2月27日(月)開業の「SENQ霞が関」オープニングイベントとして、「Lead Japan Summit〜先駆者と語る日本の未来〜」が2月20日(月)に開催された。
イベントの主催者は日本土地建物株式会社。「先駆者」をキーワードとしたシェアオフィス、SENQのイベント第一弾テーマは「豊かな暮らしと地域ビジネス」。
ゲストは、「50万回再生された動画」で話題の宮崎県日向市から坂元修一副市長。地域プロデューサーとして活躍している、NPO法人まちづくりGIFT代表理事の齋藤潤一氏。日向市のサーフィンを活かした街づくりや地域ビジネスについて講演した。
イベントの協力会社であるトーマツベンチャーサポート株式会社の地方創生責任者・前田亮斗氏を交えた3名のパネルディスカッションを含めた、イベント当日の模様についてレポートしたい。
話題の動画、視聴済み?:サーフィンを活かした街づくり
読者の皆さんは、上記の動画を見たことはあるだろうか? ぽっちゃりした青年が失恋をきっかけに宮崎県日向市へ。青年はサーフィンを始めてみるも、最初は全く波に乗れない……。しかし、最終的にはサーフィンも上達して海の似合う好青年になる! という動画だ。
この動画を作ったのは、宮崎県日向市。サーフィンを中心とした街づくりに取り組んでいる自治体だ。サーフィンをやったことないけど、なんとなく興味を持ってしまう……そんな日向市の街づくり戦略を、イベントでは垣間見ることができた。
50年後には人口が3万人減少する日向市
2ヶ月半の猛特訓でまるで別人のように生まれ変わった青年(※サーフィンだけで痩せたわけではないそうだ)。 イベントで話をしたのは、日向市副市長の坂元修一氏。元々は、宮崎県庁で観光振興の仕事をしていた同氏。訪日外国人のクルーズ誘致など、「県全体」の観光業を盛り上げることをしていたそうだ。
「そもそも何故サーフィンに目をつけたのだろうか?」と疑問に思う読者もいるだろう。「地方創生交付金」という国の補助を受けるためには、「地域のビジョン」を作る必要があったそうだ。
日向市は2010年から2060年にかけて、人口が約3万人減少する……という試算があった。そこで、日向市の温暖な気候、自然を生かした移住・定住を促進しよう! という話に。温暖な気候、美しい海岸線——そこから「サーフィン」という発想に至ったのだろう。
坂元副市長曰く「住民、市議会を含め、サーフィンを軸とした街づくりに反対する声はなかった」とのこと。「サーフシティ」というビジョンの下、日向市民が一致団結したのだ。
「ヒュー!」と声が漏れる日向市の戦略
イベント会場で配られたステッカーと缶バッジには、メインキャラクターのヒューくんが描かれている。 およそ4kmに及ぶ美しい海岸線が特徴のお倉ヶ浜海岸。この海岸を活かすために、日向市はサーファーにスポットを当てた「観光移住促進強化事業」を進めている。
関東方面のサーファーからの認知度は66.4%と、そこそこの数字。しかし、宮崎市の木崎浜よりも観光客の年間消費額では約7億円の差があるそうだ。この課題から日向市では、「お倉ヶ浜も良い場所なのに……原因はPR不足だ!」となり、マーケティングを活かした広報戦略へと舵を取ることに。
日向市は現在、PRサイトとInstagramの日向市公式アカウントを運用。最近多くの自治体が観光PRサイトをリニューアルさせているが、個人的には日向市のPRサイトが1番オシャレだと思っている。
ゆるっとしたフォント、絶妙な色味のグレー、そして最高にオシャレ感を出しているのがメインキャラクターであるカモシカの「ヒューくん」だ。日向市の移住促進プロジェクトは、サーファー人気の高いイラストレーター・Jonas Claesson(ジョナス・クレアッソン)氏がアートワークを手がける。
日向市がInstagramの公式アカウントを作ったのも、ジョナス氏がきっかけ。「知らない場所へ行くときはInstagramで検索をするけど、日向市は探しても何も出てこない」と言われたそうだ。
キャラクターやYoutubeの動画を活用したクロスメディア戦略によって、メディアの露出回数は200回超。移住相談者も増加しているとのことだ。
BEAMS×三越伊勢丹、下着メーカー。今後の日向市の動向から目が離せない!
運動神経よくないけど、サーフィンやってみようかな……と思ってしまう魅力が宮崎県日向市にはある。 アパレル業界もメインキャラクター・ヒューくんに注目している。BEAMSと三越伊勢丹がコラボしたプロジェクト「STAND FORTY_SEVEN」では、ヒューくんを活用したコラボ商品の開発が決定。
日向市に工場がある男性用下着メーカー「TOOT」では、ヒューくんとのコラボ商品を製作中とのこと。サーフィンをやったことはないが、ヒューくんのコラボ商品の販売日が待ち遠しい。
実は、日向市に注目しているのは民間企業だけではない。世界ジュニアサーフィン選手権を主催している国際サーフィン連盟(ISA)から、日向市に会場のオファーが届いたのだ。驚くことにこれはアジア初のことらしい。坂元副市長も、どこか誇らしげに大会のことについて話していた。
2017年9月23日〜10月1日で催される大会では、600人の運営スタッフや選手が日向市に集うことになる。また、「今後、ヒューくんの友だちも登場するかもしれない」「アパレルスポーツメーカーや旅行代理店とのコラボの可能性も……」と坂元副市長は話していた。
日本だけでなく、世界からの注目度も増していく日向市の動向から目が離せない!
シリコンバレー流の地域ビジネスの作り方
最初は緊張感のある空気が漂っていた会場内。そんな会場の雰囲気を和ませたNPO法人まちづくりGIFT代表理事・齋藤潤一氏(写真右)。 今回のイベントゲストとして、宮崎県日向市にオファーしたのがNPO法人まちづくりGIFT代表理事・齋藤潤一氏。「今最もアツい地方とイベントをやりたい!」ということで、日向市を選んだそうだ。
現在は地域プロデューサー、慶應義塾大学の非常勤講師として活動している齋藤氏。渡米経験のある齋藤氏だが、アメリカに行ったきっかけは親戚の訃報。親戚が自分と会った翌日に亡くなったことで、「いつ死ぬかわからない。後悔しない人生にしたい。」と思い、英語を話せないまま渡米したそうだ。
渡米後、シリコンバレーのITベンチャーへ。音楽配信サービスのクリエイティブディレクターとして経験を積み、帰国後は表参道で広告デザイン会社を創業した。
人生のターニングポイントは「地方企業の再建」
日向市の魅力について、日向市の職員の方に質問するなどして会場内の空気を温めていた齋藤氏。そんな盛り上げ上手な同氏が「地方」と関わることになったきっかけが、広告デザイン時代に請け負った地方企業の再建。
この地方企業の再建事業をやってみて、齋藤氏は「今まで、生きるために使ってきた仕事のスキルで、人と地域を救うことができる」ということに気づいたそうだ。
2006年に、自分のスキルと経験を社会に還元するプロジェクトとして「まちづくりGIFT」を開始。2015年には、全国の地域ブランディング・マーケティングに従事するようになった。
地方を救うのは「ちょっとした知り合い」
イベント終盤では宮崎県の特産品を使った料理が振る舞われた。宮崎産のズッキーニを使った料理がとても美味しかった。 齋藤氏は、スタンフォード大学のマーク・グラノヴェッター教授が提唱する“The Strength of Weak Ties”説を用いて、「弱いつながり」が地域を救うと話していた。
ちょっとした知り合い、知り合いの知り合い……一見、浅く見えるような関係からこそ、有益で新しい情報がもたらされるのだ。「この地域ちょっと知っている」そんな弱いつながりを増やす活動が、地方にとっては必要なのかもしれない。
トーマツベンチャーサポート株式会社の地方創生責任者の前田氏と坂元副市長、齋藤氏の3人のトークセッションでは、地方が「危機感」を持つことの重要性について語られた。今後、人に選ばれる自治体になれるかどうかは「危機感」に左右されるそうだ。
また、最近では民間同様のスピード感を意識した自治体も増えているとのこと。「危機感」を持つ自治体が、素早く行動をする——「危機感」がない自治体は、どんどん取り残されていく図が見えてしまう。
「宮崎県は、県全体として盛り上げていく雰囲気がある」と前田氏。行動的で明るい人が多い宮崎県のような地域が、日本の地方にとっての“先駆者”になるのかもしれない。
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