中国でまたネット規制強化の動きがあった。海外の人気サービスが政府によってことごとくシャットアウトされてしまっている中国国内のインターネット事情だが、規制の影響や理由について考えていく。
「抜け道」VPNの規制強化
1月22日、中国工業情報化省のある発表が話題に。政府の許可のないVPN(仮想プライベートネットワーク)が禁止されることとなったのだ。
VPNはインターネット利用者間で形成されたプライベートな通信経路のことを指す。一般には第三者の侵入を防ぐセキュリティ的意味合いで使用されることも多いVPNだが、中国の場合はインターネットを利用する一部の住民にとって手放しがたい存在となっている。
というのも、中国は自国ネットワークに対し「金盾」または「グレート・ファイヤウォール」などと呼ばれる検閲システムをかけている。この厳しい検閲の影響で中国ではFacebookやTwitter、LINE、Googleの検索エンジンなど、主要な海外の人気サービスのほとんどの使用が禁止されている。
この過剰にも映る厳しい検閲システムのせいで、閲覧が禁止されていないサイトのロードも重くなってしまったりと、中国国民や旅行者の不満の種となってきた。
そのため中国ではこうした検閲の目をかいくぐり、海外のサービスにもアクセスしてネットを楽しむためにいわば「抜け道」としてVPNを利用するケースが多い。
今回の無許可のVPN規制によって中国国民で海外のサービスを享受してきた人はもちろん、海外から仕事などで中国に赴任してきている人も影響を受けるだろう。海外と連絡を取るには海外のサービスを使用するのが手っ取り早い。
米サイバースパイ行為の影響も
2011年には米WTO大使から中国WTO大使に対し、ネット規制の理由や基準の説明を求める書簡が送られた。ここでは中国に対する疑問が、米国企業の中国消費者へのアクセスに対する不当な妨げである、という通商問題として結実した形となった。しかしこれ以前にも、人権や言論の自由と言った観点から同様の疑問が提起されてきている。
中国は「インターネット主権(サーバー主権)」の理念を提唱している。これは各国が各々の統制によって自国に合うようにインターネット環境を最適化していくべきであり、そこに他国の干渉を認めるべきでないという立場だ。
2016年11月、浙江省・烏鎮(せっこうしょううちん)での「第3回世界インターネット大会」におけるスピーチ内で、習近平国家主席は改めて「サイバー主権を堅持」する姿勢を述べた。
こうした他国の介入を許さない各国によるインターネット環境の管理という理念の強調には、2013年のエドワード・スノーデン氏の暴露によって明るみに出たアメリカのサイバースパイ行為も影を落としているだろう。かつて人権や自由の観点から中国の規制を批判したアメリカの立場はやや悪くなってしまう。
中国としてはアメリカのインターネットへの影響力が強すぎるという考えからこうした理念を支持するが、アメリカの影響が小さくなればインターネットが個別化・乱立化の道をたどることも考えられる。しかし地球上どこの地域とも簡単に繋がれるという包括性やグローバルな性格こそ、インターネットを特徴づける要素ではなかったか。
言論統制、人口、産業育成:考えられる理由とは
実際のところ、中国が世界から孤立してまで厳しいネット規制という立場を貫くのには、どういった実際的な理由が考えられるのだろうか。
言論統制
何かにつけて暴動やデモが多発する中国。SNSや掲示板などはそういった集会やデモの温床之なる恐れがあるから規制するというわけだ。「金盾」検閲の対象には海外の人気サービスのみならず、反体制的な思想を持ったサイトも当然含まれる。
2010年から2012年にかけての中東・北アフリカでの民主化運動アラブの春では、民衆が蜂起するきっかけとしてSNSが一定の役割を果たしうる、ということを世界に知らしめる結果となった。
サーバー過負荷の問題
甚大な数の人口を抱える中国では、中国と海外のネットワークをつなぐ入り口部分に海外の人気サービスを求めて国民のアクセスが多数殺到すれば、サーバーダウンという事態が頻発することは十分考えられます。国内のインターネットの安定性を保つためにも海外サービス規制は避けられないことなのかもしれません。
“荒らし”を未然に防ぐ
海外のサイトの掲示板やコメント欄に中国人が悪質な書き込みをしてしまうとどうなるか、という問題があります。万国共通どこの世界にも善い人が居れば悪い人も居り、犯罪者や心無い人の存在は人類共通の普遍的な問題であると言えます。
しかし世界一位の人口を誇る中国人の場合そうしたネット上での悪質な振る舞いが割合ではなく総数で判断され、「中国人はネットマナーがよくない」などと国際的な問題となる懸念も確かに捨てきれません。
自国産業の保護・育成
上述した対アメリカを意識したネット戦略という部分とも重なってくるが、外国のSNSをシャットアウトしたことには、微信(ウィーチャット:メッセージングアプリ)や微博(ウェイボー:中国版のツイッターのようなもの)といった国内ネット産業が力をつけていく土壌を整える、という狙いも見える。2014年7月にシャットアウトされたLINEは微信にとってまさにライバルであった。
一般のネットユーザーにとっては不便なことの多い中国のネット規制の背景には、サイバースパイへの警戒のほか、世界トップの人口を抱える中国ならではの理由もありそうだ。うやむやになりがちな当問題だが中国政府の口からも明確に語られることを願う。
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