東京オリンピックを3年後に控えた今年、国会ではテロ対策の法案を急ピッチで進めている。与党は「共謀罪」を「テロ準備罪」に名称を変更して、4度目の法案提出だ。
だが、法案によって市民の生活が脅かされるのではないかと野党、そして与党内からも指摘されている。共謀罪とはどのような罪をいうのか、そしてその問題点を簡潔に解説していく。
実行する前に逮捕できる「共謀罪」
共謀罪とは重大な犯罪にあたる行為を「団体の活動として」「組織により」実行しようと共謀すると、実際に行動に起こす前でも罰することができるというもの。
例えば、暴力団などの組織的な犯罪集団が行動を起こす前に検挙できるという。
法務省の定義は
数々の批判が多方面から飛び交う中、法務省はホームページで「共謀」に関してこのように説明している。
また、現時点でこの共謀罪の対象と想定しているのは、暴力団などの犯罪組織であって、市民が対象になるということはないと断定している。下の表は共謀にあたる例である。
出典:www.moj.go.jp 確かにこれだけを見ると、一般的な国民の生活における行為が罪に当たることはないように思われる。
共謀罪を制定するメリット
共謀罪を新たに設置するにあたって、今までできなかった重大犯罪の予備段階での逮捕ができることもそのメリットももちろんあるが、与党が考えているのは「国連組織犯罪防止条約」への加入である。
2000年に締結された国連組織犯罪防止条約に日本はまだ加入していない。その加入のために過去に3度法案が提出されたが、廃案になっている。今回は、オリンピックが控えていることやフランスで同時多発テロがあったことから、再び法整備に向けた動きが起こっている。
共謀罪って一言で言うと?
- 重大な犯罪にあたる行為を組織として共謀すると、事前に罰することができる
- 「国連組織犯罪防止協定」に加入するための法整備
万引きの計画までもが罰せられる対象に?
3度廃案になったことからわかるように、共謀罪は多くの批判を受けている。
その反論の中でも「日本弁護士連合会(日弁連)」の反対理由を紹介して、共謀罪の問題点を取り上げる。
あまりに犯罪となる範囲が広すぎる
日弁連が主張するのは、法案に含まれる対象罪状の多さだ。というのも、「テロ準備罪」として提出された法案には、対象となる罪がなんと600以上もの数に。その中には万引きやキセル乗車などの軽犯罪も含まれていた。
これらの類の犯罪を予備段階で検挙するには、基準が曖昧にならざるを得ないなど批判の声が多く上がった。公明党からも対象の罪の範囲を是正するよう要求が入ったため、現在は半数以下の300程度に抑えるよう調整中だ。
また、政府は共謀罪を成立させなくては条約に批准できないと主張しているが、日弁連の調査では国内の法制度を変えずとも批准している国は多くあるという。条約の条項を留保することも可能であり、条約批准のために法案を通すという筋は通らない。
監視社会になることへの恐れ
共謀罪への他の危険性は、恣意的に使用されることの恐れである。例えば、労働団体がストライキを企画し施設をロックアウトしようと計画すれば、共謀罪の捉えようによっては事前に検挙することが可能になってしまう。
他の企業やNGOなどにもこの危険性はないとはいいきれない。好ましくない運動を共謀罪によって取り締まることができる可能性も考えられるのだ。
また、共謀罪を立証するために、新たな操作手段が加えられることに対しても懸念の声が上がっている。事前の計画を明らかいするために、情報傍受が有効だと考えられることが想定できる。
ただ、このことに関して法務省は、新しい捜査法を加えることはなく、現行の法令の下に捜査を進めるとしている。
共謀罪への懸念まとめ
- 万引きなど軽犯罪が対象の罪に入っている
- 本当は条約を批准する条件には必要ない
- 労働組合や市民運動団体が処罰される可能性
- 情報傍受など新たな捜査方法が提案される可能性
テロへの危険性が高まり、各国がテロ対策を進めている現在、日本も然るべき法整備が必要なのかもしれない。だが、政府案はまだまだ対象や基準が明確でないことから、基本的人権を犯してしまう危険性が感じられる。
共謀罪を新設するのならば、対象を絞り込み明確な基準を掲げることで、共謀罪の多用を防ぐべきである。そこから必要な事項を加えていくのが、紹介した様々な観点から考えても筋が通っているのではないだろうか。
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