KDDIは、2020年のサービス開始を予定する、5Gの実証実験を公開した。5Gとは、高速通信規格のLTE Advanced(4G)よりも1つ上の世代の通信規格のこと。現状より高い周波数帯を使ったり、アンテナの数を大幅に増やしたりすることで、超高速で低遅延、大容量なネットワークを実現する。
今回、KDDIが発表したのは、28GHz帯と呼ばれる高い周波数を使った「ハンドオーバー」の実証実験に成功したこと。現状のLTEは、2GHz帯や800MHz帯を中心に、高いところでは3.5GHz帯が使われているが、28GHz帯は、それを大きく上回る周波数帯だ。一般的に、周波数は高くなればなるほど直進性が強くなり、障害物などに弱くなる。800MHz帯が「プラチナバンド」と呼ばれるのもそれが理由で、少ない基地局で幅広いエリアをカバーできるからだ。
28GHz帯を使ったハンドオーバー実験に成功した
ハンドオーバーとは、ある基地局から別の基地局に、電波を切れさせずに端末を移動させる技術用語だ。ある意味携帯電話の基本とも言える技術で、今、移動しながら端末を使っても、電波が途切れず通信し続けられるのは、このハンドオーバーを行っているためだ。一方で、28GHz帯ほどの周波数帯になると、電波が直進するため、低い周波数帯のように面でのカバーがしづらくなる。
そのため、この周波数帯では、強い電波を1つの方向に集中させる「ビームフォーミング」と呼ばれる技術が導入される予定だ。KDDI 技術開発本部の松永彰氏は、これを「ホースの口を絞って水を勢いよく飛ばすようなもの」と説明する。逆に今の電波の使い方は、スプリンクラーが幅広く水をまくのに近い。ただし、ビームフォーミングをすると、基地局が常に端末に向けて電波を飛ばしているため、ハンドオーバーがしづらくなる。
高い周波数帯は直進性が強いため、写真にある木のような障害物があるだけで、一気に通信品質が低下する。その分、使える周波数の幅が増え、通信速度はケタ違いに上がる。 この実験に成功したというのが、KDDIの発表の新しさだ。28GHz帯の周波数を使った実験は、ドコモなども行っているが、単独の基地局との通信が基本で、ハンドオーバーは行われていなかった。KDDIの実験の成功を受け、高い周波数帯やビームフォーミングを使った5Gでも、従来の携帯電話と同様、電波が途切れることなく、ハンドオーバーできることが証明されたというわけだ。5Gの商用化に向け、着実な一歩を踏み出したと言えるだろう。
一方で、5Gで使う周波数帯は、28GHz帯だけでなく、現状の4Gに近い低いところも想定されている。アンテナの数を増やす「Massive MIMO」なども、5Gの技術だ。無線部分以外でも、用途に応じてネットワークの構成を変える「ネットワークスライシング」や、より端末に近いところで処理を行い低遅延を実現する「エッジコンピューティング」の導入が検討されている。
先の松永氏も、「さまざまな周波数帯を使った実験や、4Gとの組み合わせなど、いろいろな課題がある」と述べている。28GHz帯のハンドオーバー実験は、あくまで「その第一弾」という位置づけだ。今後は、こうした技術課題を検討し、2020年の東京五輪に合わせ、商用化を開始する予定だ。
セコムとも、共同で実験を行っていく。 この環境を生かし、KDDIはセコムとの共同実験も行う。実験は高速通信を生かし、監視カメラで送受信するデータを高解像度化するというもの。5Gはスマホ以外の、幅広い用途が想定されており、通信業界以外とのコラボレーションは大きなテーマの1つになっている。KDDIでは、セコム以外にも、さまざまな企業と共同実験を行っていく方針だ。
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