日本は世界一「睡眠偏差値」が低いといわれる。睡眠不足や過重労働で過労死してしまう人は後を絶たない。
巷の大学生は聞いてもいない「寝てない自慢」をしてくる始末だ。睡眠時間の少なさを自慢したい人は勝手にすればよいが、「眠りたい時間」と「実際の睡眠時間」の差が大きいのが日本人の実情である。
今回紹介する『スタンフォード式 最高の睡眠』は、睡眠研究のメッカとされるスタンフォード大学において研究のトップを務める西野精治氏の初著書である。睡眠の重要性を認識しながらも上手に眠ることができない日本人が学ぶべき「超一流の眠り方」を紹介しよう。
スタンフォード式「最高の睡眠法」
レム・ノンレムの周期に関わらず、睡眠の質は眠り始めの90分で決まる。その最高の90分を得るためのキーワードが「体温」と「脳」と「スイッチ」だ。
入浴は睡眠の90分前。忙しければ足湯
入眠しやすくするのに大切なのは、皮膚温度と深部体温の差を縮めること。目が覚めているとき、深部体温は皮膚温度より高い。深部体温の性質「上がった分だけ大きく下がる」を利用することで、両者の温度の差を縮められるのだ。
体温を縮めるのに効果的な方法が「入浴」。40℃のお風呂に15分入ると深部体温は0.5℃、皮膚温度は0.8℃~1.2℃上がる。0.5℃上がった深部体温は90分後に元に戻り、その後さらに下がっていく。
つまり、寝る90分前に入浴することで、就寝時に皮膚温度と深部体温の差が縮まり、スムーズに入眠できるのである。
温度差を縮めるには、熱放散して深部体温を下げなければならない。熱放散を主導しているのは、表面積が大きく毛細血管が発達している手足なので、足湯には入浴と同じくらいの効果がある。
足湯は寝る直前でもOK。多忙なビジネスパーソンにはもってこいの睡眠法だ。
脳をモノトナス(単調な状態)にする
寝る前には何も考えず、頭を使わないことが大切だ。「ブルーライトは睡眠に悪い」といわれているが、それよりもスマホやパソコンを操作することによって脳を刺激してしまうことによる影響が大きい。
ただ、何も考えないというのも難しいものだ。そこで、脳をモノトナス(単調な状態)にすることが肝要になってくる。退屈な本を読んだり、単調な曲を聴いたりすれば、退屈によって脳のスイッチがオフになり、深い眠りがおとずれる。
また、「睡眠ルーティーン」として有名なのが「羊を数える」ことだが、これは日本語で行っても意味がない。sheepとsleepが似ているからとか、息をひそめるような響きだからという説があるが、とにかく「ヒツジガイッピキ、ヒツジガニヒキ」と数えたところで、あまり意味はないだろう。
早く起きるときでも、寝るのはいつも通りの時間に
入眠の直前には脳が眠りを拒否する「Forbidden Zone(進入禁止域)」というものがある。通常就寝する時間の直前から2時間前あたりまでが最も眠りにくいのだ。
したがって、「明日早いから早く寝よう」というのはあまりおすすめできない。「いつも通り寝て、睡眠時間を1時間削る」方が睡眠の質を確保できる。睡眠時間を前倒しするなら、入浴時間を前倒しし、軽い運動で体温を作為的に上げるのがよい。
睡眠の質をより高める「スタンフォード覚醒戦略」
睡眠と覚醒はセットになっている。朝起きてから眠るまでの行動習慣が最高の睡眠をつくり出し、最高の睡眠が最高のパフォーマンスをつくり出すのだ。ここでは、睡眠レベルをさらに高める戦略を紹介する。
アラームは「2つの時間」でセットする
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、レム睡眠のときに起きればすっきり起きられるといわれている。そして、眠りの周期は約90分サイクルであるため、「睡眠時間を90分の倍数にすればよい」という説が巷には広がっている。
しかし、睡眠サイクルには個人差がある。いつレム睡眠になるかを調べるのは困難だ。そこでおすすめなのが、起きたい時間の20分前に1回目のアラームを「ごく微音で、短く」セットし、起きたい時間に普通のアラームをセットすることだ。
明け方はレム睡眠の持続時間が長いので、こうして2つのアラームをセットすることで、レム睡眠のときに起きられる確率が約1.5倍になる。1回目のアラームを「ごく微音で、短く」するのは、ノンレム睡眠のときに無理やり起こされるのを防ぐためだ。
起きたら手を冷たい水で洗う。「朝風呂」はNG!
朝、起きて顔を洗う際、手を冷たい水で洗うとよい。朝は深部体温が上がっているので、手を水につけて、深部体温と皮膚温度の差を少しでも広げるのが狙いだ。
ちなみに、睡眠法のところで先述した通り、入浴してしまうといずれ眠くなってしまうので、朝はシャワーがおすすめだ。
朝食をよく噛んで食べる
子どもに対する教育の様な文言だが、「噛む」ことは非常に重要である。
マウスの実験では、固形食を与えた「噛んで食べるマウス」は、粉のエサを与えた「噛まずに食べるマウス」に比べ、睡眠や行動パターンに夜昼のメリハリがあることがわかった。
また、絶食すると「オレキシン」の分泌が促進され、食欲が増大。さらに、交感神経の活発化や体温上昇も引き起こし、睡眠の質に影響してしまうのだ。朝食には一日のリズムを整えて活動を始めるためのエネルギー補給という役割があるが、睡眠のためには夕食も抜いてはいけないのだ。
睡眠は研究材料としては非常に身近な部類に入るものであるため、はっきりとした証拠がない説でも広まりやすい。
また、正しい(と一応は証明されている)説でも、中途半端な形で広まってしまうこともある。よい睡眠のためには、まずはきちんとした知識を得ることが大切だ。
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