター ストーリーズ』なら、「モンスターを全面に出す」「王道のシナリオ」「対戦要素を取り入れる」「発売後に大会が開けるようにしたい」といったコンセプトを詰めていきます。そこさえしっかり固めたら、その後は基本ディレクターに任せます。あとは困ったこと、確認が必要なことがあれば相談に乗るという感じです。
他には、プロモーションや宣伝にも関わっています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとのコラボイベントやグッズの監修など、細かいことまでやっていますね。
——ゲームの制作プロジェクトには、非常に多くの方々が関わります。そのトップとして心掛けていることは?
辻本:最近はなかなかできていないところもありますが、空いてる時間はできるだけ制作チームのフロアに顔を出すようにして、コミュニケーションを取るようにしています。ふらっと行って「ちょっとプレイさせてよ」と声をかけたり、打ち合わせをしていれば「何してんの?」と顔を出したり。そうすることで、チームがどんな状況にあるのか伝わってくるんですよね。「あの人、疲れているな」とかも含めて。
他には、開発以外のストレスを極力与えないように心掛けています。事務的な作業など、開発と直接関係ないことはできるだけ排除して、開発に集中できる環境を整えていくことを心掛けています。
——ディレクターをはじめ、チームメンバーとコミュニケーションを取る時に気を付けていることはありますか?
辻本:僕自身、メールが苦手だというのもあって、電話や対面で話すことが多いんです。履歴を残すためにメールは必要ですが、それ以外はできるだけ口頭で話すようにしていますね。リアルなコミュニケーションのほうが情報量も多いので、相手が何を考えているのか、どんな思いで相談を持ち掛けているかしっかり伝わります。それに、メールを書く時間ももったいないですからね。
リーダー論2:なぜそうしたいのか、自分の中で常に根拠だてて考える
——逆に、トップの立場からチームメンバーに望むことはありますか?
辻本:自分の中で、考えをもって仕事をしてほしいと思っています。ゲーム制作は特にそうですが、ひとつのプロジェクトには多くの人々が関わります。自分のやりたいことを各部署に伝えるには、なぜそうしたいのか根拠を説明できなければダメだと思うんですよ。「ようわからんけど、これ作って」とふわっと発注することはできません。「こういう理由があって、こういう仕様を入れたい」と、しっかり根拠を持って相手に説明することが重要だと思います。職種にもよりますが、プランナー、プロデューサー、ディレクターは特にそうですね。
——辻本さん自身も、普段から根拠を考えるよう心掛けているのでしょうか。
辻本:というより、自分で色々勝手に分析するのが好きだったと思います。友達の家でファミコンを遊んでいる時にも、「このゲームはなぜ面白いのか」「なぜあのゲームは面白くないのか」って友達と議論していましたから(笑)。今は旅行をしたり飲みに行ったりするのが好きですが、何かについて楽しいと感じたら「なぜ楽しいと思ったのか」、人気がある場所があれば「なぜここに人が集まっているのか」と考えるようにしています。
——それがゲーム作りにも活かされているんですね。
辻本:直接活かされているかどうかはわかりませんが、それが自分の中の根拠の裏付けになっているんだと思います。
というのも、何かをする時は先にマーケティングデータを見ないんです。ゲーム発売後にはユーザー調査の結果が出ますが、そこで「そうなんだ」と思うより「やっぱりな」と思いたい。あらかじめ自分の中で「多分こういうデータになるはずだ」と根拠も含めて考えて、その答え合わせとして見るぐらいです。もちろんすべてが一致するわけではないですが、それが大きくズレると、プロデューサーとしてはマズいので。
——実際、辻本さんが手掛けた作品はマーケティングありきで生まれたものではありませんよね。
辻本:そうですね。僕が根拠のデータにするのは、様々なタイトル関連のイベント。そういう場に参加して、ユーザーさんと直接話をすると見えてくるものがあるんです。「モンスターハンター」の大会があれば、彼らはどんな気持ちで出場しているのか、どういうことを気にしているのか、実際に話して聞いてみる。それを次の作品、次のプロモーションに活かしています。
——先ほどのお話もそうですが、リアルなコミュニケーションを大切にされているんですね。
辻本:リアルじゃないと見えないものは、確実にありますから。ユーザー調査だけでは、相手の感覚までは伝わってこないんです。それよりも、イベントでお客さまの反応を聞くことを大切にしています。
リーダー論3:それは今決めるべきことか。ジャッジするタイミングを見定める
——仕事をするうえで、大切にしていることを教えてください。
辻本:何かを決める時には、期限をきっちり区切っています。その場で決めなければいけないことは、その場で決める。あと1週間猶予があるなら、1週間頭を使って考える。1週間あれば情報も集められますし、自分の中での根拠もはっきりしますからね。今が決めるタイミングかどうか、タイムリミットを意識しています。
あとは、物事を決める時には頭の中でシミュレーションするようにしています。
——迷うことはありませんか?
辻本:ありますよ。でも、決めるべき時がきたら、自分の中で答えを出して決めるんです。「モンスターハンター」シリーズを大きくするにあたっても、やるべきタイミングを常に意識してきました。例えば『モンスターハンター ストーリーズ』をアニメ化しましたが、それ以前からいろいろとお話をいただいていたんです。でも、僕の中では「ここだ」というタイミングがあったので、お断りしてきました。「モンスターにスポットを当てたRPGを作るタイミングでアニメ化したい」と思っていましたから。
——現在は、ハリウッド映画化も進んでいます。こちらは、なぜ今のタイミングだったのでしょう。
辻本:多くの方々に「モンスターハンター」を知っていただけるようになりましたが、ここでさらに広げたいと思ったんです。映画は幅広い方々がご覧になりますから、うってつけですよね。それに、今なら映像の技術も進化していますから、リアルなモンスターを描くことができます。みなさんも観たいだろうなと思いました。
——「モンスターハンター」シリーズの最終的な目標は?
辻本:……難しいですね。これという目標はありません。ゲームから始まったコンテンツをどこまで広げられるか、ずっと挑戦を続けていきたいです。あくまでもゲームを中心に、「モンスターハンター」の世界を広げていきたいですね。
リーダー論4:発言に責任を持つのは当然のこと。発言の根拠を考えることが重要
——ゲームを作るうえで大切にしていることは?
辻本:ゲーム以外にも、漫画やアニメなどさまざまなエンターテイメントがありますよね。その中でゲームを選んでもらえるのは、僕たちにとってとても大事なことです。「ゲームって面白いな」と思っていただき、「プレイしてよかった」「あの時こんなゲームに熱中していたな」と記憶に残るゲームを作りたいと思っています。
——では、辻本さんにとってのプロフェッショナルとは?
辻本:発言に責任を持つのは、当然のこと。さらに、その発言をするまでの過程がしっかりしているのがプロだと思います。先ほどもお話しましたが、根拠だてて考え、シミュレーションすることが重要です。
判断だけしてくれと言われたら、根拠なくジャッジすることだってできますよね。でもYESならYESの根拠があり、自信をもってそう発言できるのがプロ。しかも資料やデータの数値だけではなく、自分の中に根拠がなければいけません。そうでなければ、他のみんなもついてこられませんからね(笑)。
——辻本さんご自身の次の課題、目標はありますか?
辻本:チームの規模が大きくなったので、人を育てないといけないなと思っています。僕らも年を取ってきましたしね(笑)。会社としても、大きな課題です。
僕自身の希望としては、ずっとクリエイティブに関わっていきたいですね。事務仕事が苦手というのもありますが、ものづくりが楽しいので。ものを考えて、何かを実行することを続けていきたいと思っています。
3月18日発売!「モンスターハンター」シリーズ最新作
『モンスターハンターダブルクロス』
SPEC
発売日:3月18日(土)発売
対応ハード:ニンテンドー3DSシリーズ
価格:パッケージ版5,800円+税
ダウンロード版5,546円+税
2015年11月に発売され、国内出荷本数330万本を達成した『モンスターハンタークロス』が正統進化。
「武器」「狩猟スタイル」「狩技」を組み合わせる基本システムはそのままに、2頭の新メインモンスター、2つの新狩猟スタイル、未知のフィールドなどが加わり、シリーズ最大級の狩ごたえを実現している。
©️CAPCOM CO.,LTD.2015,2017 ALL RIGHTS RESERVED.
INTERVIEW/TEXT:U-NOTE編集部
PHOTO:海老澤芳辰
PHOTO:海老澤芳辰
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