AI技術の発展に伴い単純作業系の仕事は機械にとって変わられると言われる昨今。しかしAIも複雑で創造的な思考力を発達させてきているようだ。
AIがプロポーカープレイヤーに圧勝
1月30日、AI対人間の頭脳ゲーム戦にある衝撃が走った。ペンシルバニア州カーネギーメロン大学開発のAI「リブラトゥス」が、プロ4人との20日間にわたるポーカー(テキサス・ホールデム)対決において4人全員に勝利したのだ。
開発者であるトゥオマス・サンドホルム教授すら予想だにしなかったこの結末はどのような意味で重要なのだろうか。
ポーカーでは手札(テキサス・ホールデムの場合は場の共通札と手札)に強い役を作り勝負する。満足な役が作れない場合は、チップを大きく賭けてしまう前にその勝負からさっさと降りるか、ハッタリをかまして大きくチップを張るなどの選択肢が想定される。強い役が作れた場合は相手をうまく勝負に誘い出してチップを賭けさせなければならない。つまりポーカーとは不確定要素と駆け引き、読み合いがものを言うゲームだ。
オセロやチェス、碁などは手駒に不確定要素がなく、これまでにAIが人間を下してきた。そんななかテキサス・ホールデムはAIにとって最後の関門となっていた。
さらに驚くべきことに、「リブラトゥス」は基本的なルールだけを教えられた状態から自分で試行錯誤・学習して強くなっていったという。単に強力な論理的思考だけでなく学習能力や複雑な思考を要する駆け引き、不確定要素の処理までこなした「リブラトゥス」の一報は、AI技術の進歩への高揚感を感じるとともにどこか恐ろしくさえある。
“AI記者”が原稿を自動作成
1月25日、日本経済新聞社は上場企業の発表した決算データの要点を自動でまとめる「決算サマリー」とよばれるAIによる記事作成サービスをスタートした。
1月27日にはNTTデータが気象データをニュース原稿のような形に変換して自動生成するAIを開発、日本語的に違和感の少ない文章の生成に成功したと発表した。過去の気象データとニュース原稿をディープラーニング(人間の脳神経を模した多層なニューラルネットワークを用いた機械学習)で突き合わせて学習させたという。
これらの動向からはAIによる記事作成が注目の度合いがうかがえる。これらの技術を応用すればスポーツや経済など他分野でも“AI記者”が原稿を自動作成することが可能だという。AI記者の登場によって今後ニュース原稿作成は効率化が図られ、速報性の面でも向上していくことが考えられるだろう。
これまでも例えばiPhoneのSiriなどは、音声上はまだ多少の違和感が残るが字面だけ眺めるとほぼ全く違和感を感じない。それどころかふざけて突拍子のない質問をしても気の効いた返答が返ってくることすらある。
機械による文章作成力が向上していけば人間が文章作成者としてできること、やるべきことがより明確に差別化されていくだろう。
自動作曲:芸術を創造するAI
1月16日、大阪大学COI拠点と科学技術振興機構(JST)は脳波を解析し自動作曲するAIの開発を発表した。
これはヘッドホン付きの脳波センサーを装着しあらかじめ用意された曲を再生すると、脳波の解析、それに基づいて脳が活性化するような作曲・アレンジをMIDI技術により行ってくれるという画期的なシステムだ。
従来細かい曲の条件の指定などを必要としていた脳活性化目的での音楽療法はヘッドホン一体型の脳センサーの採用により大きく飛躍したといえる。これは芸術面よりも脳科学的な見地からの研究という意味合いが大きいが、AI技術は着実に芸術の領域にも進出し始めている。
昨年にはマイクロソフトなど多数のIT技術、芸術関連の団体が結集して進めているプロジェクト「The Next Rembrandt」が作品を公開した。
このプロジェクトではコンピューターがレンブラントの全作品の筆致、レイアウトといった癖や特徴をディープラーニング技術によって解析・データ化し、それをもとにレンブラントの“新作”を描きだし3Dプリントしたのだ。
こうした「らしさ」や作家性をAIに抽出し使いこなさせようという試みは日本でも実践されている。昨年、星新一の作品の特徴をもとにしてAIによって書かれた小説が文学賞の一次選考を通過したり、新渡戸稲造・福沢諭吉の著書をディープラーニングしたAI「零」による書籍が出版されたりと話題を集めた。
脳の構造を模したディープラーニング技術の発達によってAIは創造性の萌芽のようなものすら手にしつつある。こうした技術の登場は我々が人間らしさについて考えるきっかけとなるように思える。
特に芸術に関して言えば、この感情を表現したいというような自発的な欲求の爆発や、ある対象を決して見たままには再現できない人間の、そのバイアスのかかり具合こそが強みであり魅力だと思う。優れた芸術を目にして、わけもわからず泣きだしそうになる。そんな感覚をこそ大切にしていきたい。
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