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マグロに続け!養殖フグの無毒化計画

Ai Maeda

2017/01/27(最終更新日:2017/01/27)


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マグロに続け!養殖フグの無毒化計画 1番目の画像
出典: Amazon.co.jp

 2016年11月、有毒として食品衛生法により販売が禁止されているフグの肝について佐賀県とフグの業界団体で論争が起こった。養殖フグの無毒化研究を進める県によると、天然フグは海底に住む毒を持つプランクトンを食べることで有毒化されるが、養殖フグは水槽で無毒な餌を与えて育てるために「無毒」だという。
 
 フグの毒テトロドトキシンは青酸カリの1000倍の毒性があり、中毒事故や天然フグでの死亡事故もある。毒性を溜めこむ肝や卵巣は販売が禁止されてはいるものの、特殊な製法を使うと無毒化されると伝えられ珍味として知られてきた。

 今回は縄文時代からフグを食べ、海外から恐れられてもなおフグを食べ続ける日本人の情熱と研究について伝えたい。

フグ食の歴史

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 縄文時代の貝塚からフグの歯が出土し、平安時代の本草書である本草和名にも「布久」という名称でフグが登場することから、日本人は古来よりフグを好んで食べていたことが分かる。

 しかし、戦国時代になると文禄・慶長の役のために九州に集結した武士がフグによる集団中毒を起こしたことをきっかけに、天下人であった豊臣秀吉によりフグ食は禁止されてしまった。

 江戸時代になってもフグ食を禁止する藩は多く、特に禁止のきっかけとなった長州藩は厳しい決まりをもっていた。食べていたことが分かった武士は家禄没収等の罰を処せられていたのだが、禁止されたら食べたくなるのが人間の性であり隠れて食べている人は多かった。
 
 江戸時代を代表する大のフグ好き小林一茶は齢50にして初めてフグを食べ「こんなに美味しいものだったとは」と感動し、フグを食べる勇気がないものは富士山を見る資格もないという歌まで詠んでいる。対して松尾芭蕉は「わざわざ毒のあるフグを食べるとはなんと浅はかなことか」と呆れた想いを読んでおり、江戸文化にフグが溶け込んでいたことが伺えるだろう。

 明治時代になると、下関を訪れた際立ち寄った料理屋で禁止されていたフグを出され。その味に感動した伊藤博文が県令へ直々に禁令解除を願い出た。これにより山口県はフグ食が解禁されたが、実は全国でフグを堂々と食べられるようになったのは太平洋戦争後のことである。まだ70年ほどの歴史しかないのだ。

 2300年前の中国の歴史書『海山経』に「ふぐを食べると死ぬ」という記載があることや、3500年前のエジプト・ハトシェプト女王葬祭殿壁画にもフグの絵があることから、フグは古くから世界においても食べられていたことが分かる。

無毒化フグの養殖法

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by BONGURI

 フグの養殖方法は2つある。海を網で区切って使用する海面養殖と、陸の上で完全に人工的な環境で育てる陸上養殖だ。
 
 今回県が訴えているのは、陸上養殖で育てたフグの無毒化証明である。フグは海底に住む有毒なプランクトンを食べることで内臓が有毒化すると言われているので、海と接することがなく無毒な餌を与える陸上養殖で育てたフグは有毒なプランクトンも食べず無毒なフグに育つという考えだ。原理的には正しいのだが、ではどうして認められないかというと、フグの生態研究が進んでいないことが挙げられる。

 全国的な解禁からまだ70年しか経っていないフグは生態に不明な点が多い。石川県金沢市の名産「ふぐの子」は卵巣をぬかやかすで漬けたものだが、これもどういった原理でテトロドトキシンが解毒されるのかが分かっていないために、金沢県の限られた名店のみでの生産しか認められていない。

 この状況下で陸上養殖という一部の養殖フグが無毒であることを認めてしまうと、一般に混乱が起こることも予測されるだろう。海面養殖はプランクトンの住む海と接しているために無毒である根拠はないにも関わらず「養殖」ということで勘違いをされてしまうかもしれない。万が一の事態に備えているのだ。
 
 また一説には、フグの毒テトロドトキシンは彼らが生きるために必要だと言われている。無毒化したフグは寄生虫に対する抗体をもたないので感染しやすいのだ。ストレスを受けやすいことも分かっており、フグは意図的に毒を溜めていたのではないかという仮説も立てられた。

陸上養殖フグを認めるメリット

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出典: Amazon.co.jp

 しかし、フグの無毒化を認めるメリットもある。フグを食べる国は少なく、中でも刺身を好むのは日本ぐらいである。同じフグ好きのエジプトでは唐揚げにして食べることが多く、その他の国々では松尾芭蕉と同じ「有毒なものを食べるなんて」という姿勢だ。

 タコやイカに続いて世界で好まれないものをこよなく愛する日本人だが、これは日本食ブームの新たな燃料になると考える。マグロの刺身をはじめとする生魚も最初は抵抗があったようだが、今では寿司が世界的フードとなっているところを見ても、可能性はあるだろう。マグロは食べられすぎて問題になっているくらいだ。

 フグの養殖を研究しているのは日本だけという点もポイントだ。このまま無毒化を証明することができれば、日本はこの分野において第一人者となる。「無毒」ということをアピールすれば、毒があるからと口にしない海外の方がチャレンジするきっかけにもなるだろう。


 日本のフグ消費量の6割は関西だ。関西ではフグを「ふく」と良い、食べることで福が来るという掛詞の意味も持っている。陸上養殖には多大なコストがかかることやフグの生態を解き明かさないことには認められない等、道は険しいが、大のフグ好きである筆者は危険性があっても食べてしまう。棘のある薔薇のような魅力を秘めたフグの美味しさが世界中に広まることを願っている。

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