2016年は「君の名は。」の大ヒットや「聲の形」、「この世界の片隅に」などヒットしたアニメ映画作品が多い年になった。興行収入ランキングも見ても、上位10作品6作品をアニメ作品が占めている。
アニメは庶民から切っても離せない文化になっている。アニメ業界が破竹の勢いを見せる一方、その労働環境の悪さはそれほどクローズアップされない。
本記事では、若手アニメーターが過酷な環境で働いているアニメ制作現場の現状とそんな中アニメーターに取って代わるかもしれない思わぬ存在を紹介したい。
東京都の最低賃金を下回る若手アニメーターの収入
©2016「君の名は。」製作委員会 冒頭でも紹介したように、アニメは一部のコアなファンが嗜むものではなく、大衆が楽しむ国民的文化になってきている。年間で作られるアニメ本数は2013年の時点で1993年の3倍以上の270本を超えており、規模が拡大している。
その一方で、製作者は厳しい労働環境を強いられている。日本アニメーター・演出協会が2015年に発表した、「アニメーション制作者実態調査報告書」によるとアニメーターの平均年収は332.8万円。
2016年の日本人の平均年収は420万円。アニメーターの年収は平均よりも100万円近く低い。さらに、拘束時間が長いことも考えるとアニメの制作現場で働くことはかなりシビアであるとわかる。
若手アニメーターの平均年収は111.3万円
ここまでアニメーターの平均年収が低くなっている理由は、若手アニメーターの賃金が極端に低いことである。アニメーターを志す若者がアニメ制作業界に入ってまず担当するのが「動画」と呼ばれる、原画と原画の間を描く作業である。
動画を担当しているアニメーターの平均年収はなんと111.3万円。場合によっては、東京都の最低賃金を下回る額だ。
作画監督や作品の監督になるまでには長い下積み期間が必要となる。アニメーターとして一人前になるには最低3年かかるといわれており、最初の下積み期間が過酷すぎてやめてしまう若手アニメーターは多いという。
監督になるまでとなると、さらに長い年月とライバルから抜きん出た実力が必要になる。アニメーターは志望者が多い職業ではあるが、離職率が高い職業であることも事実だ。
家族の支援を受けている若手アニメーターが半数以上
このような実態があってか、家族の支援なしでは仕事を続けられないアニメーターが多い。NPO法人「若年層のアニメ制作者を応援する会」が発表した2016年度「AEYAC若年層アニメーター生活実態調査」の速報版では、若手アニメーターの半数以上が家族からの経済的援助を受けているという。
実家暮らしが全体の35%、そして一人暮らしの中でも仕送りを受けているアニメーターの割合は31%を占める。
アニメーターという仕事を志すということが、どれほど難しいことかを物語っている数字であるように思える。夢半ばで諦める若者が多いこともうなずける。
だが、年数での格差からアニメ業界の高齢化が進んでいる中、若手が育つことは何よりも重要なはず。アニメ制作の現場が今後どのように変わっていくかで、アニメが繁栄するか衰退するか決まってくるのかもしれない。
AIがいずれはアニメを作るようになる?
ここまで若手アニメーターの労働環境について述べてきたのだが、その労働環境を善かれ悪しかれ変えそうなニュースが報じられた。将来、アニメ制作の現場にAIなどの自動化が導入されるかもしれないというのだ。
ITmediaの記事ではアニメ専門チャンネルを提供するAT- X社の岩田圭介社長が、アニメ制作におけるAIの可能性に言及しており、その可能性はクリエイティブな作業にさえ及ぶという。
自動化が進めば、人手不足は解消されさらに高いクオリティの作品を作ることができる。一方で、アニメーターの狭き門を、さらに狭めることも意味している。
すでに「動画」などの単純作業は自動化に
岩田社長はアニメ制作のうち、前項でも紹介した「動画」や「デジタルペイント」、「デジタル合成」などはマニュアル化できるため、AIで置き換えることが十分可能だという。
実際にこうした作業は完全自動化とはいかないまでも、半自動化している制作現場は多い。動画の作業、すなわち原画と原画の間の画像を生成し、なめらかに見せる作業を自動化するソフトウェアや、白黒の絵に自動的に色をつけるソフトウェアなどがすでに開発されている。
しかし、岩田社長はこういったマニュアル化できる作業以外のキャラクターデザインや背景などのクリエイティブな作業も、AIで代替できるようになるという。
オリジナル絵画を作り上げたAI
岩田社長がこう言い切る理由は17世紀に活躍した画家、レイブラントの作風を再現するためのプロジェクト「The Next Rembrandt」の成功にある。
マイクロソフトやオランダの金融機関のNGグループ、デルフト工科大などが参加したこのプロジェクト。レンブラントの作品をデジタル化し、そのデータをAIに学習させることによって、レンブラントの新作を生み出そうというものだ。
出典:www.youtube.com 上の画像がAIが再現したレンブラント風の絵画だ。「AI作品だ」と言われなければ、AIが生み出した作品だとは絶対に見抜けない。
こうした技術はだんだんとアニメ制作、それもクリエィティブな分野にも進出していくという。確かにこの完成度を見ると、アニメでも十分に活用できるのではと考えてしまう。
もしかしたら近い将来、アニメ作品のクレジットで「キャラクターデザイン:AI」と流れるときが来るのかもしれない。期待がある一方、創作に関してもAIが侵食すると考えると、恐ろしくもある。
若手アニメーターが劣悪な労働環境で働いている現状がある一方で、アニメ制作の自動化が現実味を帯びてきている。
AIで労働力を置き換えることによって、単純な作業を担当する若いアニメーターの待遇は良くなるのかもしれない。一方で、一部の優秀なアニメーターだけしか必要にならないという現状にもなりうる。
創作の現場でAIが人に取って代わる。AIが作るアニメは受け入れがたい気もするが、怖いもの見たさで目にしたくもある。
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