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背水の陣で臨む新型ゲーム機「Nintendo Switch」:変わりつつある“京都の老舗”任天堂

菊池喬之介

2017/01/30(最終更新日:2017/01/30)


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by mugwumpian
 ついに任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」が3月3日発売予定。実に4年振りの同社新型ゲーム機に、ユーザーの期待は否応なく膨らんでいる。

 昨年は「ポケモンGO」や「スーパーマリオラン」など社会現象を巻き起こしたタイトルを送り込んできた任天堂が発表した渾身の新ハードとなる。

 ただ、最近の任天堂と言えば「Wii U」が「Wii」の一割程度の販売台数に終わったこともあり、ニンテンドースイッチは救世主となり得るのか。ニンンテンドースイッチの特長を紹介するとともに、任天堂のゲーム業界に置ける立ち位置を検証していく。

任天堂らしいニンテンドースイッチも下馬評は振るわず

 4年振りとなる任天堂の新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」は3月3日に2万9,980円(税抜)で発売されることが明らかになった。今月14日、15日には実際にニンテンドースイッチをプレイする体験会も開催された。

3つのプレイモードでどこでもテレビゲーム感覚


  ニンテンドースイッチの最大の特徴はプレイする場所に合わせて3つの遊び方ができるところだ。本体をテレビに繋げることによって据え置き型ゲーム機として遊べる「TVモード」。本体備え付けのスタンドを立てることで、テレビがなくても遊べる「テーブルモード」。

 そして、本体にコントローラー「Joy-Con」を装着することによって携帯ゲームとして遊べる「携帯モード」の3つのモードで遊ぶことができる。
 
 また、Joy-Conにも工夫が凝らされている。新たに導入された「モーションIRカメラ」によって従来のWiiのように体の動きを使った操作が可能だ。

 さらに、コップに氷を入れたときの感覚まで再現する「HD振動」も搭載。従来の振動機能と違い、繊細な感覚を伝えることが可能で体験型ゲームの幅が広がった。

 リモコンを取り外すことで二人で楽しむことができることやシーン別で遊び方を変えることは、ファミリー層を意識した任天堂ならではの発想だと感じる。

下馬評は高くないニンテンドースイッチ

 「待ちわびていた」という反応がある一方、期待はずれだとするユーザーの声も多く聞かれる。ニンテンドースイッチ発表以前、任天堂の株価は約2万5,000円をつけていたが、2万3,000円まで急落した。

 昨年の「ポケモンGO」や「スーパーマリオラン」によってピーク時は7万500円まで株価を上げていたが、ブーム以降は緩やかに低下。ニンテンドースイッチの発表がきっかけで、さらなる下落に拍車をかけることとなってしまった。

 その理由の一つは2万9,980円という高いとも安いとも言えない価格設定にある。ライバル機のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)「PlayStation 4(PS 4)」と比べ、それほど価格優位性がないという見方が多い。PS4はコアユーザーが多いため、高額な価格設定でも一定の販売は期待できるが、ファミリー層などのカジュアルユーザーも重視する任天堂では本当に売れるのかと疑問符がつく。

 また、PS4はゲーム業界以外からも大きな注目を浴びているVR機器「Play Station VR」を発表。それに比べるとニンテンドースイッチのインパクトは薄いという声も上がっており、風向きは厳しい。

旧態依然とした体制を変えつつある“京都の老舗”

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by keiichi.yasu
 前項で述べたように、「Wii U」の不振などで任天堂は伸び悩んでいる。スマホゲームの急速な普及で携帯ゲーム機の需要は減り、家庭用ゲーム機に関してもコアユーザーをターゲットにするPS4に差をつけられた形だ。

 任天堂の低迷の原因はどこにあるのか。100年以上の歴史を誇る任天堂の欠点は良くも悪くも旧態依然とした体制にあった。

「ファミコンビジネス」から脱却できるか

 任天堂は今でも世界トップクラスのゲーム会社であることは間違いないが、ピークに比べるとその勢いはまちがいなく落ちている。もともとかるたや花札を作る会社として1889年に創業された任天堂。1983年の「ファミコン」の発売により世界的企業に成長することとなる。

 これ以降も初の2画面式システムを採用した「ニンテンドーDS」や全く新しい体験型ゲームの「Wii」など“任天堂らしい”ゲーム機を開発してきた。これらのゲームの特徴一つは、「家族向け」つまり「誰でも楽しめる」ということが挙げられる。

 Wii発売以前はSIEのPS2が家庭用ゲーム機市場を席巻していたが、Wiiが提案するコアゲーマーだけでなく、カジュアルゲーマーも楽しめるゲーム体験は多くのユーザーに受け入れられた。また、身体を使った体験型ゲームという新鮮さは当時のユーザーを虜に。

 任天堂の最大の特徴はそのハードを安く、ソフトを高くというビジネスモデルだ。ファミコン以降、ソフト開発を行うサードパーティからライセンス料を取り、実質的にゲームが売れなくてもある程度の利益を確保できる構造となっていた。

 このビジネスモデルではサードパーティは不利な立場にある。ビックネームの作品やスポーツゲームなどの安定した利益を生み出す作品でないとリスクに。したがって、スマホゲームの普及に伴い新しいゲーム開発を任天堂のゲーム機で進めるサードパーティは減ってしまったと言われている。

 このような背景があり、Wii Uではゲーム作品数の少なさから失敗に終わってしまった。ニンテンドースイッチでは、この欠点をどこまで改善できるかという点が成功へのポイントとなるだろう。

 実際、任天堂はこの教訓を生かした一面が垣間見える。ニンテンドースイッチの発表に伴い、ビックネームを次々と発表。「ゼルダの伝説」だけでなく、サードパーティであるスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエスト」が同時発売、「スプラトゥーン2」が今夏、「マリオ」最新作が来冬など胸踊るラインナップになっている。

スマホゲームブームにようやく踏み込んだ任天堂

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by edowoo
 2015年にはDeNAとスマホゲームの共同開発を合意。そして昨年のポケモンGOブームは記憶に新しいことだろう。

 ポケモンGOは開発、配信はナイアンティックが手がけており、部分的な利益を受け取る立場に過ぎないが、任天堂が持つ「ポケモン」ブランドの力を見せつけた。

 さらに昨年末には任天堂が直接手がける「スーパーマリオラン」を配信。短期的とはいえ、ブームになった。今年に入ってからも「ファイヤーエムブレム」や「どうぶつの森」のスマホゲームを配信予定とこの市場にも意欲的だ。

 遅すぎる参戦ではあるが、スマホゲームを手がけることはゲーム機の販売にも有利に働くはずだ。ポケモンGOのようにスマホゲームでキャラクターが認知されることによって、ゲーム機への販売促進も期待できる。

 変化が見え始めている“京都の老舗”。だが、今回のニンテンドースイッチの発表でもソフト数の少なさを指摘する声も少なくなかった。このイメージを払拭しなければ、失敗をまた繰り返すことになるかもしれない。

 技術力や斬新な製品を開発できる力を十二分発揮しようとしている、背水の陣で臨む新型ゲーム機ニンテンドースイッチ。世界的な「ゲーム界の巨匠」の反撃に期待したい。

©️Nintendo

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