HOMECareer Runners THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱

THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱

U-NOTE編集部

2017/02/14(最終更新日:2017/02/14)


このエントリーをはてなブックマークに追加

THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱 1番目の画像
 トヨタ自動車では長年にわたってモータースポーツに取り組み、FIA世界ラリー選手権(WRC)、FIA世界耐久選手権(WEC)、ニュルブルクリンク24時間耐久レースなどにチャレンジしている。

 自動車製造を本業とするトヨタが、数々のレースに参戦するのはなぜか。その意義について、「TOYOTA GAZOO Racing」のマーケティングを担当する北澤重久氏にうかがった。

北澤重久|SHIGEHISA KITAZAWA 
トヨタ自動車株式会社 モータースポーツマーケティング部 部長
THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱 2番目の画像
トヨタ自動車株式会社入社後、販売店向けの営業企画職を経て、モータースポーツマーケティング部へ。「TOYOTA GAZOO Racing」のマーケティング担当として、WRC、WECなどのモータースポーツ活動に取り組んでいる。

哲学1:モータースポーツ活動を通じ、クルマを鍛え、人を鍛える

THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱 3番目の画像
写真左から、トヨタ自動車・専務役員 兼 TOYOTA GAZOO Racing Factory Technical Directorの嵯峨宏英氏、トヨタ自動車・代表取締役社長 豊田章男氏、WRCに参戦する「TOYOTA GAZOO Racing WRT」ドライバー・ラトバラ選手、チーム代表を務めるマキネン氏。

——北澤さんは、モータースポーツマーケティング部のリーダーです。どのようなミッションを担っているのでしょうか。

北澤:トヨタ自動車(以下、トヨタ)がモータースポーツに取り組む意義は、ただレースに勝つことだけではありません。ライバル、そして自分と戦う厳しい世界で、いかにしてクルマを安全かつ速く走らせるか。その点を突き詰めることで、クルマも人も鍛えられるんです。さらに、私たちが真剣にモータースポーツに取り組む姿を見ていただくことで、「クルマって素敵だな」「モータースポーツってかっこいいな」と思っていただきたい。モータースポーツを通じ、クルマをつくる技術や技能を高め、クルマ好きを増やすことが私たちのミッションです。

——現在、どのような選手権に参加されているのでしょうか。

北澤:さまざまな大会がありますが、代表的なのが以下の3つの競技です。

第一に、今年18年ぶりに復帰したFIA世界ラリー選手権(WRC)です。この選手権では、市販車をベースにしたクルマで競技を行ないます。しかも競技区間は公道。つまり、お客様が実際に使うマシン、道でクルマが鍛えられていくんです。「もっといいクルマをつくろう」という原動力につながっています。

第二に、FIA世界耐久選手権(WEC)です。中でも最も規模が大きいのが、ル・マン24時間レース。このレースで使用するのは、ハイブリッドカーです。最大のライバル・ポルシェよりも速く、しかも24時間しっかり走り抜けるか。エンジン、モーター、バッテリーなどの技術を磨きぬくため、エンジニアはまさに命を懸けるように力を出し尽くしています。新しい技術アイデアを思いつき、それを実現し、24時間以上耐えられる技術に高めていく。その繰り返しで戦っていくのがル・マン24時間レースなんです。今すぐ市販車に技術を転用できるわけではありませんが、将来的にはさらに燃費のいいクルマ、楽しく走れるパワフルなハイブリッドカーにつながっていくはず。より良いクルマの可能性を広げるために、レースに参加しています。

そして最後に、ニュルブルクリンク24時間耐久レースです。2007年からスタートしましたが、当時は社員チームでした。社員みずからがトヨタのクルマをレースカーに仕立てあげ、運転するのも社員。代表取締役社長の豊田章男が、ドライバーとして参加したこともあります。

コースは1周25kmのクネクネした山道で、アップダウンも激しく道幅も狭いんです。「究極のテストコース」と言われるような道ですから、どれだけテストを重ねたクルマでも予期せぬ不具合に見舞われます。若手社員が先輩とチームを組み、半年以上かけてクルマをつくりあげ、レースに出場する。想定し得ないトラブルを乗り越えて、24時間走り抜ける。こうした試練の場にさらされて、人が育っていくんです。元の職場に戻った後も、その経験は他の社員に継承されるでしょう。現在は社員ドライバーだけでなくプロも運転していますが、メカニックは社員。レースメカニックとしてはプロではありませんが、ドライバーの命を守るという意味ではプロでなければなりません。非常に意義深いレースですし、TOYOTA GAZOO Racingの象徴的な取り組みです。

哲学2:クルマが好きな人ほど、もっといいクルマをつくれる

THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱 4番目の画像
——社長みずからレースに参戦されているのは、驚きですね。

北澤:いちばんクルマ愛が深いのが社長だと思います。自動車会社で働く私たちにとっては、とてもうれしいし誇らしいですね。

とはいえ、従業員も同じくらい、もしくはそれ以上にクルマ愛を持てるようにならないといけないと思います。だからこそ、モータースポーツを通じてクルマの楽しさ、厳しさを社員にも知ってもらえたらという思いもあります。クルマが好きという気持ちを持つ人こそ、もっといいクルマをつくれる人。モータースポーツ活動がきっかけとなって、社員にも広くクルマの素晴らしさを知ってもらえたらという思いを強く持っています。

——お客様に対しては、どのような思いを届けたいですか?

北澤:レース活動で培った技術や発想を、市販車に活かすことが大切だと考えています。クルマには、「みんなでワイワイ乗れるから楽しい」「一人でリラックスできるから楽しい」「二人きりの空間になれるから楽しい」などさまざまな楽しさがあります。中でも、我々のセクションは「乗っていて楽しい、気持ちいい」と思っていただけるクルマをつくりたいと考えています。技術や技能を活かし、「もっと運転していたい」と思っていただけるクルマ、少し運転しただけで思わず笑顔になるクルマ、所有していることを誇らしく思えるクルマをしっかりつくっていきたいですね。

哲学3:一人でできる仕事はない。お互いへの感謝の気持ちが、いい仕事につながる

THE IMPRESSION|トヨタ自動車が誇るモータースポーツへの情熱 5番目の画像
——モータースポーツは、一人ではできないチームスポーツです。チームマネジメントについては、どのように考えていますか?

北澤:私個人は、一人でできる仕事などひとつもないと思っています。何ごとにおいても、人と一緒につくり上げていくのが仕事ではないでしょうか。

となれば、いかにみんなが同じゴールを目指せるか、互いの応援団になりあえるかが重要です。ことレースにおいては、ドライバーやメカニックなどチームが一体となってはじめていい結果を出せます。だからこそ、お互いにサポートし、感謝し合うことが大切だと思うんです。もちろんチーム内だけでなく、ファンの皆様への感謝も忘れてはなりません。ファンの皆様がいて、スポンサー企業の支援があるからこそ、レースは成り立ちます。ファンの方々と応援し合い、感謝し合って、モータースポーツを盛り上げていきたいですね。

クルマづくりも同じです。エンジニア、技能員、お客様のニーズをくみ取る営業など、さまざまな関係者の心がひとつになった時に、もっといいクルマができる。だからこそ、お互い感謝し合うことを忘れてはならないと考えています。

——最後に、今後のモータースポーツ活動の展望についてお聞かせください。

北澤:ともすれば、モータースポーツは道楽や遊びだと思われますが、そうではありません。より良いクルマを提供するため、ひいては自動車産業の発展のために必要不可欠な活動、自動車会社においては経営の根幹にある活動と言えるでしょう。モータースポーツで培った技術や技能が市販車につながり、乗ったお客様に笑顔になっていただく。こうしたサイクルがしっかり回るよう、今後も活動を続けていきたいと考えています。

自動運転機能の発達とともに、クルマは家電のような位置づけになりつつある恐れもあります。でも、クルマの運転は本来楽しいことなんです。行きたいところへ自由に行ける喜び、運転する楽しさを失ったら、クルマはどんどんつまらなくなってしまいます。クルマの魅力を実感していただくためにも、レースやラリーを通じて素晴らしい戦いをお見せしていきたいですね。


 創業者である豊田喜一郎氏は、次のような言葉を残している。

「乗用車製造を物にせねばならない日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである。単なる興味本位のレースではなく、日本の乗用車製造事業の発達に、必要欠くべからざるものである」

 トヨタのモータースポーツ活動は、まさに創業者の理念を受け継ぐもの。世界をリードする自動車製造企業がこの活動を続けることは、自動車産業全体の進歩、発展にもつながるはずだ。

INTERVIEW/TEXT:U-NOTE編集部
PHOTO:海老澤芳辰

hatenaはてブ


この記事の関連キーワード