「僕は、見た目は変わらないですけど、ちゃーんと進化しているんです」ーーソフトバンクのロボット「Pepper」は、2月7日に開かれた記者発表会の冒頭でこう述べた。
同会は、ソフトバンクロボティクスが翌8日から9日にかけて開催される法人向けイベント「Pepper World 2017」に合わせて設けられたもの。Pepperの新たな取り組みが紹介された。
これまでのPepperを振り返る
ソフトバンクロボティクスグループの冨澤文秀代表取締役社長が登壇。これまでのPepperについて振り返った。
Pepperの2016年の大きなアクションとしてはグローバルパートナーとの提携が挙げられる。1月にはIBM、3月にはマイクロソフト、そして5月には、Googleと提携。
冨澤氏は「いわゆる世界のITジャイアントの最新テクノロジーの中心にPepperがいる。そういった基礎固めができたと思っている。すでに開発が進んでおり、一部市場にも出ているが、今年からはPepperのスキルというか技術の幅が広がると思う」と述べた。
また、海外展開もスタート。中国ではアリババ、台湾ではフォックスコン、ホンハイとパートナー提携をし、既に実証実験が始まっている。
ただし、困難な点もあるようだ。冨澤氏は「海外展開については、本当はどんどんやりたいが、人と近しい存在ということで、各国でキャラクターや言い回し、距離感が全く違う。それを勉強して、どう反映させていくかというところに取り組んでいる」と語った。
半年前には「Pepper World 2016 夏」を開催。当時「(人型)ロボットがいるから珍しい面白い」という印象があった中で、「実際にロボットをビジネスに利用したらどれだけ売り上げが上がるのか、どれだけコストが下がるのか」というテーマに挑戦したという。「業種や役割ごとに、一番効果が出しやすい例を見せていくものだった」と冨澤氏は述べる。
ロボット大賞、総務大臣賞も受賞した。冨澤氏は「正直この事業が始まるときに、あまりにも突飛なものなので、何も起こらずに終わってしまうのではという危惧もしていた」と明かし、「結果として国から認められたのは一つ大きな達成ではあるのかな、と思っている」と述べた。
また、経産省で介護分野での実証実験のデバイスに認定された事例や、「Pepper社会貢献プログラム」として、282校へ2,000台の機体を3年間無償で貸し出すプロジェクトが進行していることも紹介。スマホアプリ「パズドラ」や、人気ドラマに登場するなど、キャラクターとして人気が健在であることもアピールされた。
Pepperを導入した企業は現在2,000社に上っており、業種・業界は様々だという。
2017年のテーマは「Pepperが進化させる」
こうした文脈を踏まえ、今年のメインテーマは「Pepperが進化させる Your Business Your Life」になる。
Pepperが進化するだけでなく、利用者のビジネスや生活が変わっていくというメッセージだ。
ビジネスシーンにおけるキーワードは「Service(案内・受付)」「Sales(接客・販売)」「PR(広告・CRM)」の3つ。従来の分析から、非常に高い効果が望めると想定される領域である。具体的には、コスト削減や売上アップ、認知向上などに効果が見込めるという。
一方、コンシューマー向けのテーマは、同社取締役 コンテンツマーケティング本部 本部長の蓮実一隆氏が登壇し、解説した。
同氏は冒頭で「よくよく考えると、Pepperが進化してもしょうがない。買っていただいた人が楽しかったなとか、頭がよくなった、健康になったと実感できるものを作らないといけない。『Pepperを進化させるという』というのは、ジコチューな感じがする。そうではなくて、一緒に暮らしていただいている皆様をいかにより良い暮らしに導いていけるかというところを真剣に考えた。今回はPepperを発表してから最大のアプリケーションのローンチになる」と述べた。
ビジネスシーンは決済/POSソリューションに注目
ビジネスシーンでの活用としては、Pepperを決済/POSのソリューションに注目したい。会場では、カフェを想定した接客業務が再現され、ゲストの益若つばささんがデモを体験した。メニューのオーダーから決済までの業務をPepperが担う。
筆者もPepper World 2017の展示場で接客のデモを体験した。頭部のカメラで顧客を認識し、おすすめの注文をお願いする場合には、その日の気分などを指定すると商品を提案してくれる。決済方法はiDやクレジットカードを利用でき、注文時に専用のリーダーにカードをかざす仕様だった。
コンシューマー向けはPepper Makerに注目
コンシューマー向けのアプリとしては「Pepper Maker」に注目したい。
Pepper Makerでは、約250種類の動きや、約150種類の音や画像、約70種類のセリフなど自由に組み合わせてオリジナルの動きを作成できる。
SDKの「コレグラフ」とは異なり、詳細なプログラミングができるわけではないが、容易にPepperの動作を指定可能。Pepperを自由に動かしたいというニーズを踏まえて開発された。なお、Pepperを持っていない人も、仮想のペッパーを動かして趣味レーションできる。
会場では、ゲストのロンドンブーツ1号2号・田村淳さんが、即興でPepperを動かすシーンもあった。
ちなみに、ほかの消費者向けアプリとしては下記のようなものが展開される予定。
Pepperヘルスサポート
具体的なアプリは2つ紹介された。1つは、脳医学博士・加藤俊徳氏監修の「pepper brain」。12種類1,000問以上の脳トレ問題が収録されている。
もう1つは精神科医・名越康文先生監修の「pepper healing」。顔の表情や声による診断と、それに応じた18種類のエクササイズを習慣的に行う仕様だ。
Pepper View
連携したスマホを用い、遠隔からPepperに乗り移れるアプリ。自宅にいるお年寄りやお子さんを見守るのに利用できる。
iRemocon for Pepper
IoTプラットフォームとしてPepperを利用できる。テレビやエアコン、照明などのリモコンを登録し、Pepperに話しかけて操作可能に。
バーチャルサラウンド
コルグのバーチャルサラウンド技術を生かし、前後左右から音がするように演出。旅行気分が味わえる「Pepper Imagination」や古典落語を楽しめる「飛び出すロボ落語」などのアプリが紹介された。
従来「草案」であった機能が、2017年は実際にビジネスシーンやコンシューマー向けに「実際に利用できる形」で提供されそうだ。いまや街中で見かける回数が増え、物珍しさは失いつつあるPepperだが、実利を伸ばすことで獲得した市民権を維持できるのか今後も注目である。
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