「ペット相談」「事務所利用可」「楽器相談可」……賃貸物件検索サイトに並ぶ、各種の検索タグ。ここに「LGBT入居可」が並ぶことになるかもしれないと、2017年2月、NHKが報じた。
LGBTの人たちが入居可能 物件検索サービス開始へ | NHKニュース
LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの人たちが、賃貸住宅への入居を断られるなど、物件探しに苦労している現状があるとして、大手の住宅情報サイト…
気持ちは分かる。「LGBTの人たちも物件を探しやすいように」と思ってくださったんだろう、たぶん。だが、「ペット可」みたいに「LGBT入居可」と言うことは、差別解消どころか、むしろ差別温存の方向性に行ってしまいかねない危険性を秘めているのではないだろうか。
「LGBT入居可」? 入居者だって大家を選ぶ
「LGBT入居可」タグにチェックをつければ、当然、選択肢は減る。なぜ、狭く区分けされた中から選ばなければならないのか。憲法において居住移転の自由が定められているこの日本で、「LGBTは二丁目に/渋谷に/世田谷に行け」みたいなことを言ってはばからない人たちの怒声がよぎる。
筆者個人としてはむしろ、「LGBT不可」とか言うような大家が所有する物件に何らかのタグをつけておいてほしい。そうすれば、こちらからお断りできて便利だ。
大家が入居者を選ぶだけでなく、入居者だって大家を選ぶ。
私は日本生まれ日本国籍の日本人だが、「外国人不可」物件は絶対に選ばない。たとえば「日本語でゴミ出しマナーを理解できる方」とか「大家に無断で家族を呼び寄せて住まない方」とか言えずに個人を出自で差別する雑な思想を、私が稼いだお金で支えたくはないからだ。
そもそもなぜ「LGBT入居可」タグが必要とされてしまうのか
いわゆるLGBTの人々が物件探しに困るのは、「LGBTだから」ではない。「そもそも“世帯”という概念が、婚姻している男女カップル前提だから」である。
共同名義の住宅ローンを組みづらくて困るのは、ゲイカップルだけではない。男女の事実婚カップルも同じだ。
「どうせ水商売でしょ」と見た目や職業で差別を受けるのは、トランスジェンダー女性だけではない。シスジェンダー女性も同じだ。
高齢女性2人が助け合って暮らしていたとしたって、レズビアンやバイセクシュアルのカップルだとは限らない。「こんな年齢で結婚していないのはおかしい」と後ろ指をさされるのは、ゲイ男性だけとは限らない。
LGBT差別に困る人が、LGBTであるとは限らないのだ。社会の根本にある性差別を、「LGBTの人も受け入れてあげましょうね」みたいな上から目線かつ他人事目線なやり方で矮小化してしまうことは、むしろ差別の温存につながる。
では、どうすればいいのだろうか? それでは最後に、考える材料として、日本国外の例を見てみよう(そしてそれが本当に最善のやり方なのかも疑ってみよう)。
諸外国の入居差別禁止条項
日本の不動産業界で見られる、例えば「40歳以上不可」「外国人不可」「LGBTお断り」というような条件は、アメリカやフランスでは考えにくい。個人の特性、例として下記に挙げるようなことを理由とした入居差別は、法律で禁じられているからだ。
【アメリカ】
・人種
・肌の色
・宗教
・性別
・出身国
・家族構成(特に、18歳以下の子どもがいる家庭を保護)
・障害
(参考サイトはこちら)
【フランス】
・出身地
・苗字
・性別
・性自認(女性、男性、中性、無性…)
・家族構成
・妊娠または子育て中であるか否か
・性的指向(同性愛、異性愛、両性愛、無性愛…)
・身体的特徴
・年齢
・健康状態
・障害
・遺伝子的特徴
・宗教
・政治活動および労働組合での活動
(参考サイトはこちら)
ただ、こうしたことを「海外進んでる! 日本遅れてる!」と手放しに称賛するつもりもない。差別を法律で禁止することにより、差別をされた側が訴え出やすくなるというメリットはあるものの、差別をする側がそれを隠してしまうというデメリットもあるからだ。「レズビアンカップル? 私はいいんだけど、近所の人がね……」とかいう形で。
「LGBT差別禁止」の建前で差別を見えにくくするか、「LGBT入居可」タグで社会全体の性差別をLGBTのものみたいに切り離しマイノリティの選択肢を狭めるか。気が滅入るような二択ではなく、私は大家の方にこそ、堂々と正直に言ってほしいのだ。「うちのシェアハウスは35歳以下の美男美女でウェイウェイしたいのでそうじゃない人は入れません」と(※実話)。「うちのアパートは外国人不可だけどフランス人なら入れてあげなくもないかな」と(※これも実話)。
そうしたら、そういう大家をこっちから避けられて、便利だから。
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